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87.原始竜アドゥ=ラグナスとライナ

今のままでは魔王に届かないと確信した三人にグラウ=ネザルは原始竜なら何とかなるかもしれないと言った。


「グラウ。ちなみに原始竜の名前は何て言うんだ?」


グラウ=ネザルが、嫌そうに名前を口にする。


『・・・原始竜アドゥ=ラグナス』


一瞬、ライナは黙り込んだ。


リリスがその変化を見逃さない。


「・・・ライナ?」


「いや・・・まさか、そんなはずは・・・」


ライナは額を押さえ、考え込む。


「多分違うと思うんだけど。でも・・・」


ルミナが身を乗り出す。


「でも?」


「俺の世界で・・・」


少し間を置いて、ライナは言った。


「普通に、いる」


室内が静まり返る。


『・・・は?』


グラウ=ネザルが、素で聞き返した。


「いや、だから・・・村の守神」


「は?」


「いや、だから・・・」


ライナは困ったように説明する。


「畑の外れの丘に棲んでてさ。子供が石投げると、尻尾で軽く叩く程度で怒る」


『・・・』


「年に一回、祭りもある」


『・・・』


「大人達は敬うが、子供らにはマスコットみたいな扱い」


完全な沈黙。


やがて、グラウ=ネザルが低く呻いた。


『たまたま同じ名前の竜だ』


ライナもその考えに同意見だった。


リリスは、口元を押さえながら笑う。


「見た目的な特徴を聞いたらいいんじゃないですかあ?」


「そうだな。教えてくれるかグラウ」


グラウ=ネザルが渋々語る。


『翼を持たず、虚無の鱗を纏い、後方に湾曲した一本角』


「・・・虚無の鱗は意味が分からんが一致」


『覗き込む者によって色が変わる眼』


「一致」


『威厳が垣間見える髭を生やしている」


ライナは、深くため息をついた。


「・・・マジか」


顔を上げ、苦笑する。


「じゃあ、会えるわ。普通に」


『・・・・・・』


『原始竜が“気軽に会える”などという世界が存在するとは・・・』


ルミナが、静かに言った。


「つまり」


「魔王に届く唯一の手段が」


リリスが続ける。


「ライナの“帰る場所”にある、ってことですね」


ライナは、ゆっくりと頷いた。


「・・・そうなるな」


ライナ達はライナがこの世界に初めて召喚された城の地下に向かっていた。


道中、ライナはルミナとリリスにふと疑問を抱いた。


「そういや、ルミナとリリス、グラウの”声”が聞こえるのか?」


二人は首を傾げた。


「そう言えば・・・」


「そうですねー」


二人はライナに聞かれて初めて気づいた。


『イグナとヴェル=ナーガとの戦いを経て我らに近づいたのだろう・・・』


ライナが少し驚く。


グラウ=ネザルは心底嫌そうにため息をついた。


『ギルデッド・スターズならともかく、たかが人間どもに我と同等に近づかれるとは・・・』


「リリスは一応元ギルデッド・スターズですよぉ?」


リリスの言葉にグラウ=ネザルは何も答えなかった。


地下に辿り着くとライナとルミナには懐かしい魔法陣があった。


部屋には既に魔術師達が集まっていた。


「てか、異世界を行ったり来たりってそんな気軽に出来るものなのか?」


ライナは素朴な疑問をルミナにぶつけた。


「無理に決まってるでしょ」


ルミナは呆れた様子で答える。


「じゃあどうやって?」


ルミナはグラネシスを指差す。


「転移魔法陣に途方もない魔力を注ぎ込めばいけるわ。そこにある神竜剣とか。ライナを初めてこの世界に呼び寄せた時はこの国中の魔力をかき集めて呼び寄せたわ。それでもあの時は賭けに近いくらい不安定だったけど」


ルミナが転移魔法陣を見る。


「でも今なら、神竜剣、ライナ、私、リリス、ここにいる魔術師達の魔力があればおそらくは・・・」


ライナは転移魔法陣に近づき、自分の魔力とグラネシスの魔力を転移魔法陣に注ぎ込み始める。


魔法陣が光り輝くが、ライナは膝をついた。


「俺一人で出来るか試したけどやっぱ無理か・・・。ほとんどの魔力を持っていかれたけど」


ライナは全身から汗が出て、体が震えていた。


周りの魔術師はざわつき、ルミナは驚いていた。


「いや、これライナ一人だけなら帰れるほどの魔力が込められてる」


「そうなのか・・・。なら」


ライナは立ち上がり魔法陣の中に入ろうとするが、ルミナに止められた。


「そんなふらふらの状態で飛び込んだら向こうに戻れても死んでしまうわ」


ルミナはライナに自分の魔力を少し分け与えた。


「私達も行くんだから無茶しないで」


「そうですよ。もっとリリスを頼ってほしいです」


「リリス”達”でしょ?」


ルミナが眉をぴくぴくさせながらリリスに詰め寄るが、リリスは無視する。


「私達の魔力も注ぎ込もう」


ルミナの言葉にリリスや魔術師達も魔法陣に魔力を注ぎ込み始め、さっきより光が強くなった。


「これなら三人の転移も可能ね」


魔術師達は息を荒げその場に座り込んだ。


「皆さん、ありがとうございます」


ルミナは魔術師達に頭を下げた。


「世界の命運がかかってるんだ。俺達の力では直接は役に立てない。これくらいさせてくれ」


「よーく分かってるじゃないですか。自分の身の程を」


リリスはニヤニヤしながら言う。


その態度にルミナはリリスを睨んだ。


「事実を言ってるだけですぅ。自分が今出来ることを理解しその為に何が出来るかを的確に判断する。生き残るために必要な事ですよぉ?それが分からないうちは三流以下ですよぉ?ルミナ」


ルミナはリリスに何か言いかけたがグッと堪えた。


「リリス・アーディアの言う通りだ。今の俺達が出来るのは、お前達を原始竜がいると思われる、勇者がいた世界に送り届ける事。それだけだ。だから早く行って、帰ってきてくれ」


「皆さん・・・」


「その通りだ。魔王もいつ本格的に動き出すか分からぬ。我らも何とか抑えてみるが、おそらく手も足も出んだろ」


階段からセリフィア王が降りてきた。


「陛下!!」


全員膝をついた。


「私に頭を下げてる暇があるなら、早く行け」


ライナ達は立ち上がり、魔法陣に入ろうとした時、セリフィア王がライナに声をかけた。


「すまない。こちらのゴタゴタに巻き込んで何度も世界間を行き来させてしまって」


セリフィア王が頭を下げ、周囲はざわついた。


それに対しライナは笑顔で答えた。


「最初会った時も言いましたけど、異世界だろうが何だろうが救いたい気持ちはありますし、平穏に暮らしたいと願ってる人達を苦しめる魔王は許せないんで。だからこの件はもう俺の問題にもなってるんですよ」


ライナは手を上げ、魔法陣の中に入った。


リリスは静かに笑い、ルミナはもう一度王に頭を下げ魔法陣の中に入っていき、三人を転移させた後、光が消えた。


「頼んだぞ英雄達よ」


王は天井を眺めた。


転移が終わった瞬間、


ライナの鼻腔を突いたのは土と草の匂いだった。


「……ああ」


思わず、そんな声が漏れる。


石畳でもなければ、聖堂の白い床でもない。


踏みしめるたび、わずかに沈む柔らかな地面。


見渡せば、低い木柵に囲まれた畑。


風に揺れる麦。


遠くで聞こえる、のんびりした家畜の鳴き声。


「・・・ここが」


リリスが呆然と呟く。


「ライナの・・・世界?」


「正確には、俺の故郷の近くだな」


丘の向こう、煙突から細く煙を上げる村。


小さくて、静かで、世界の終わりなどとは無縁に見える場所。


「変わってないな……」


懐かしさに、胸の奥が少しだけ痛んだ。


そのとき。


「おーい!!」


甲高い声が響く。


畑の向こうから、子供が数人駆けてくる。


木剣を振り回しながら、目を輝かせて。


「ライナ兄ちゃん!?」


「帰ってきた!!」


「・・・ああ、ただいま」


リリスとルミナは、完全に言葉を失っていた。


魔王と世界の命運を賭けた戦いをしていた勇者が、今、村の子供に囲まれている。


「兄ちゃん、どこに行ってたの?」


「ちょっと世界を救いに」


ライナがそう言うと子供達は目を輝かせながらすごいと言ってライナを見た。


「村の守神って今日は丘にいるか?」


ライナが子供達に尋ねると


「いると思うよ?今日は飛んでったところ見てないし。多分グースカ寝てるんじゃないかな?」


子供の一人が明るく答えた。


「そうか」


ライナは子供の頭をポンポンした。


「兄ちゃん。守神さまに会いに行くの?」


「ああ」


その言葉に子供達は嬉しそうにライナを引っ張っていった。


グラウ=ネザルが、低く唸る。


『・・・苦手な空気だ』


ルミナとリリスはライナの子供達に見せる緩み切った笑顔に心が温かくなるのを感じた。


こうしてライナ達は原始竜がいるライナの村に向かうのだった。

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