第12話 ギャル姉妹にいじめられています
週明け月曜の放課後、俺はリビングにて正座をしていた。
目の前には二人のギャルが鬼の形相でソファに座っており、黒髪ギャルの方なんかは俺の腿の上に踵を乗せている。
そのまま付け根をさわさわされるため、息子が元気になりそうだ。
変な性癖が開拓されつつある……。
じゃなくて!
「どういう状況だ!」
怒鳴って立ち上がると、夢衣が驚いて体勢を崩した。
足を大きく上げて潰れるため、パンツまでしっかり視認。
今日は黒のレースか。
尻の布面積が少ない所謂Tバックタイプだ。
こんなのを履いた状態で見せパンの重ね履きすらしないのは、もはやただの痴女である。
感謝のあまり、シェイクハンドしたくなる絶景。
勿論握手じゃない方のシェイクだ。
じゃなくて!
何度もお決まりのノリボケを脳内でかましながら、俺は首を振る。
「いきなり人んちに上がり込んだかと思えば、なんだその態度は」
そう、ここは俺の家なのである。
例に漏れず仕事中で父親が不在なこともあり、今の家主は俺。
ここは強気に出なければならない。
そう思って腕組みしたのだが、立ち上がって詰め寄ってくるギャル二人に早くも腰が引けてきた。
俺が低身長なのもあるが、二人共俺と大した差がないので物理的な圧がすごい。
夢衣に関しては多分俺より5センチくらい高い。
大体164センチくらいだろうか。
……おっと、今俺の身長を計算しようとした奴、名乗り出たら許してやるぞ。
まだ15歳だし、そもそも俺は早生まれなんだもん。
成長はまだまだここから控えている!……はずだ。
と、綺季が鬼の形相で胸ぐらを掴んできた。
「あんた、お母さんに告げ口したでしょ!? しかも虚偽の密告!」
「え? 別に俺は事実しか言ってないけど」
「いつどこでアタシがあんたをいじめたのかって聞いてんの!」
「今ここで現在進行形では?」
「ッ!? ……黙れ!」
「……」
誰がどう見てもいじめ現場なのだが、本人達に自覚はないらしい。
驚愕である。
俺は手を離させると、襟首を正して二人を座らせた。
「『何でも言いなり刑』なんて、堂々としたいじめを継続しているのはどこの誰でしたっけ?」
「はぁ? それは罰ゲームだからしゃーなしじゃん?」
「世間一般的に、後輩に寄って集って無理強いした遊びでの罰ゲームはいじめという判定になるかと」
「ごちゃごちゃうるさいなぁ。そんなだからモテないんだよ」
「それは関係ないでしょう夢衣さん」
ツッコみつつ、視界が滲んできた。
なかなか的確に人の急所を抉ってくる奴だ。
ギャルの攻撃力を甘く見ていたらしい。
と、冗談さて置き俺は苦笑しながら聞いた。
「っていうかその感じを見るに、一昨日はこってり絞られたみたいだな」
「あんたが余計なこと言ったせいな?」
「その前に余計なこと言ったのは綺季の方だろ。良いのかよ、俺と話して」
「うっ……そ、それは学校での話だから。それにアレは……あんたのためでも」
「え? 何か言いました?」
「は? 別に?」
「そうですか」
何かごにょごにょ喋っていた気がするのだが、その部分だけ聞き取れなかった。
これ以上聞くとどつかれそうなのでやめて置こう。
そしてそんな俺たちの会話に、夢衣が首を傾げる。
どうやらこいつは俺と綺季の間にあった出来事を知らないようだ。
もしかすると、二人で遊びに行っていたこと自体知らない可能性もある。
「とにかく、あんたのせいで散々な目に遭ったの。どうにかしろ」
「……はい?」
「パシリが主人である私達に楯突いたらどうなるかは、わかるよね~?」
「……あ、あの夢衣さん? 目が怖いですよ? ははは、やだなー」
「じゃあアレさせよっか」
「ん」
そこからはあっという間だった。
まず俺はそのまま、身ぐるみを剝がされた。
手際よくベルトを外され、下を脱がされる。
そしてシャツのボタンを外され、上下インナー姿にさせられた。
かと思えば、そのまま体操服を着させられる。
上下色が違うため、それぞれ別学年のものと推定。
よく見ると半袖シャツは綺季の、ズボンは夢衣のものだった。
下半身だけやけに温もりがある感じを考えると、どうやらズボンの方は脱ぎ立てっぽい。
先程まで履いていたものを、俺に履かせるために脱いだのだろう。
なるほど、そういう事か。
道理で夢衣はTバックの上に何も履いてなかったわけだ。
流石に学校ではスカートの直履きではなく、この短パンを上に履いていたのだろう。
……って、え? だからどういう状況?
困惑していると、俺はソファに座らされた。
綺季と夢衣に密着され、そのまま写真を撮られる。
「……ナニコレ」
「何って、アリバイ工作だよ?」
「アタシらがあんたに体操着を貸してあげたって事にすんの。ほーら、優しい先輩と幸せな後輩に見えるでしょ」
写真を見せられ、覗く俺。
そこにはギャル姉妹に挟まれて肩身狭そうに縮こまる俺がいた。
やはりどう見てもいじめ現場にしか見えない。
ジト目でそれを眺めていると、夢衣が自慢げに言う。
「それなー。で、あとはこれをママに見せたらミッションコンプ。いじめなんかなくって、優しいお姉ちゃん達に甘やかされてる真桜ちゃんの捏造……じゃなくて、照明が完了。ってわけで乙~」
「あまりにも策士過ぎるだろ」
ついでに小賢しいし、最低。
わざわざそんな事のために一旦脱がされた俺の尊厳は如何に。
俺の文句に夢衣は笑い、綺季は顔を背けた。
まだ姉の方が良心を持っているみたいだが、僅かなものだ。
俺はヤンキー子犬理論には騙されんぞ。
ムカつくからいつか同じことをしてやろう。
身ぐるみ剥がされても文句言うんじゃねえぞ理不尽ギャル姉妹め。
「よしよし、よく撮れてるっ♪」
立ち上がった後、何故かにこやかにスマホを確認する綺季。
なんだか普通に楽しんでる気がするのは気のせいだろうか。
ふと隣を見ると、夢衣は未だにべったりくっついて座っている。
相変わらずの距離感に、ため息が漏れそうだ。
綺季がいるというのに、邪な関係がバレたらどうしてくれようか。
と、そこで夢衣が動いた。
座り心地が悪いのか、尻を動かしてポジションを変える。
そんな景色が、トリガーになった。
隣で衣擦れしている夢衣のスカートを見て思い出す。
そう言えばこの短パン、こいつがTバックで履いてたんだよな。
という事は、長い時間をその生尻に触れていたわけで。
そんなものを、今俺は履いている……。
「ちょ、ちょ……何考えてんの」
「こ、これは不可抗力で!」
制御しようも虚しいかな。
今度こそ俺の息子は雄々しく立ち上がるのだった。
それを見て珍しく焦った声を漏らす夢衣に、俺は項垂れる。
だから、俺の尊厳はどこよ。
我ながら情けないせがれである。




