表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/98

83.祈り

ライナが前へ踏み出すと同時に、街中に散らばっていた人々のざわめきが、震えるような沈黙へ変わった。


泣き叫び、恐怖に押し潰されていたはずの人々が、ライナの背中を見る。


血にまみれ、傷だらけで、それでも剣を掲げ歩く男の姿を。


その一歩はあまりに小さく、それでも無限の意味を持っていた。


誰かが呟く。


震えた声で。


「・・・負けないで」


その声が連鎖した。


「お願いだ・・・倒してくれ・・・!」


「守って・・・!」


「頼んだぞ、勇者・・・!」


「生きて帰るです・・・・!」


祈りが風に溶ける。


風は光に変わる。


光は空に昇る。


光は一点へ吸い寄せられる。


ライナへ。


傷口が震え、血が熱を帯び、魂が奮い立つ。


リリスの音がその祈りを拾い、竪琴が共鳴する。


七色の波がライナの体を巡る。


ルミナの魔力がその祈りを束ね、星光が揺らめく糸のようにライナへ吸い込まれていく。


カイルの力が、


フェリアの力が、


シリウスの力が、


すべてを燃料に世界全体が、ライナへ託した。


だから立つ。


だから戦う。


だから、折れない。


ライナは深く息を吸い込む。


熱く、熱く、心臓が脈打つ。


「・・・みんな・・・ありがとう。」


その声は震え、だが揺るがなかった。


だが・・・。


その祈りを嘲笑うかのように、混沌竜が吠える。


世界が裏返る音がした。


『終焉の名を告げよ。混沌終極魔奔滅カオス・オーバークロウ・ドゥーム


黒炎が膨張し、空を呑み込み、世界そのものが暗黒の渦に巻き込まれる。


空は裂け、地は捻れ、海は砕け、濃密な混沌の魔性が、空全体を覆うほどの巨大な魔方陣を形成した。

街一つ・・・。


いや、大陸一つ飲み込む暴力。


次元すら砕ける黒の奔流が収束する。


振り落とされる“終わり”そのもの。


抗う力も、逃げる場所も、希望すらも今まさに飲み込まれようとしていた。


ライナは震えていた。


圧倒的な力。


絶望の質量。


全ての未来を壊す闇。


それでも立ち向かう。


剣を握る手に力が戻る。


意識が凛と研ぎ澄まされる。


そして胸の奥で、声が響いた。


行け。


お前は、一人ではない。


神竜グラウ=ネザルの声だ。


『・・・ここで終わらせるぞ。ライナ』


ライナは剣を振り上げる。


全魔力を一点へ。


祈りと希望を核へ。


魂ごと刃に注ぎ込む。


限界を超えた痛みが走る。


骨が軋む。


血が逆流する。


視界が白く染まる。


それでも振り下ろす。

 

光が爆ぜた。


黄金の竜翼が背に形成され、


その中心から闇より深い蒼光が溢れた。


ライナが吠える。


竜醒極天奥義りゅうせいてん・おうぎ


剣が震え、天が震え、世界が震える。


「星天創界・グラン=レクイエム!!」


天を貫く蒼白の光柱が放たれ、世界を覆う黒炎を切り裂き、混沌竜の終極魔法陣へ突き刺さる。


火花が弾け、衝突が空間を揺らす。


超圧縮された魔力と混沌が衝突し、次元が乱れ、世界が震え、空と地が一瞬だけ反転する。


爆裂の轟音。


光と闇が世界を二分し、激突の中心にライナが立っていた。


「うおおおおおッ!!!」


祈りが剣に宿り、剣が世界を支え、世界が未来を選んだ。


混沌竜の最終奥義は押し戻されていた。


蒼天を割くように放たれたライナの極限奥義


「星天創界・グラン=レクイエム」


その奔流は混沌竜の終極魔法陣へ突き刺さり、世界そのものを捻じ曲げる衝撃音を響かせた。


しかし混沌竜の咆哮とともに、黒炎の奔流がさらに膨れ上がる。


『虚無に還れ。終焉は既に定められた』


闇の巨竜が翼を広げ、混沌と破滅の力を一斉解放し始めた。


蒼光が押し戻される。


一瞬の後退。


それが決定的な均衡崩壊の始まりだった。


ライナの足元が砕ける。


地面が陥没する。


骨にまで裂ける痛みが走る。


「ぐっ・・・ぁああああッ!!」


光柱は押し込まれ、徐々に縮み、細くなり、まるで、世界ごと呑まれていくかのように。


街の上空を覆う黒炎は形を変え、巨大な顎となってライナの光柱を噛み砕こうと迫る。


地鳴りが響き、大気が悲鳴を上げる。


誰もが理解した。


このままでは終わる。


街が、大地が、人々が。


そしてライナが。


そのとき。


崩壊寸前の聖堂前。


か細い声が震えた。


「・・・お願い・・・負けないで・・・」


それは、少女の声だった。


次に、老人が、兵士が、家族が、隠れていた者がいつの間にか街に出てきていた。


次々に声を重ねる。


「立ってくれ!」


「頼む!」


「お願いだ・・・!」


「守ってくれ!」


「生きて帰ってこい!」


「勇者様ぁあああ!!」


街が光の海へ変わる。


それは祈り・・・。


それは願い・・・。


それは命そのもの。


光の粒が無数に溢れ、風に乗り、空に昇りライナの背へ向かう。


さらに各国の王達が、その祈りを補強するように一斉に力を放つ。


セリフィア王が杖を掲げ、


「勇者よ!この国の未来を託す!」


アルヴァレスト王が剣を掲げ、


「その闘志、我らが誇りと共に在れ!」


ドボル王が拳を突き上げ、


「倒れちゃならん、まだ戦場は終わっちゃおらんぞ!」


ミスティア代表が手を掲げ、


「星の意志よ、勇者を導け!」


それぞれの魔力と祈りが光へ変わり流れ込む。


ライナの体が震えた。


押し返される力。


飲み込まれる未来。


砕ける意志。


だがそこに、人々の願いが触れた瞬間。


胸が熱く燃え立つ。


力が溢れ出す。


視界が蒼く輝く。


「っ!まだ・・・終われるかよッ!!!」


光柱が太くなる。


再び勢いを取り戻す。


蒼炎の竜翼が大きく広がる。


混沌竜が咆哮する。


『無駄だ!!終焉は・・・』


叫びの途中で光が爆ぜた。


押し戻されていた光柱が、一瞬で膨れ上がる。


凄まじい爆風と共に、星天創界の力が闇を押し返す。


「うおおおおおおおおッ!!!!」


その光は祈りが燃料。


願いが刃。


未来を前へ押し出す力。


ついに均衡が崩れた。


蒼の光柱が混沌竜の核心へ食い込み、黒い終末の魔法陣を貫き、闇を砕き、その巨体を飲み込んだ。


混沌竜が絶叫する。


『アァァァアアアアアアアアアアア!!!』


蒼白い光が全身を包み、黒炎の翼が剥がれ落ち、形が崩れ、影が砕け光に消えていく。


ライナが最後の力を振り絞り叫ぶ。


「……消えろォォォォ!!!」


爆音。


蒼光が炸裂し、混沌竜は完全に飲み込まれた。


空は澄み渡り、風が生まれ、世界がゆっくりと息を吹き返した。


静寂。


安堵が、街を満たし始めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ