9.ルミナVSジーク
ギルマスの依頼で紅の洞窟にやってきたルミナ、ジーク、バルク、ノア。気持ちがまとまってない中、ダンジョン攻略はまだ始まったばかりだった。
4人は第3階層まで下りてきていた。
第3階層まできた途端に魔物の強さが格段に上がったのを全員感じていた。バルクの攻撃では大したダメージが入らず、ルミナの魔術でようやくそれなりに、そしてノアの魔術でとどめを刺せるという感じで、ようやく1匹倒せる状態になってきていた。
その様子を見ているはずのジークは魔物が強くなった途端コソコソ隠れて何もしなくなった。その態度にイライラしたバルクはジークに殴りかかったが簡単に避けられてしまった。
「何のつもりだ?」
ジークは冷めた目でバルクを見る。
「ちっとは手伝えや!!」
「嫌だよ、今の魔物相当強いじゃないか。僕が持ってる剣なんか歯が立たず折れて使い物にならなくなる。剣が折れたら君達が剣買いなおしてくれるの?」
「はあ !?冒険者やってんなら自分の武器が壊れる事なんて日常茶飯事で自己責任だろうが。そんなもんもし折れたなら自分でやれや!!」
「だ〜か〜ら、それが嫌なの。金がもったいないだろう。自分の拳で戦う脳筋バカとは違うの。剣買いなおすのだってそれなりに金かかるから、できるだけ消耗したくないわけ。脳筋バカだから分からない?」
2人の喧嘩を止めようとするノアの後ろから呆れながらルミナは見ていた。
(ジークの言う事が分からないわけじゃない。確かに良い武器は値段もそれなりにする。けど、そんな事気にしてたら何もできない・・・。だからCランク止まりってわけか)
「バルク、ノア」
ルミナの呼びかけに2人はルミナを見た。
「ジークとはここから別行動しましょう。ジークの実力なら脱出するだけなら難なくできるでしょうし、戦う気のない人が一人いるだけでもチームの士気に大きく関わってくる。それは命の危機に直結する。冒険者でない私でもそれくらいは分かるわ」
「そうだな「ですね」」
バルクとノアはジークに背を向けた。
「僕は別に構わないけど、報酬は?」
この状況になっても報酬を気にするジークにルミナもだんだん腹が立ってきたが冷静に返した。
「安心して、報酬は私のを差し上げます。私は報酬に興味ないんで。バルクもノアもこれならいいかしら?」
バルクは舌打ちをしたが渋々納得し、ノアも首を縦に振った。
「ラッキー♪さすがルミナさん。それじゃあ僕は入り口で待機しとくんでよろしくお願いします」
この場から立ち去ろうとしたジークにルミナはつぶやいた・・・。
「元々ランク外だし別に良いけど、臆病者のお子ちゃまには、この洞窟はまだ早かったみたいね」
「は?」
ジークはその言葉に歩みを止めルミナを睨んだ。殺意のこもった視線にもルミナは全く動揺してなかった。
「剣が折れるのが嫌、痛いのも嫌、戦うのも面倒臭い、でも報酬は欲しい。お子ちゃま以外の何者でもないわ。いや、お子ちゃまにも失礼か。お子ちゃまでももう少し聞き分けはいいと思うし」
笑顔で煽るルミナにジークはルミナの首筋に剣を突きつけた。
「あらどうしたの?早く入り口に戻って、そこらへんの小ゴブリンでも倒して悦に浸ってたら?」
張り詰めた空気の中でも一切笑顔を崩さずジークに言うルミナ。その空気にバルクとノアは固唾を飲んだ。
「あんまり調子に乗らない方がいいですよ?僕がその気になればルミナさんだってタダじゃすまないですよ」
ジークの迫力に気圧されるバルクとノアに反してルミナはジークに何も感じてなかった。
(・・・奈落の星徒に会う前の私なら、きっと足がすくんでたわね。そう考えたら、あの何も出来なかった経験も悪くなかったわね)
ルミナはジークをまっすぐ見つめた。
「どうタダではすまないか見せてくれる?」
その言葉にジークは構えていた剣を素早く振り抜いたが魔術障壁がルミナを守った。
「え?今、詠唱してました?」
ノアはその状況に驚きバルクを見るがバルクは何も答えれず、ルミナを見て冷や汗を流していた。この世界では異常な状況にジークもたった一振りしかしていないのにフゥ、フゥ、と息が上がり冷や汗を流していた。
「無詠唱だと・・・」
「初めて成功したわ。でも無詠唱だとやっぱり効果は弱いわね。剣を折るつもりで障壁を張ったんだけど弾いただけ。それでもこれで戦略が一気に広がる。ライナのおかげね」
ルミナはジークを見て不敵に笑う。
「ふざけるな!!」
ジークはルミナに攻撃を仕掛けるが今度は難なく避け続ける。
「魔術師の動きじゃない」
ジークが驚いているとルミナがアーク・セレノスの先で顔を小突き、ジークは尻餅をついた。
立ちあがろうとするジークにルミナはアーク・セレノスを突きつける。
「まだやる?」
ジークはキッとルミナを睨みながら、剣でアーク・セレノスを払い除け、後ろに下がり闘気を剣に集中させた。
「当たり前だ !僕の最大奥義を喰らえ!!轟断剣」
剣から振り落とされた一撃は地面をえぐりながら衝撃波となってルミナに襲い掛かった。
「風の理よ、我が意志に従い、鋼をも穿つ槍となれ!エアロ・ランス!」
空気を収縮させ、槍の如く一撃を轟断剣から放たれた衝撃波にぶつけ、なお威力が残ったエアロ・ランスはジークの横を通り過ぎ洞窟の壁に穴を開けた。
ジークは壁に開いた穴を見て戦意が喪失し、へたり込んだ。
ノアはその様子に一言すごいとだけ呟いた。
近づいてくるルミナにジークは彼女を見上げ睨みつけた。
「あなたは強い・・・。その力を貸してくれない?」
手を差し出すルミナ。
「嫌味ですか?たった今あなたに手も足も出なかったのに」
「最後の一撃、あれはヒヤッとしたわ。判断を誤って、低級魔術で迎え撃ってたら私がやられていた」
「それはどうも」
「ジーク、今後のあなたのやり方に口出しをするつもりはないわ。それがあなたの冒険者としてのスタイルなんでしょ?でも、今だけ私達に協力して強い魔物にも立ち向かってくれない?」
ジークは黙ってルミナの話を聞いていた。
「さっきも言ったけどあなたは強い。その力はこれから向かう最深部に【いる】奴をどうにかする為に必要な力」
ルミナのその言葉に3人は地面の下を見た。
「さすがに全員気づいてるよね。まだ下のはずなのにここまで感じさせるほどの威圧感。私とバルクとノアで向かっても勝てない事はないけど、それでも甚大な被害は免れない。でもジークがいれば最小限の被害で絶対勝てるわ」
「ノーダメージは無理ですか・・・」
「無理ね。それはあなたが一番分かってるはずよね。そんな生半可な相手じゃないって」
「だからわざとやる気がないフリをして帰ろうとしたのに・・・。このまま僕抜きでやれば、依頼が完遂できない可能性があるんですね?」
「えぇ!」
ルミナは笑顔で答えた。
「僕との勝負、完膚なきまでに僕が負けるまでの流れ、全てルミナさんの手のひらの上だったってわけですか」
ジークはやれやれといった感じで立ち上がった。
「さあ?何の事やら」
「僕は自分が一番可愛い。本気でヤバいと思ったら迷わず逃げる。いいですね?」
「えぇ、あなたがそう思った時は私達も撤退する。初めにもヤバいと思ったら引くと私は言ったわ」
「僕の力でどこまでお役に立てるか分かりませんが、せいぜいやらせていただきますよ」
「あなたがいれば百人力よ。頼りにしてるわ。勿論、あなた達も」
そう言ってルミナはバルクとノアにも振り返った。それにバルクとノアはおうよ、はい、とそれぞれ応えた。
心が一つになった4人は更に下、威圧感を放つ者の所に向かうのであった。