第25話 陰キャに最も縁のないゲーム
ぬいぐるみを収穫した後、歩いていく夢衣に付いていった。
先程までずーっと俺の行動に合わせてくれていたのに、何故か急な動き出し。
余程俺のプレゼント選びに呆れたのか、よくわからないところだ。
俺は困惑しながらそんな彼女を追った。
と、しばらく行ったところで彼女は急に足を止める。
俺は首を傾げた。
「夢衣は何か遊ばないの?」
ゲーセンに入って以降、夢衣はずっと俺についてきていただけだし、何故来ようと思ったのか疑問だった。
だから聞いたのだが、彼女は黙って俺の方を振り向く。
そのまま後ろにある筐体を指した。
よく見るとそこには、この世界に存在する中で最も俺に無縁なゲームがあった。
「あれやろうよ」
「本気で言ってる?」
目の前にあるのは、いわゆるプリクラである。
男性のみの使用をそもそも禁じられた秘境。
一緒に入るような女友達もいなかったため、俺にとっては本当に縁のない文化だ。
特に家が父子家庭だったこともあり、幼少期に母親達に連れられて~みたいな経験も勿論ない。
ずっと、心の中でひそかに嫉妬していた。
インスタやらラインのアイコンやらに彼女と撮ったプリ画像を載せている連中に、俺は醜くも分不相応に羨ましがっていたのだ。
女のプリは友達付き合いの延長や遊びの記録。
しかし、男のプリはリア充である事を誇示する見せつけでしかない。
女友達含めて集団で撮りましたーってのも勿論ウザいが、一番気に障るのは彼女と二人っきりで撮ってる奴ら。
俺たちオタクは、そういう輩に血の涙を流しつつ、常日頃から薄暗い感情を抱いて生きている。
「おーい。固まってどした?」
「……お、おう」
「いや、答えになってないし。ってか目がキマっててキモ」
失礼なことを言われても、この際どうでもいい。
だって、今からプリクラを撮るんだから。
女子と二人きりで、リア充証明書を発行できるのだから……!
拳を握り締め、きゃぴきゃぴした見慣れないボックス型筐体を睨む。
あと少しだ。
これで、晴れて俺も今日からそっち側なのだ。
相手が幼馴染という事を考えなければ、女子と二人きりでプリを撮ったという偉業だけが形に残るわけで、しかも相手は誰もが羨む校内随一の人気女子。
この機を逃すわけにはいかない。
「どうする? 撮る?」
「ま、まぁうん。撮ろうか……!」
「あはは、なんか意識してる? 小銭作ってくるから待ってて」
俺の緊張が透け見えているのか、夢衣は苦笑しながら一旦去って行った。
◇
夢衣は真桜賭と離れた後、深呼吸しながら足早に両替機に向かう。
「……へ、へへ。真桜ちゃんとプリでツーショとかガチ神じゃん」
不気味に独り言を漏らす姿に周囲の客がドン引きするが、本人は気にも留めない。
それほどまでに、興奮していた。
夢衣は直前の真桜賭の態度を見て、ひそかに嫉妬していた。
「お姉ちゃん、いいな。あんなに必死にプレゼント選んでもらえてさ」
真桜賭のぬいぐるみを取る真剣な表情には、つい見惚れてしまった。
あまりにも気合が入った顔に、つい羨ましくなる。
真桜賭はいつも自分にはつんけんした物言いだし、正面から愛を持って向き合ってもらえている姉に、思うところがあったのだ。
もっとも、それもこれも普段の横暴な態度故なのだが、夢衣本人はつゆ知らず、そして気に食わない。
夢衣は人一倍独占欲が強い女である。
次女として幼少期から姉や母に世話されることも多く、基本的にわがままが通ってしまったのも原因だが、元から気になるものは全て自分の手中に収めたいと思う気性だった。
そして極めつけは幼馴染の真桜賭との関係。
弟みたいに自分たちの後ろをよちよち歩いてくる彼に、若干歪んだ愛を持ってしまっていた。
性格や年齢差もあり、自分の言葉に逆らわない真桜賭が夢衣の中ではいつしか自分をいつも肯定してくれる絶対の味方のような存在になっていた。
そんな存在に依存した彼女は、姉の綺季よりも自分と遊んでいる真桜賭に満足し、自身の独占欲を満たした。
そしてそれが、この年齢まで続いているというわけだ。
真桜賭の中の一番は、綺季より自分でなければ気が済まなかった。
執拗に関係を持とうとしたのも、姉より先に真桜賭の貞操を奪いたかったからだ。
「お姉ちゃん、絶対真桜ちゃんの事意識してるし。あの人に取られるとか、あり得ないから」
両替を済ませ、ニヤリと笑う夢衣。
彼女は心の中で甘い想像をする。
真桜賭と二人で中に入り、わざと密着して写真を撮ろう。
顔を真っ赤にして焦る幼馴染を思うと笑いが抑えられない。
そしてその二人で撮ったプリクラを、今度は姉に見せるのだ。
その時、綺季はどんな表情をするだろうか……と邪悪な笑みを漏らす夢衣。
「ま、別に私は真桜ちゃん狙ってるわけじゃないけど」
頬を赤く染めつつ、誰に言うわけでもない謎の弁明を漏らす夢衣。
やや決まりが悪いのは、自身の本心に気付きつつあるから。
そんな甘い感情をプライドに任せて振り切り、再び悪友の幼馴染として真桜賭の元へ向かう、その時だった。
「あれ、夢衣~?」
彼女は背後に人影を察知し、恐る恐る振り返る――。




