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95.決意と最終決戦へ・・・

全ての試練を終えた三人は並んで立っていた。


疲労は残っている。


魔力も、完全ではない。


だが、立ち方だけが試練前とは、明らかに違っていた。


前方に、アドゥ=ラグナスが現れる。


「確認する」


淡々とした声が、回廊に響く。


「お前たちは、試練を経て確かに強くなった」


一拍。


「精神も、肉体も、魔力も。魔王に挑む資格は得た」


三人の表情が、わずかに引き締まる。


だが、続く言葉は容赦がなかった。


「しかし、それでも贔屓目で見てもなお、魔王には及ばない」


空気が、重く沈む。


数値の比較ではない。


希望を折るための言葉でもない。


ただの、事実の提示。


「お前たちが全力を出しても、正面からの勝率は限りなく低い」


「敗北すれば、死ぬ。あるいは、それ以下の結果もあり得る」


沈黙。


誰も、否定しなかった。


アドゥ=ラグナスは、静かに続ける。


「試練を受けさせておいて何だが、ここで撤退する選択もある」


「お前たちは出来ることを全てやり尽くした。それでもなお届かぬ事実はある。理不尽だと思うかもしれんが、それでもどうしようもない事はある」


「我が力添えをしても良いが、そうした場合は魔王を討てるが同時にこっちの世界もルミナ達の世界も消える事は頭に入れておいてくれ。原始竜の我と、混沌竜の力を取り込んだ魔王との激突だ。世界が無事でいれる方が不思議だろ?」


視線が、三人を順に捉える。


「それでも魔王に挑むか?」


最初に口を開いたのは、ライナだった。


剣の柄に手を置いたまま、一歩前に出る。


「・・・確かに、俺たちは弱い」


声は落ち着いている。


強がりはない。


「魔王に届かないかもしれない」


一瞬、視線を落とす。


第一試練での失敗が、まだ胸の奥に残っている。


それでも、顔を上げた。


「でも」


「届かないからって、何もしない理由にはならない」


拳を、強く握る。


「力が足りないなら、足りないなりに立つ」


「それが勇者かどうかは、もうどうでもいいし、この世界を救った時も同じだった事をこの試練を通じて思いだせた」


「俺は放っておけない」


次に、ルミナが進み出た。


杖を床に軽く突き、その音が静かに響く。


「合理的じゃない、という話なら」


彼女は、淡く笑った。


「最初から分かっています」


「救える保証なんて、どこにもない」


視線を、真っ直ぐアドゥ=ラグナスに向ける。


「でも」


声が、少しだけ柔らかくなる。


「“勝てないかもしれない”という事実と“何もしないでいい”という結論は、別物です」


杖を握る手に、力がこもる。


「誰かが苦しんでいると分かっていて、それを知っていて、見ないふりをするのは」


「私が選んだ在り方じゃない」


「だから行きます」


最後に、リリスが一歩前へ出る。


竪琴を胸に抱き、静かに息を吸った。


「・・・リリスは」


一瞬、言葉を探す。


「魔王側にいた人間ですぅ。弱い心簡単につけ込まれた弱い人間ですぅ」


正直な告白。


目を閉じ、そっと竪琴の弦に触れる。


小さく、音が鳴る。


「だからこそ自分のやってきた事へのツケは自分で精算するですぅ!!」


目を開く。


その瞳には、恐れも、迷いもある。


「力が足りないままでも、向き合わなきゃいけない時があるですぅ」


「逃げないって決めたんですぅ」


「それが、リリスが“歌う理由”だから」


ライナがアドゥ=ラグナスの目の前に立つ。


「原始竜の力は借りない。俺達の世界は俺達で何とかする」


真っ直ぐにアドゥ=ラグナスを見据えるライナを見て原始竜はしばらく沈黙した。


やがて、わずかに本当にわずかに、口元が緩む。


「・・・よく言った」


「お前たちは、自分たちの弱さを理解した上で、なお前に進む選択をした」


「それでいい」


空間が、歪み始める。


「忠告は、これが最後だ」


「勝利は保証しない」


「生存も保証しない」


それでも。


「それでも挑む者だけが、世界に“次”を残す」


アドゥ=ラグナスが三人の足元に魔術陣を展開する。


「お前たちを向こうの世界に送り返すくらいはしてやろう。お前たちが挑む挑まぬに関わらず時間はあまり残されておらんかったからな」


三人の脳裏にアド=ラグナスが見ている光景が浮かんできた。


見えてきたのは、ルミナとリリスの世界で魔物達が各地で暴れ回ってる景色だった。


空は灰色の雲に覆われ、雷が轟き街などに落ち被害を出していた。


人々はなす術なく逃げ惑い、混乱を極めていた。


「みんな!!」


ルミナは声をあげるがただ見ている事しか出来ない自分が悔しかった。


「早く送り返せですぅ!!」


リリスが急かすがライナが「待て」と止めた。


「よく見ろ」


ライナがそう言うと、魔物達に果敢に挑む各国の兵士や共に戦ってきた戦友達が見えた。


「勇者様は必ず帰ってくる。それまで何としても死守するんだ」


セリフィア王国の剣士や魔術師、冒険者達が魔物の侵攻を食い止める。


「俺にはルミナがもう少しで戻ってくる未来が視える!!」


カイルが魔術で魔物の群れを殲滅する。


「じゃあ下手な所は見せられないね。てかこのまま魔王城に乗り込んでやっつけちゃおうよ」


フェリアがカイルが撃ち損じた魔物を双剣で次々に斬っていく。


「我が国の力を今こそ存分に示す時ぞ!!」


アルヴァレスト王国の騎士団長シリウスを筆頭に他の騎士団長率いる騎士団が魔物達を押し返す。


その光景に三人は胸が熱くなるのを感じた。


「全員戦ってる」


「うん」


「はいです」


三人はアドゥ=ラグナスを見る。


複雑な幾何学模様が重なり、淡い光が脈動する。


「座標、固定……世界層、同期」


魔術陣が更に光る。


「我も今戦ってる者達も、どういう結果になろうがお前たちを決して恨まない。変かもしれんが気楽に戦ってこい。そして世界を再び救ってこい。勇者たちよ」


光が弾け、次の瞬間三人は元の世界に立っていた。


少し離れた所に魔王城が見える。


三人に緊張が走る。


「リリス。世界中の人に俺達の声を届けれるか?」


リリスは無言で頷き、空に楽譜の魔術陣を形成した。


「今戦ってるみんな!!」


ライナの声が世界中に響き渡る。


その声に全員空を見上げた。


「俺はライナ・ヴァルグレアス。この世界とは違うけど世界を救った勇者だ!!俺と俺の仲間が今から魔王を倒してくる!!だから俺達が魔王を倒すまで持ち堪えてくれ!!」


ライナの声に兵士や猛者達と別に一般市民達も声を上げた。


「女性や子供は避難所に避難しろ。戦える奴は兵士の方々のサポートをするんだ!!」


「勇者様が魔王を倒してくれる!!それまで何としてでも生き残るぞ!!」


「うおおおおおおおおおおおお」


みんなの奮起の声がリリスの音魔術に乗ってライナ達に届く。


「行ってこい、ルミナ!!」


「私達の思いも魔王にぶつけてきちゃってよね」


「カイル、フェリア・・・」


「アルヴァレスト騎士団の誇りに賭けて、必ず死守する。お前達は魔王達だけに集中しろ!!」


「シリウス」


三人は魔王城を見る。


その声は魔王陣営にも聞こえていた。


「来るか・・・」


ゾークが大盾と戦鎚を持ってる手に力をいれる。


「フフフ・・・。早くいらっしゃい。絡めとってあげますわ」


セレネアが不気味な笑みを浮かべる。


「・・・」


ヴァルゼルは剣を抜きただ待つ。


魔王グラン・ディアヴォルスはニヤリと笑う。


「世界の命運を決しようではないか。勇者よ」


勇者側も、魔王側も、互いに、相手を過小評価していない。


世界が、息を止める。


最終決戦の火蓋が切って落とされる。

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