表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/95

93.乗り越える力

ルミナの最大攻撃をものともしないリリスの幻影の前にルミナは完全に心が折れてしまった。


「引き返すなら、命までは取りません。どうしますぅ?」


ルミナの背後に扉が出現する。


ルミナは扉に向かって歩き始める。


(ダメだ、私はやっぱり役立たずなんだ。ただ知識だけを蓄えてただけのお荷物。ここから先は二人に任せよう)


ルミナが扉に手をかけた。


その時、第二試練が始まる前のライナを思い出した。


(違う。私だけが苦しいんじゃない。ライナだって。それにリリスも顔には出さないけど自分がやってきた事に苦しんでるはず。私一人だけ逃げるわけにいかない)


ルミナは扉から手を離し、ライナとリリスの幻影がいる方に振り返る。


「ん?どうしたんですかぁ?帰らないんですかぁ?」


「帰らないわ。私は自分の弱さから逃げない!!」


「そうですか・・・」


扉が消え、リリスの幻影の冷徹な視線がルミナに送られる。


「せっかく生きれたチャンスを逃すなんて、冷静な判断力も無くしたみたいですねぇ」


リリスの幻影は竪琴を構える。


「残念ですがもうボーナスタイムは終了ですぅ。完膚なきまで叩きのめされて死んで下さい」


ルミナは、杖を握り直す。


(これが・・・私の試練)


敵は二人。


同時に相手をするには、火力も制御も足りない。


「・・・知ってる」


小さく、しかしはっきりと答えた。


「だからってここで逃げてちゃ、成長できない!!」


ルミナはリリスの幻影に突っ込んでいく。


「何の手立てもないからやけくそになったですかぁ?」


ルミナはローブの中に隠し持っていた短剣をリリスに投げる。


「それは以前に見ましたし、防がれた事をお忘れですか!?」


リリスの幻影は短剣を叩き落とし、竪琴を奏でる。


音は刃になりルミナを切り刻む。


それでもルミナの動きは止まらない。


「どういうつもりですかぁ!!」


リリスの幻影はルミナの行動が理解できず苛立つ様子を見せる。


「ファイヤーボール」


火球を撃つルミナ。


リリスの幻影はそんな初歩的な魔術を撃つ意味が分からなかった。


「ライトニング、ウォーターボール、ストーンニードル!!」


怒涛の攻撃だが所詮初級魔術。


リリスの幻影にとっては防ぐ意味すらない攻撃に意に介さず、反撃をしようとする。


「!!!」


リリスの幻影は突如膝をついた。


(何が・・・)


ルミナを見ると彼女は笑っていた。


ルミナは攻撃をし続ける。


リリスの幻影にはダメージはない。


なのに追い詰められていくプレッシャーが幻影に襲いかかる。


(ん?杖はどこにいったです!?)


よく見るとルミナの手には杖が握られていなかった。


「やっと気づいた?」


リリスの幻影は視線を下に向けた。


そこには主人から離れた杖だけがリリスの幻影に向いており、顎に向かって一直線に上がり、幻影を突き上げた。


「かはっ!!」


ルミナは両手に魔力を溜め始める。


「ウェポンズクリフト!!」


ルミナは両手に魔力の剣を作り、構えた。


その姿はミスティアで出会った仲間フェリアと重なる。


「魔迅華まじんか」


魔力で形取った双剣に風魔力を纏わせ、拙いながらも三連斬を放ち、斬撃が花びらのような風の閃光となり残像が花弁の軌跡を描く。


リリスの幻影は防御結界を張ろうとするが、間に合わず斬られた。


リリスはすぐに体勢を立て直し、反撃に打って出る。


「”視えてる”」


ルミナはカイルの予知魔術と同時に拳に魔力を集め、紅の洞窟で共に冒険したバルクの格闘術を駆使し、リリスの幻影のお腹に拳を叩き込む。


今まで出会った仲間の力を駆使し、リリスの幻影を少しずつ押し始める。


だが、所詮、相手の意表をつく攻撃であり、見よう見まねの技であるため大したダメージにはならず、単に相手を怒らせるだけになるだけだとルミナは分かっていた。


彼女の思ってる通り、リリスの幻影は怒りで体が震えていたがすぐに冷静さを取り戻した。


「褒めてあげますぅ。弱いなりに一生懸命考えてやったんですねぇ・・・。でも・・・」


リリスの幻影に魔力が集まる。


「倒せなければ意味ないんですよぉ!!」


巨大な魔力弾が形成される。


「まとめて消す」


(来る・・・!)


ルミナは、逃げなかった。


代わりに魔術陣を、重ねていく。


三重、四重と構成していく。


防御でも、攻撃でもない。


魔力が、領域全体に広がる。


「・・・何を?」


リリスの幻影が訝しむ。


「二重でダメなら、倍の四重よ!!」


ルミナの目の前で赤、青、黄、緑の魔術陣が回転し始める。


「星よ、並び、円を描け私が導かずとも、彼らが進むように私は中心ではなく、ただの輪となろう

星環連結アストラ・リンク


巨大な魔力波が放たれる。


全てを賭け、リリス、ライナの幻影を同時に倒すための彼女の限界を超えての攻撃。


反動で体の所々から血が垂れる。


リリスとライナの幻影は何もせず、ルミナの攻撃を受けた。


「今度こそ」


ルミナは杖で体を支えながら様子を見る。


もしこれでも倒せてないなら彼女にはもう手立てはない。


その時は素直に自分の運命を受け入れようと思ってた。


爆煙が晴れるとそこにはリリスとライナの幻影が立っていた。


(ダメだったか・・・)


ルミナはやり切ったと笑みを浮かべ、目を閉じ後ろに倒れる。


だが倒れず、誰かに支えられた。


目を開けると彼女を支えていたのはリリスとライナの幻影だった。


「どうして?」


当然の疑問を投げかけると二人はフッと笑った。


「力は見せてもらった」


「認めたくないですが、とんでもない力だったです」


そういうと二人の体がボロボロと崩れ始めた。


「諦めず、折れず、強敵にどう立ち向かうか考え、たどり着いた答え・・・」


「ギリギリだったですけど、リリス達に届いたですよ」


ルミナを立たせ、二人は砂の様にさらさらと消えていった。


ルミナは杖を下ろし、座り深く息を吐いた。


(何とか勝てた・・・。でも本物の二人はこんなもんじゃない。まだまだ)


新たな決意を胸にルミナは歩みを進めた。


リリスの領域


領域に、音がなかった。


静寂というより、音を拒絶する空間。


その中心に、彼女は立っていた。


黒い外套。


冷え切った眼差し。


ギルデッド・スターズの一員だった頃のリリス。


「懐かしいですねぇ」


過去の自分が言う。


「この自分の思うがままに暴れまわれる衝動」


彼女の手には、禍々しいルーン=ミゼリアが握られてる。


周囲の空気が、刃のように研ぎ澄まされている。


「歌で壊す高揚感」


「音で絶望を与える瞬間の人間達の怯えた目」


リリスは、ゆっくりと竪琴を構えた。


指先が、弦に触れる。


(・・・ええ、知ってる)


一音。


澄んだ音が、空間に落ちる。


それだけで、領域がわずかに震えた。


「リリスは、強かったです」


過去の自分が一歩踏み出す。


音が、歪む。


「魔王様の配下として、最前線に立ち、無駄なく、迷いなく、敵を排除した」


空気が、圧縮される。


無音の刃が、リリスを襲う。


リリスは、竪琴を抱いたまま、歌い出した。


低く、静かな旋律。


音の波が、刃を受け止め、拡散する。


「否定はしない」


歌声が、領域に満ちる。


「過去のリリスがいたから、今のリリスは生き残ったです」


過去の自分の動きが、わずかに止まる。


「・・・甘い」


次の瞬間、衝撃が走る。


無音衝撃波。


骨に直接響く攻撃。


膝が、沈む。


(重い・・・)


だが、歌は止めない。


竪琴の音色が、少しずつ変わっていく。


硬質だった音が、温度を持ち始める。


「感情は、判断を鈍らせる」


過去の自分が、冷たく言い放つ。


「仲間を失わせる」


「・・・ええ」


リリスは、息を整えながら答えた。


「だからリリスは、選んだ」


歌声が、強くなる。


「誰かと並んで立つ強さを」


旋律が、重なり合う。


単音ではない。


和音。


それは、かつてのリリスが決して使わなかった魔術。


音が、壁になる。


盾になる。


そして道になる。


「・・・無駄が多い」


過去の自分が、音の壁を砕こうとする。


だが、砕けない。


「一人で完結しない音は」


リリスは、はっきりと言った。


「一人で壊せないです」


歌声が、領域全体に広がる。


それは攻撃ではない。


共鳴だ。


過去の自分の周囲で、空気が揺れ始める。


彼女の音魔術が、わずかに乱れる。


「・・・何を、しているです」


「聞いてるの」


リリスは、指を走らせる。


「あなたの音を」


過去の自分の魔力が、ほんの一瞬、旋律を持った。


「……っ」


彼女が、初めて息を呑む。


「あなたも、持っていたです」


歌声が、優しくなる。


「恐れも、怒りも、守りたいものも」


「それを全部、切り捨てただけ」


過去の自分の表情が、歪む。


「不要です」


「いいえ」


リリスは、最後の和音を奏でた。


「それは、リリスの一部」


音が、重なる。


過去と現在の旋律が、ぶつかり、そして、溶け合う。


領域が、光で満たされる。


過去の自分の輪郭が、揺らぐ。


「・・・そうか」


彼女は、静かに笑った。


「リリスは、捨てられたんじゃない」


音が、優しく包み込む。


「上書き、されたんですね」


リリスは、歌いながら頷いた。


「ええ」


「一緒に、進む」


過去の自分は、光に溶けていく。


その表情は、穏やかだった。


静寂が戻る。


だが今度は音を拒まない静けさだった。


リリスは、竪琴を抱きしめる。


(・・・終わった)


第二試練は、彼女を通過させた。


それは勝利ではない。


和解だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ