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88.対面

ライナは原始竜に会うために元の世界に戻ってきた。


ライナは自分の村に戻ってきて村人が出迎えてくれた。


「おお、ライナ。王様に呼ばれて異変の調査に行った後に行方不明になったって聞いて心配したんだぞ」


ライナの父親が近づいてきて、ライナを抱きしめた。


「父さん・・・」


ライナが感傷に浸っていると、母親が父親の背後からひょこっと姿を見せ、ライナの後ろにいるルミナとリリスを見た。


「あらまあ。こんな可愛いお嬢さん達まで一緒だなんて。どこで捕まえてきたんだい?」


ルミナとリリスは顔を赤らめ少し俯いた。


「ごめん。父さん、母さん。帰ってきたんじゃないんだ。用が済んだらまたすぐに戻らないといけないんだ」


「そうなのか?用ってなんだ?」


父親が尋ねると・・・。


「守り神に会いに来た」


ライナの言葉に村人はざわつき、それぞれヒソヒソと話し始めた。


「守り神様に会ってどうするつもりだ?」


ライナはグラネシスを抜き、村人達に見せた。


「この剣は神竜剣グラネシス。俺が向こうで手に入れた新しい相棒だ。この剣の中には守り神と同じと思われる竜が眠ってる。守り神ならこの子達が住んでる世界の危機を救えるかもしれないと教えてくれた。だから俺達は帰ってきた」


村人達はライナの言葉に半信半疑で耳を傾け、ルミナとリリスを見る。


彼らがまたヒソヒソと話し始め、「いくら、ライナの知り合いだって言ってもな・・・」や「困ってるなら助けてやらないと」など肯定的、否定的な意見が飛び交う。


ルミナとリリスは何も言わず、彼らの話し合いが終わるまで静かに待っていた。


ライナも口を挟まず、全員が静かになるまで立っていた。


しばらくして、群衆の中から長い白髭をした老人がライナに向かってゆっくり歩いてきた。


「村長・・・」


ライナは少し畏まり村長に頭を軽く下げた。


村長はにっこりと笑いライナの肩をポンポンと叩き、頭を上げさせた。


その後にルミナとリリスの方に歩み寄り、笑顔で二人を見ていた。


ルミナとリリスは頭を下げ挨拶をした。


「突然の来訪、失礼します。私ルミナ・セレフと申します」


「リリス・アーディアです」


挨拶が終わると村長は笑顔のまま二人と接した。


「遠い所からよく来なさった。わしはこの村で長をやらせてもらっておるロイズと申します。守り神様の力をお借りしたいという事じゃが、事情を話してはくれんかのお?」


ルミナは自分達がこの世界から見れば異世界人、自分達の世界を救ってもらうためにライナを自分達の世界に来てもらった事、守り神様の力を借りないといけない理由をかいつまんで話した。


全てを聴き終えた村長と村人達は唖然とした。


ルミナの話を聞いてもまだ信じられないといった言葉もちらほら聞こえてきた。


「事情は概ね分かりました。ライナはこの世界を救った勇者。その勇者でさえ現状では太刀打ち出来ぬ相手があなた方の世界に存在する事。その相手と相対するには守り神様のお力添えが必要不可欠だという事も」


ルミナは縦に首を振り、村長や村人達の返答を待った。


「分かりました。守り神様に会う事を許しましょう。というか、別に我々の許可などいらないんじゃがな。ライナが連れてきたとは言え、素性が分からないあなた方を、はい、どうぞと守り神様の元に行かせる訳にもいかなかったので、許してくだされ」


村長が頭を下げ、何人かの村人も続くように頭を下げた。


ルミナは慌てて「頭を上げてください」と言い、お礼を言った。


ライナはいる場所を知っていたが、村長から守り神・・・原始竜がいる場所を教えてもらい、その場所を目指して歩き出した。


道中、ライナは村人達の対応についてルミナとリリスに謝った。


二人とも仕方ないといった感じで首を横に振りつつ、眼下に広がるライナの村や世界を見て静かに微笑んだ。


ライナは二人に自分の世界やこの世界の魔王を倒すまでの道のりや、幾つもある町の名産品、特徴を嬉しそうに話し、束の間ゆったりとした時間が三人の間に流れていた。


村外れの丘。


大きな一本樹の根元。


そこに、いた。


巨大ではない。


威圧感も、神々しさも、ほとんどない。


黒とも灰ともつかない鱗。


翼はなく、地に伏すような姿勢。


一本だけ、後方へ湾曲した角。


そして、眠たそうに半目を開けた、金色の眼。


「・・・あ」


リリスが、思わず息を呑む。


感じる。


理解できないほどの“格”。


だが。


「・・・なんだ?」


アドゥ=ラグナスは、欠伸混じりに言った。


「久しぶりだな、ライナ」


「直接は会ったことねぇだろ」


「お前は何故か小さい頃から頑なにここに来ようとせんかったからなあ。あの時も儂の力を借りればこの世界の魔王を倒す事など、造作もなかったのに」


「そん時は、お前がそんなすごい奴なんて知らなかったんだよ。いっつも眠たそうにしてるボケてる竜と思ってたんでな」


ライナの言葉にルミナ、リリスはおろかグラウ=ネザルも心臓が止まる思いをした。


「はっはっはっは。それも間違ってはいないが、お前さんは直感的かつ無意識に儂に接触するのを避けてただろ?ん?それとも怖かったのかな?儂に喰われると思って」


ニヤリと笑うアドゥ=ラグナスにライナは図星をつかれ少し顔を赤らめ視線を逸らした。


軽い。


驚くほど軽い。


世界を終わらせ得る存在とは思えない声音。


ルミナが、恐る恐る一歩前に出る。


「あなたが・・・原始竜なのですか?」


「お前さん達の世界ではそう呼ばれてるな」


アドゥ=ラグナスは首を動かし、地面に顎を乗せる。


「で?」


一瞬、眼が鋭くなる。


「何をしに来た?」


空気が、一変した。


リリスは背筋を凍らせる。


グラウ=ネザルは、グラネシスの中で無言で一歩下がった。


ライナは、正面に立つ。


「見てたんだろ?」


静かに、しかし真っ直ぐに。


「この二人の壊されそうなんだ」


アドゥ=ラグナスは、じっとライナを見つめる。


「・・・ふぅん」


興味なさそうに、また目を細めた。


「面倒だな」


この温度差。


リリスは思った。


本当に別格だ。


沈黙を破ったのは、グラウ=ネザルだった。


『久しいな、アドゥ=ラグナス』


アドゥ=ラグナスは、一瞬だけ眼を細める。


「・・・ああ」


「いたのか。お前」


その言葉に、グラウ=ネザルの魔力が揺れる。


『我如き眼中にないというわけか』


「そう拗ねるな。なんせ最後に会ったのは千年前だぞ?しかもお前さんは今、意志のある魔力になっておる。すぐには気づけんわ」


だが、その声には何の感慨もない。


丘を吹き抜ける、穏やかな風。


「で?」


アドゥ=ラグナスは再び欠伸をした。


「そちらのお嬢ちゃん達の世界の魔王がどうした?」


ライナは、拳を握る。


「力を貸してほしい」


即答は、なかった。


だが、アドゥ=ラグナスの口元が、僅かに歪む。


「・・・話くらいは、聞いてやる」


その一言に、世界の運命が、静かに動き出した。

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