表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/95

89.試練

原始竜アドゥ=ラグナスと出会ったライナ達。


力を貸してほしいと頼む彼らにアドゥ=ラグナスの返答は?


丘の上。


風が、不自然に止んだ。


アドゥ=ラグナスの金色の瞳が、ゆっくりと細まる。


「・・・ああ」


その一言だけで、空気が変質する。


リリスは胸を押さえた。


何かが、見えない場所から流れ込んできている。


「今、感じた?」


ライナが低く問う。


アドゥ=ラグナスは視線を空へ・・・否、空の向こうへ向けた。


「次元の綻びだ」


淡々とした声。


「お前たちの魔王・・・グラン・ディアヴォルス」


一瞬、周囲の大気が重く沈む。


「奴の“気配”が、ここまで滲み出ている」


ルミナの顔色が変わる。


「この世界に・・・?」


「完全ではない」


アドゥ=ラグナスは首を振る。


「だがな、これは前兆だ」


鱗が、わずかに軋む音を立てた。


「力を得た者は、必ず溢す。制御しきれぬほどの力は、世界の境界を汚す」


グラウ=ネザルが、低く呻く。


『・・・あの魔王が、そこまで』


「結論を言う」


アドゥ=ラグナスは、ライナ達三人を順に見た。


「放置すれば・・・」


一拍。


「この世界にも、被害は及ぶ」


その言葉は、重く、決定的だった。


村の子供たちの笑顔。


穏やかな畑。


守神として共に在り続けた、この日常。


ライナの拳が、強く握られる。


「・・・だから、手を貸す?」


「勘違いするな」


即座に、切り捨てるように言う。


「“善意”ではない」


アドゥ=ラグナスは地面に伏せたまま、だが圧倒的な存在感で言い放つ。


「同等の力を持つ存在が暴れれば、盤面は崩れる。その火の粉が飛ぶなら、先に消す」


リリスは静かに頭を下げた。


「それでも・・・助力に、感謝するです」


「まだだ」


その声に、三人の背筋が凍る。


アドゥ=ラグナスの瞳が、冷たく光った。


「お前たちに、条件がある」


「条件・・・?」


ライナが問い返す。


「試練だ」


一瞬、世界が軋んだ。


「理不尽な?」


ルミナが言う。


「どう思うかはお前たちの心次第だ」


アドゥ=ラグナスは、まるで当たり前のように続ける。


「“届かぬ者”に、力は貸さない」


「混沌竜と戦った程度で満足するな」


その言葉が、胸を抉る。


「混沌竜を取り込んだ魔王に届くには・・・」


ゆっくりと、言葉を区切る。


「壊れ、捨て、なお立て」


三人の視線が交錯する。


「生き残るだけでは足りない」


「勝つだけでも足りない」


「世界を背負う覚悟が、明確な形にならなければ・・・」


アドゥ=ラグナスの視線が、ライナに突き刺さる。


「勇者ですら、踏み潰される」


「一度は救った勇者のライナでも?」


ルミナがアドゥ=ラグナスに尋ねる。


「この世界の魔王バルザザードなど、魔王の配下どもの序列で言えばNo.3が妥当だろ。であろう、ライナよ?」


アドゥ=ラグナスはライナに視線を向ける。


ライナは無言で頷いた。


『ふん。向こうの世界の動向も把握してるのか。食えぬ奴よ』


「儂を誰と思ってる?原始の竜ぞ・・・」


静寂。


アドゥ=ラグナスの言葉の圧に全員、言葉が出なかった。


「儂の力を借りるつもりなら、それ相応の覚悟を持ってもらわねばならん。”死”も含めてな・・・」


「それでも?」


そう問いかけるように、アドゥ=ラグナスは言った。


ライナは、息を整え、一歩前に出る。


「・・・やる」


即答だった。


「やらなきゃ、全部終わる」


ルミナも、胸に手を当てる。


「覚悟なら、とうに」


リリスは竪琴を胸に抱き、静かに微笑んだ。


「どんな音でも、最後まで奏でてみせるですぅ」


アドゥ=ラグナスは、ほんのわずかに口角を上げる。


「・・・三人ともいい眼だ」


丘の空が、歪む。


「なら、始めよう」


その声は、宣告だった。


「この試練を越えられなければ」


「魔王に挑む資格すら、ない」


第一の試練

ーー精神の試練《反照回廊リフレクト・ラビリンス》――


「最初は、心だ」


アドゥ=ラグナスの声が、丘全体に響く。


「力は心に従い、心は嘘をつく」


次の瞬間、世界が、裏返った。


音が消える。


色が抜け落ちる。


地面が消え、空が崩れ、三人はそれぞれ別の空間に立っていた。


共通しているのは一つだけ。


ここには“自分自身”しかいない。


ライナの精神試練


「勇者でなければ、何者だ?」


薄暗い回廊。


壁一面が鏡で覆われている。


映っているのは、様々なライナ。


・剣を振るえず、仲間を守れなかったライナ

・暴走し、ルミナとリリスを傷つけかけたライナ

・混沌竜を倒しきれず、魔王にすべてを奪われたライナ


そして一番奥に映るのは。


玉座の前で、膝をつくライナ。


「・・・俺?」


鏡の中のライナが、顔を上げる。


『勇者を名乗った結果が、これか』


声は、自分自身のもの。


『守れなかった』


『勝てなかった』


『選ばれたのに、届かなかった』


無数の鏡が、同時に囁き始める。


『本当に勇者だったのか?』


『剣がなければ?』


『力がなければ?』


神竜剣グラネシスが、ここにはない。


『勇者とは、力だ』


『力がなければ、ただの人間だ』


胸が締め付けられる。


混沌竜に押し潰されかけた瞬間。


仲間が盾になって倒れた光景。


「・・・違う」


声が震える。


「俺は・・・」


鏡の中のライナが、冷笑する。


『なら言え』


『仲間も守れず、力がないお前は、何者だ?』


沈黙。


答えが、出ない。


その瞬間、鏡が砕け散り、床が崩れ落ちる。


「答えを出すまで、ここから出られない」


アドゥ=ラグナスの声が、どこからともなく響いた。


ルミナの精神試練


「お前は何故、勇者に同行している?」


白い広間。


そこには、王達が立っている。


しかし全員、目を伏せ、口を閉ざしている。


「・・・これは」


ルミナが一歩踏み出すと、王の一人が言葉を発した。


『世界を知らぬ無垢な少女よ』


次の王。


『知識の中だけで全てを知ったつもりでいた無垢な少女よ』


次の王。


『何も出来ぬ無垢な少女よ』


「違う・・・」


『何が違う?勇者と別れた後、お前は一体何を学んだ?』


「それは・・・」


ルミナは紅の洞窟、叡智の都市ミスティアでの出会いや死闘でライナに追いつけたと思い込んでいた。


だがいざ再開してみると、ライナとの距離は更に広がっていた事に彼女はショックを受けた事を覚えている。


それでも必死にしがみつき今日までやってきた。


『お前は正しい。正しく努力してきた』


王達が、一斉に顔を上げる。


その顔は全て、ルミナ自身だった。


『正しさを選び続けた』


『だが、それで救われた者は誰だ?』


床に、無数の手が伸びる。


助けを求める声が、重なる。


「私は・・・!」


目の前に現れた杖を取ろうとするが、杖は霧となって消える。


『正しさだけでは、何も掴めない』


ルミナは頭を抱え座り込んだ。


アドゥ=ラグナスの声。


「正しさを捨てるか」


「それとも、背負うか」


リリスの精神試練


「赦されたいのか、戦いたいのか」


暗闇。


ただ一つ、音がある。


かつて自分が奏で、混乱と死を招いた旋律。


「・・・やめて」


音は止まらない。


闇の中から、人影が現れる。


それは、かつて自分が傷つけた人々。


『綺麗な音だった』


『でも、痛かった』


『今は味方?』


『それとも、また裏切る?』


精霊竪琴が、ここでは沈黙している。


『魔王を倒せば、許されると思ってる?』


リリスは、唇を噛む。


「・・・思ってないです」


『じゃあ、なぜ戦う』


問いが、鋭く突き刺さる。


「リリスは・・・」


声が、詰まる。


『赦されたいだけ?』


『それとも、戦いたいだけ?』


沈黙。


その時、微かな音がした。


心臓の鼓動。


リリスは、ゆっくりと竪琴を構える。


「・・・どちらでもないです」


闇の中で、彼女ははっきりと言う。


「リリスは、逃げないです」


音が、変わった。


悲しみの旋律が、覚悟の音へと変調する。


三人の前に、同時にアドゥ=ラグナスの声が響く。


「この試練に、正解はない」


「あるのは・・・」


「自分で出した答えだけだ」


「折れる者は、ここで終わる」


「進む者だけが、次へ行く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ