92.認める覚悟
ライナと暴走ライナの戦いはますます激しさを増していた。
互いの剣と剣がぶつかり合う。
だが、ただ剣と剣がぶつかりあってるわけではない。
各々の信念と譲れないモノを乗せて二人は戦っているのだ。
剣戟が止んだ、次の瞬間だった。
空気が鳴いた。
低く、腹の底を叩くような咆哮。
それは声ではなく、存在そのものが発する圧だった。
暴走ライナの足元に、光の紋章が浮かび上がる。
「・・・は?」
ライナが息を呑む。
地面が裂け、白銀と蒼の光が噴き上がった。
その中心から、一本の剣が現れる。
神竜剣グラネシス。
刃は透き通るように澄み、内部に星空のような光を宿している。
暴走ライナが、迷いなく柄を握った。
その瞬間。
吼声。
剣の中から、意志が溢れ出す。
『己を証明したくば、我とこのライナに勝ってみせよ』
重く、尊大で、それでいて古き守護者の声。
『我が名は神竜グラウ=ネザル!!お前が真にこの剣を使うに相応しいか否か今この場で再確認してやる』
空間が、押し潰される。
『“より強き意志”を持つ者こそ、この剣の正当な持ち主である』
ライナの膝が、わずかに沈んだ。
(・・・グラウ・・・)
暴走ライナが、振り返る。
その背には、竜の影が重なっていた。
「聞いたか?」
愉快そうに、彼は笑う。
「今の俺は、お前+俺+神竜だ」
剣を振る。
それだけで、地平が裂けた。
斬撃ではない。
世界そのものを分断する力。
ライナは跳んだ。
間一髪で回避したが、背後の空間が抉れ、消滅する。
(・・・無理だ)
一瞬、思ってしまった。
力の差ではない。
次元が違う。
「どうする?」
暴走ライナが、剣を肩に担ぐ。
「仲間はいない。奇跡もない。ここは試練だ。助けは来ない」
グラウ=ネザルの声が、重なる。
『確かにこの世界を魔王の手から救ったかもしれぬが、お前はまだまだ弱い』
ライナの喉が、鳴った。
剣を握る手が、汗で滑る。
(・・・一人、か)
ここで初めて、完全に理解した。
一人で戦うのは慣れている。
現にこの世界は最終的には一人で救ったし、ルミナ達の世界に呼ばれた時も一人で出来ると思っていた。
いやするつもりだった。
ルミナは正直、最初は案内人程度にするつもりだった。
それでも自分を守る術くらいは身につけてほしいと思い、色々アドバイスをしたり突き放したりもした。
でも今はリリスも含め、なくてはならない存在だ。
二人・・・いや、出会った全ての人がライナの力の糧になっている。
向こうの世界でも、仲間ができた。
背中を預ける場所があった。
だからライナは背中を気にせず戦えてこれた。
だが、今は違う。
改めて一人で立てるかそれだけが問われている。
暴走ライナが、踏み込む。
神竜剣が、振り下ろされる。
回避は不可能。
防御も無意味。
その瞬間ライナは、剣を構えなかった。
代わりに、一歩、前に出た。
「・・・それでいい」
暴走ライナの目が、細まる。
「何?」
「神竜でも、剣でも、全部使えばいい」
ライナは、真正面から見据えた。
「俺は何も足さない」
斬撃が、迫る。
世界が白く染まる。
だがライナは、踏み止まった。
恐怖はある。
震えもある。
それでも、逃げなかった。
「俺は弱い」
声が、掠れる。
「勇者だって失敗もする。後悔もする。立ち止まることもある」
グラウ=ネザルの声が、苛立ちを帯びる。
『それが何になる』
「それでも」
ライナは、剣を握り直した。
「全部、俺の足で進んできた」
剣を振る。
豪華さも、奇跡もない。
ただの、必死な一撃。
だが、その剣にブレがなかった。
神竜剣の斬撃と、正面衝突する。
轟音。
衝撃。
視界が、弾ける。
次の瞬間。
グラウ=ネザルの声が、途切れた。
『何だ、この感触は』
グラネシスが、震えている。
暴走ライナが、驚愕に目を見開いた。
「受け止めた?」
ライナは、膝をつきながらも、倒れなかった。
剣を支えに、立ち上がる。
「お前は……強い」
息を整えながら、言う。
「でもそれは、借り物の強さだ」
グラウ=ネザルの声が、低く唸る。
『……うむ』
光が、剣から零れ始める。
『己の弱さを認める意志、とくと見せてもらったぞ』
暴走ライナが、歯噛みする。
「黙れ!」
再び剣を振り落とすが、暴走ライナが握っていたのは普通の剣であった。
逆にライナが握っているのは神竜剣グラネシスだった。
その光景に暴走ライナが驚愕する。
「馬鹿な!!俺がこんな甘ちゃんより劣っているというのか!!」
グラウ=ネザルの声が響く。
『最初に言ったはずだ。”より強き意志”を持つ者こそこの剣の正当な持ち主であると』
暴走ライナが、呆然とする。
「・・・嘘だろ」
ライナは、剣を構えた。
足は震えている。
力も、限界だ。
それでも。
「もう一度言う」
静かに、告げる。
「進むのは、俺だ」
二人の剣が、最後に交差する。
今度は迷いのない、一撃だった。
暴走ライナは、崩れ落ちるように膝をついた。
「・・・参ったよ」
苦笑する。
「お前、ほんと・・・弱いまま、前に出やがって」
ライナは剣を下ろした。
「それでいい」
顔を上げ、ライナを見る。
「だが後悔もするぞ」
「すると思う」
はっきりと、答える。
「でも後悔するのも、俺の役目だ」
暴走ライナの輪郭が、崩れ始める。
砂のように、光のように。
「……そうか」
最後に、彼は静かに言った。
「なら、行け」
消え際、彼は言った。
「それも、お前の“力”だ」
消える直前、暴走ライナは確かに笑っていた。
ルミナの領域
「はあ、はあ・・・はあ。くっ!!」
ルミナはボロボロになっていた。
対照的にライナとリリスの幻影は傷ひとつ、ついていなかった。
リリスの幻影はくすくす笑っていた。
「どうしたんですかぁ?まさかとは思いますがそれが本気なんて言わないですよねぇ?あんなに息巻いてたくせにこの程度って拍子抜けってレベルじゃないですよぉ?」
ライナの幻影は剣こそ抜いてはいるが、何も仕掛けてこず、ただルミナの様子を見ているだけだった。
「早く本気になってくださいよぉ?準備運動にすらなってないんですけどねぇ」
ルミナはゆっくり立ち上がり魔術を撃つが、片手で弾かれる。
「はあ〜。ハンデあげます。今出来る最高の魔術を撃って下さい。手出しは一切しませんので」
リリスの幻影は手を後ろに回し鼻歌を歌い始めた。
「後悔しないでよ!!」
ルミナは詠唱を始めた。
「煌めけ、天空を渡る星々よ。古より刻まれし輝きの理、我が魂に応えよ。闇を裂き、絶望を払う光となれ。天穹を統べる真の槍、今ここに顕現せん!星刻の極光槍」
「星よ。遥かなる夜空より見守りし刻の灯火よ。今、我が身を捧げ、命を燃やす。その輝き、絶望を断つ刃となり、天を貫く永遠の槍と化せ!星刻の極閃光槍」
二重詠唱でリリスの幻影に挑むルミナ。
リリスの幻影に直撃し爆煙が上がる。
「どう・・・?」
ライナの幻影はルミナの魔術を目の当たりにしても動かない。
「うーん。足りませんねぇ。この程度じゃあやっぱりここらへんが引き時だと思いますよぉ?」
多少傷はついているもののリリスの幻影は何事もなかったかのように立っている。
「そ、ん・・・な」
その状況にルミナは愕然とし膝をついた。
「諦めて、引き返すなら命までは取りません。どうしますぅ?」
ルミナの背後に扉が現れる。
「あ、あ、あぁ・・・」
ルミナはフラフラと立ち上がり扉に向かう。




