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第17話 強面先輩は情けなく腰を浮かせる

 綺季は驚いたように立ち竦んでいた。

 それを見ていそいそとブツをしまう新藤先輩と、スカートを下ろす先輩女子。

 そしてさらにそれを物陰から覗く観測者二名。


 授業中の高校内で起こるハプニングとは到底思えない惨事に、金髪ギャルは口を開いた。


「……何やってんの」

「う、うっせえ。お前に関係ないだろ」

「いやまぁ、そうだけど」


 綺季は新藤先輩に好意なんか持っていない。

 だから彼女にとって新藤先輩が何をしていようと、本心から興味がないのは事実だ。

 とは言え、あっさり言われると傷つくのが女々しい強面の新藤ジャレン。

 

 素知らぬ顔で脇を抜けて退場していく先輩女子を無視したまま、綺季は溜息を吐いた。


「っていうか、なんでいるの?」

「オレがどこで何しようがお前には関係ないんじゃなかったのか」

「それはそうだけど、タイミング的にさ」


 綺季は周囲をチラチラ見渡しては首を傾げる。

 どうやら、誰かを探しているようだ。


 ふと怪訝に思い、俺は抱き着いてきている黒髪ギャルに聞く。


「……お前、まさかあの人を呼んでないよな?」

「……ううん。お姉ちゃんを呼んだのは私で合ってる」

「……はぁ?」


 まさかと思って聞いたのに、その最悪の予想が当たってしまった。

 

「……な、なんでだよ」

「……二人の関係がおかしいから仲裁してあげようかと思って」

「……じゃあ何故俺たちは今抱き合っている?」

「……それは、成り行きみたいな? てへっ」


 至近距離で照れてくる夢衣に殺意が沸いた。

 こいつ、ふざけてやがる。

 なんでよりによって姉を呼びつけた場所で幼馴染と事に及ぼうと思ったんだ。

 前から変な奴だとは思っていたが、本当に頭おかしいんじゃないのか……?


 絶句する俺に、夢衣は言ってきた。


「……わ、私だって予想外だったの。休み時間に来てって言ったのに授業始まっても来なかったから、もう来ないもんだと」

「……ちょっと遅れただけって可能性もあったろ」

「……あの人ってママに似て几帳面だから約束に遅れることなんかないじゃん。しかも最近はデフォでいつも機嫌悪いから、今回は普通にすっぽかされたと思ったんだよ。それはもう私のせいじゃなくない? は? なんか文句ある?」


 言われて土曜のデートを思い出した。

 そう言えば当たり前のように待ち合わせ10分前には居たもんな。

 約束を破るイメージは確かにない。

 その辺、あの口うるさい綾原ママに似たのだろう。


「……まぁ仮にそうでもこの状況はお前のせいだけどな」


 現在、俺の腰辺りに乗ったまま抱き着いてきている。

 しかも彼女は下を脱いだままだ。

 正直制服の生地の上から生尻の感覚が伝わってきており、居た堪れない。

 というわけで、この状況を綺季に見られたらいよいよマズい。

 気まずくなって、ただでさえ冷え切っている俺と綺季の関係はさらに悪化するだろう。

 というより、こいつら姉妹の関係の方が心配だ。


 そして、俺達が慌てるのを他所に綺季達も剣呑な雰囲気になっていく。


「っていうか、授業中も我慢できないとか猿なの? キモ過ぎ」

「ッ!? はぁ!? お前だって屋上なんかに来て何の用だよ! さてはお前も誰かとセックスしようとしてたんじゃねえのかよ!」

「は? アタシを呼びつけたのは妹だけど。お前と一緒にすんなよ」

「チッ! 最近調子乗り過ぎだろお前。毎度口答えしやがって」


 新藤先輩が一歩前に出ながら、綺季を睨みつけた。

 この前みたいに、一触即発の雰囲気だ。

 場所が場所という事もあり、綺季は身を抱いて一歩引く。

 

「な、何?」

「良い所で邪魔したんだからお前が責任取れよ」

「は? ちょっ! 近づくな!」

「オレに命令すんな。早く脱げよ。もう許さねえ」

「む、無理に決まってんでしょ! キモ過ぎなんだよお前!」


 これはヤバいと思った。

 この前のフードコートの時は人の目もあったからよかったものの、ここは完全に隔離された無法地帯だ。

 口ぶり的に、新藤先輩が綺季に今から何をするかなんて誰でもわかる。


 くそ……!


 見て見ぬふりなんかできない。

 ここで幼馴染が乱暴されるのを無視できる程、俺は薄情にはなれない。

 飛び出せば俺に標的が移るだろうが、それでも行かなければならない。

 じゃなきゃ、そもそもこの前助けた意味もなくなってしまう。

 俺は決めたんだ。

 これからは自分があの人を守る側になるんだと。

 その決意のためにも、ここは助けに行かないと。


 と、腰を上げようとしたころを夢衣に止められた。


「……な、なんで止めるんだよ。綺季がっ」

「……待って。もっと良い方法あるから」


 言うや否や、夢衣はポケットからスマホを取り出した。

 それを物陰から向けながら、動画の録画を開始する。


 なるほど、と思った。

 これなら証拠を押さえられるし、事が及ぶ直前になれば飛び出して脅しにも使えるわけだ。

 流石に性犯罪直前の動画を見せれば俺に暴力を振るうこともできないだろう。

 罪状を増やすだけなんだから。

 冷静な夢衣に俺は久々に感心した。


 しかし、そもそも俺の心配は杞憂に終わった。

 ベルトをガチャガチャ弄りながら歩いてくる新藤先輩を、綺季が思いっきり蹴飛ばしたのだ。

 高く足を上げたその攻撃は股間を直撃。

 思わぬ反撃に悶絶する先輩はそのまま蹲った。


「ふざけんな! お前みたいな奴とヤるわけないでしょ! そんなにセックスだけしたいなら他の女を当たれっつーの! 死ね!」


 顔を真っ赤にしながら暴言の死体撃ち。

 それを受けて新藤先輩はピクピク震えるだけだ。

 見た感じ、かなり洒落にならないダメージが入った様子。


 ここまで見事にざまぁみろと思ったことはないかもしれない。

 腰を浮かせてへこへこしながらもがく先輩はもはや憐れだ。

 好きな女に興味すら持たれず、最終手段で無理やり襲おうとしても反撃に遭うという情けない一連。

 今の格好も含めて黒歴史間違いなしだろう。


「大体、弱い者いじめばっかしてるお前に好意なんか抱くわけないでしょ! 真桜賭に突っかかったり、一々キモいんだよ! 二度とアタシに話しかけてくんな! 絶対許さないから!」


 さらに文句を言い続ける綺季を見ていると、夢衣が俺の肩を叩いてくる。

 

「……私達も出よ。この動画見せてやることあるし」

「……そうだな」


 録画を完了させた彼女は首を振りながら言ってきた。

 正直ずっと隠れていたかったが、そうもいかないだろう。

 潮時だ。

 俺と夢衣はしびれを切らして立ち上がった。


「は? え、そこに居たの?」

「……なんかすみません」


 微妙な空気感の中、真っ赤な顔の綺季に俺達は目を逸らす。


 ――もうこれ、出頭だな。


 俺は妙に緊張しながら、物陰から日の下に姿を現した。

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