第27話 家出ギャルの避難所
かなり疲れるプレゼント探しからようやく解放された。
帰り道、一人になってため息を吐く。
結局、夢衣は俺の提案通り日傘を購入していた。
深刻な温暖化の影響で、これからのシーズンを対策無しで歩くのは自殺行為だからな。
普通に実用的なプレゼントだし、俺のぬいぐるみなんかよりは困らないだろう。
帰宅後早々にぬいぐるみを自室押し入れへ投獄。
あと数日はここで誰の目にもつかぬよう眠ってもらう。
特に俺の視界に入らないように。
こいつの顔を見ていると、綺季に喜んでもらえるかな?とか、綺季にドン引きされないかな?とか、よくない考えが堂々巡りしてしまう。
不安に駆られるので、そもそも存在を俺の意識外に隔絶したのだ。
にしても、プレゼント選びというのはかなり精神を擦り減らす作業だった。
昔は何も考えずに渡せていたが、流石にこの年になるとそうもいかない。
関係性も微妙だし、余計に懸念材料が多かった。
と、一仕事終えてようやく息をつこうとした時の事だ。
インターホンが鳴って俺の休息は遮られる。
「全く、誰だよ人が休もうとした瞬間に……」
思い当たる人物といえば夢衣くらいだが、さっきまで一緒に居たのにわざわざ時間差で押しかけてくる理由が見つからない。
親父なら無言で鍵を開けて入ってくるだろうし、そもそも今日は休日出勤が必要なレベルで仕事も大詰めだと言っていた。
帰ってこない可能性も高い。
じゃあ誰だ?
直近で訪ねてきたと言えば綾原ママくらいだが、流石に一対一で相手するのはしんどいなぁと目を細める。
嫌いなわけではないし、なんなら昔は母同然くらいの距離感ではあったが、どうも口うるさいのがな。
とか失礼なことを思いながら玄関に出ると、そこにいたのは予想外の人物だった。
「……へ?」
「……」
綺麗に染められた金色のロングヘアに、不満げに吊り上がった猫のような目、そして視線を下ろすと窮屈にシャツを押し上げるデカ過ぎるおっぱい。
……昼にファミレスで話した金髪ギャルの幼馴染が、何故かいた。
「泊めて」
「……随分急だな」
「仕方ないじゃん。バイトから帰ったら親に説教されてウザかったの。夢衣とも微妙なままだし、親には勉強しろって詰められるし、居心地悪くて」
「で、どうして行く当てがうち?」
「は? 文句あんの?」
「あるだろそりゃ」
いくら言いなりの俺と言えど、ここは譲れない。
珍しく強気に出た俺に、綺季が目を見開いてたじろぐ。
よく見ると手にはスーツケースを持っていた。
マジで泊まる気らしい。
「他の友達の家に行け」
「……諸事情でちょっと今は無理なの」
「? じゃああきらめろよ」
「無理。ってかそもそも夢衣と変な感じになってるのはお前のせいでもあるんだから、責任取れよ」
「……ふぅん、そういう事言うんだ?」
割とレスバも強いじゃないかこの女。
「ファミレスじゃ怒ってないって言ってただろ」
「それとこれとは別。気まずいもんは気まずいでしょ」
「でも何日泊まる気だよ。親父もいるのに」
「数日でいいって。それに、おじさんなら話も通じるし絶対匿ってくれるじゃん」
昔からうちの親父は姉妹に甘かった。
几帳面な綾原ママの圧に、一緒に居る時はガス抜きをさせてやっていた。
そのおかげで二人もうちの親父にそこそこ懐いていたのを覚えている。
確かに突っ返しはしないだろう。
が、俺は困る。
数日間この女と共同生活とか、無理過ぎるだろ。
「どうしてもダメって言うなら、こっちにも考えあるから」
「一応聞いとくけど、考えって?」
「なんでも言いなり刑の権利で命令する」
「どっちにしろ俺に拒否権はないのか」
そんな事だろうと思った。
項垂れている俺を他所に、許可もしてないのに玄関に入り込んでくる綺季。
妹に負けず劣らずの傍若無人っぷりである。
いや、なんならこっちの方が圧も強くて脅威かもしれない。
◇
家に帰ってすぐ、綺季はきょろきょろと辺りを見渡した。
「あれ、おじさんは?」
「今日は休日出勤。外に車もなかったろ?」
「道理で。ふーん、丁度いいタイミングで来たのね」
「……?」
怪しげな事を言う金髪ギャルに俺は眉を顰めて身を抱く。
と、それを見て綺季が慌てた。
「へ、変なこと考えてるでしょ!」
「いやだって、言い方が悪いじゃん」
「変に気まずくなくていいって意味! それ以上はないから!」
「はいはい」
流石に貞操観念は妹とは大違いらしい。
あっちは親父がいないと見れば、妙に誘ってくるからな。
そう言えば今日の夢衣は特にエロい誘いはしてこなかったが、よほどこの前の事件が効いているのか。
なんにせよ俺にとっては好都合だ。
綺季をこうして家に上げるのは、案外初めてかもしれない。
この前俺に体操服を着せてきた日があったが、あれは夢衣が一緒だったからな。
綺季が一人でうちに来るのは、高校に入って多分初めてだ。
高頻度で話し始めたのも新藤先輩との一件で、俺が言いなり奴隷になったのがきっかけだし。
相手が綺季という事で、俺は安心しきっていた。
だがしかし、ソファに座った彼女の一言で流れが変わる。
「ねぇ」
「何?」
「……アタシとは、シたいと思わないの?」
俺は手に持っていたコップを落とした。
辺りがお茶で濡れていく。




