91.第二の試練
ルミナ、リリスが第一の試練を突破する中、唯一ライナだけ答えが示せないまま終わってしまい、次の試練へ進む事になった。
暗雲が立ち込める中、それでも歩みを止める事は許されなかった。
三人の目の前には大きな扉があった。
扉は、第一試練のそれよりもはるかに大きかった。
装飾はなく、ただ圧力だけがそこにあった。
立っているだけで、骨の内側から軋むような重さがのしかかる。
「……ここが、力の試練」
ルミナが一歩前に出る。
足取りは迷いがない。
リリスも続き、ふと振り返った。
「ライナ?」
呼ばれて、ライナはようやく顔を上げた。
だがその視線は、扉ではなく自分の足元を見ていた。
アドゥ=ラグナスの無機質な声が、空間に落ちる。
「第二試練。己の力を示せ。ただし・・・」
一拍。
「力とは、逃げずに振るう意思の総量である」
扉が、音もなく開いた。
その奥に見えたのは、武器でも敵でもない。
無数の影。
そして、その中心に立つライナと同じ姿をした存在。
影が、こちらを見て笑う。
「来たか。今度こそ、はっきりするな」
ライナの喉が鳴った。
ゆっくりと扉の中に入る。
暴走ライナが、剣を肩に担ぐ。
「力の試練だ。折れたままの奴が、どこまでやれるか見せてもらおう」
「二人ともここは俺にやらせてくれ・・・」
ルミナとリリスに確認を取るライナだが返事がない事に気づき、振り返ると二人の姿はどこにもなかった。
「後ろにいた二人ならそれぞれの試練に行かされたぜ?あのチビ女は見込みあるが、もう一人の女はどうだかな・・・。お前と違って最初の試練は突破できたみたいだが、この試練はちょっとキツイかもな」
くっくっくと笑いながらライナを蔑むような目で見る暴走ライナ。
「あの二人は大丈夫だ。どんな試練が来ようと絶対突破する」
「第一の試練を突破してないお前に言われても説得力ねえよ」
ライナは暴走ライナに本当の事を言われ何も言い返せなかった。
暴走ライナはゆっくり、ライナの周りを剣を地面に引きずりながら歩く。
「顔色悪いな」
暴走ライナが笑う。
「第一試練、失敗がよっぽどショックだったか?ここでも負けたら・・・立ち直れねぇなあ!!」
剣がぶつかる。
重い。理不尽なほど重い。
力の差ではない。
迷いの差だ。
「なあ、ライナ。力が欲しかったんだろ?」
踏み込まれ、膝が沈む。
「だったら、俺に任せろよ。迷わない。折れない。救われる気もない」
「誰が・・・!!」
ライナの顔には苦悶の表情が浮かぶ一方、暴走ライナの表情には余裕が見えていた。
ルミナの領域
二つの影が、同時に現れた。
一人は、剣を持つライナ。
その目は失望に満ち、ルミナに鋭い視線を送る。
もう一人は、無表情なリリス。
魔力の構えに一切の迷いがない。
「いつまでついてくる気ですかぁ?」
リリスの幻影が告げる。
「弱い奴は必要ないですぅ」
ライナの幻影は、何も言わない。
ただ、何も期待していないと言わんばかりにルミナに背を向けた。
ルミナは二人の言動に少し後退りしたが、すぐに立ち止まり杖を構えた。
「どこまでもついていく!!私はその為にここに来たんだから!!」
その言葉を聞きライナは振り返り、リリスは竪琴を構える。
「なら、力で証明してみせろ。俺達の横に並ぶに値するかどうか」
リリスの領域
黒い装束の女が、拍手を打った。
「甘くなったですねぇ」
ギルデッド・スターズの一員だった頃の自分。
感情を削ぎ落とし、使命だけで動いていた存在。
「自分がどんな扱いを受けてきたのか忘れたですかぁ?」
リリスは、何も言わなかった。
「利用され、利用価値がなくなったらポイ。今回も同じですよぉ?魔王様を倒したらあの二人に惨めに捨てられて、待ってるのは処刑台ですぅ」
魔力を構えながら、静かに言う。
「そうですねぇ。リリスはそうされても仕方ない事をたくさんしてきました」
「認めるんですかぁ?」
過去のリリスが尋ねる
リリスはフッと笑う。
「そんな事、ここにくる前からとっくに覚悟できてますよぉ。たとえ最後に待ってるのが”死”だとしてもリリスはリリスが好きだった世界を守るために強くなりたいんですよ!!」
一瞬、過去の自分の目が揺れる。
リリスの声が、はっきりと響く。
「その為にならどんな苦難も乗り越えてみせるですぅ!!」
ライナの領域
暴走ライナが、楽しそうに剣を振る。
「いい顔じゃないか。仲間が頑張ってるみたいだぞ?」
刃がぶつかり、火花が散る。
「置いていかれる気分はどうだ?」
ライナは、歯を食いしばった。
(……また、逃げるのか?)
剣を握る手に、わずかに力が戻る。
剣がぶつかるたび、世界が軋んだ。
金属音ではない。
意志と意志が衝突する音だった。
「遅い」
暴走ライナの剣が、容赦なく叩きつけられる。
重く、正確で、迷いがない。
ライナは受けきれず、地面を滑った。
腕が痺れ、膝が落ちそうになる。
(強い……)
否定しようとして、できなかった。
技量も、反応も、踏み込みも、全部、自分より上だ。
「当然だろ?」
暴走ライナが肩をすくめる。
「俺は“選ばなかった方の答え”だ。迷わず、疑わず、欲しい力を掴みに行った結果だ」
踏み込み。
剣閃が、喉元をかすめる。
「第一試練、失敗。その時点で、お前はもう終わってたんだよ」
ライナの背中が、地面に叩きつけられた。
視界が揺れる。
(……まただ)
失敗。
届かなかった手。
救えなかった誰か。
「ほら、立てよ」
暴走ライナが、剣先を突きつける。
「俺が代わりにやる。その方が、全部うまくいく」
剣を握る手が、震えた。
(そうかもしれない)
否定できない。
この“自分”は、強い。
迷いがなく、覚悟が固まっている。
(俺は……弱い)
その瞬間、剣が重くなった。
いや、自分の中の何かが、剣を引き留めている。
暴走ライナが、眉をひそめ大きなため息をつく。
「これがこの世界を救った勇者の姿か・・・。今のお前の姿を世界中が見たらがっかりだろうな」
ライナは、ゆっくり立ち上がった。
「それでも俺は・・・」
剣を構える。
型は崩れ、構えは甘い。
それでも足は、前を向いていた。
「俺は確かに混沌竜戦で失敗した」
一歩。
「怖かった」
二歩。
「全部、投げ出したくなった」
暴走ライナが、舌打ちする。
「だから何だ」
剣が振り下ろされる。
真正面から受けた。
衝撃で、腕が悲鳴を上げる。
それでも、離さなかった。
「それでも……!」
ライナの声が、震えながらも響く。
「お前に任せるのは、違う」
暴走ライナの目が、初めて見開かれた。
「あの時力が欲しかったのは本当だ」
押し返す。
一歩、踏み出す。
「でも力だけで全部決める自分には、なりたくない」
剣と剣が、拮抗する。
暴走ライナの表情が、歪んだ。
「綺麗事だ」
「そうだな」
ライナは、笑った。
弱くて、不格好で、情けない笑み。
「でもさ」
踏み込む。
「それを選ぶって決めたのは、俺だ。だからあの時俺はお前から主導権を奪い返せれた」
暴走ライナは俯き笑っていた。
「その結果があのザマだっただろうが!!今の綺麗なままの勇者じゃあ、あの魔王には絶対勝てないぜ!!
勝ちたいならお前も魔王と同じ周りの事なんざ一切考えない破壊の権化にならねえとなあ!!お前にそれが出来るのか!?」
ライナは暴走ライナをまっすぐ見据える。
「ならない!!俺は俺のままで魔王を倒す!!」
「もういい。お前の甘い理想はもうたくさんだ。結局世界は力が強い奴が制する。俺に劣るお前にその資格はない」
「お前をここで超える」
「やれるもんならやってみろ!!ライナ・ヴァルグレアス」
闘気を解放する暴走ライナ。
その圧倒的な力の前にライナはどう立ち向かうのか。




