8.紅の洞窟
ルミナはライナに追いつくため己を鍛える事にしギルドを訪ね、依頼を受けたのだった。
「私はルミナ・セレフ。あなた達は?」
「僕はルーク・ジオン。剣士です」
身長はおよそ170cm、赤髪のオールバック、全身を銀の鎧で纏っているルーク。
「バルク・クラッシュ、武闘家だ」
身長はおよそ190cm、薄着で、短く刈り込んだこげ茶色の髪をしたバルク。
「ノア・スフィアブルーです」
身長はおよそ150cm、青髪の三つ編みで眼鏡をかけて、恥ずかしそうに俯きながら話すノア。
3人の軽い自己紹介が終わると、ルミナは話を始めた。
「今回の依頼内容は把握してますか?」
3人は互いを見た後、ルミナの方を向きコクリと頷いた。
「自分達のランクに見合ってないって事も?」
3人は何も言わず頷いた。
「それでは何故引き受けたのですか?」
「自分達しかいなかったからです」
ジークはルミナを真っ直ぐ見つめ答えた。
「それは聞いてます。他にはないのですか?」
「俺は強い魔物と戦えば、手っ取り早く強くなれると思ったからだ」
拳同士をぶつけ合わせながら答えるバルク。
「わ、わ、わ、私は正直嫌だったのですが、ギルマスの圧が凄くて・・・」
モジモジしながら今にも泣き出しそうなノア。
そんな3人の様子を見てルミナは率直にまずいと思った。
「私はギルマスにあなた達3人のサポートをしてと頼まれましたが、お恥ずかしながら正直私がサポートしてほしいくらいなんです。私は冒険者ギルドに登録もしていませんし、旅に出たのもついこの間です。冒険や戦闘経験、それらに関する知識なら、あなた達の方が何倍もあるはずです。なら客観的に自分が見れるはず。なのに自分しかいないからとか、手っ取り早く強くなれるからかもとか、断りきれなかったからとか、そんなフワッとした理由でこれから紅の洞窟に向かうんですか?そんな人達に背中を任せるなんて到底できないとは自分達で思わないんですか?」
ルミナは語気を強め3人を問い詰めた。
「冒険者に大層な理由を求められてもな・・・。俺はやりたいようにやる。戦闘が好きだから冒険者やってるだけだし」
バルクは面倒臭そうに言った。
「僕も自由気ままにやりたいから冒険者やってるだけです。他の高ランク冒険者がいたなら、こんな高難度の依頼、受けてませんでしたよ。この国で著名な魔術師のあなたがいたからそれなら危険はないかと思って、受けただけ。それだけです。ついでにランクも上がれば御の字ですし」
ジークはヘラヘラしながら答えた。
「わ、わ、私も、断り切れなかったのもありますが、ルミナさんがいるから受けても大丈夫かな・・・と思って。報酬もかなりいいですし」
ルミナはバルクはともかく、ジークとノアは自分に完全におんぶに抱っこするつもりなのだと分かり、今までよく生き延びてこれたなと呆れていた。
「あなた達の考えはよく分かりました。とりあえず紅の洞窟に向かいましょう」
考えるのが面倒になったルミナは半ば投げやりになり、紅の洞窟に向かう事にし、3人は促されるように歩き始めた。
道中、剣士であるジークと武闘家のバルクが一応先頭に行きルミナとノアを守ってくれる形の布陣を取ってくれていたが、紅の洞窟に着くと、ジークは後ろに下がりルミナに前を譲った。はぁと小さくため息を吐きルミナはバルクと一緒に前を歩いた。
初めのうちは魔物達をバルク一人で難なく蹴散らし、それを見たジークも魔物を次々斬り倒していっていた。ルミナとノアはジーク達が打ち損じた魔物達を魔術で薙ぎ払った。
しばらく歩いていたら、大きい空間に出たので、そこで休憩を取る事にした。各々好きな所に座り休憩をとる様子をルミナはじっくり見ていた。
(バルクは本当に強くなる事だけ考えてる感じね。危なっかしい場面も多々あったけど、それでもいけると自分に絶対的な自信を持ってる。無理はしても無茶はしてない印象だった)
次にノアを見るルミナ。
(ノアは才能は正直感じられない。けど血の滲むような努力をしているのはうかがえる。的確に魔物達の動きを読み、そこから逆算して、詠唱を唱え、ドンピシャのタイミングで魔物を倒していた。それもひとえに魔術が洗練されているから。最小限の魔力で最大限の威力で放つ魔術、すごいわ。でも本人に自覚がないのか自信がない感じがひしひしと伝わってくる。自信を持てればもっと伸びるはずなのに。・・・それより問題は)
ルミナはいつの間にか寝そべっていたジークを見た。
(ジークはバルクと真逆で少しでも危ないと思ったら、すぐ逃げの一手に入る。それも冒険者としての戦略の一つだと言えなくもないけど、引かなくてもいい所でも引く。結果私達がフォローするハメになって、余計な魔力を消費している。ここから先はもっと強い魔物が待ち構えている。こんな状態じゃあ絶対に戦わず、私達に投げる。今の内に何とかしないと)
そう思いルミナはジークに近づき話しかけた。
「ねぇ、ジーク。この先もさっきまでみたいな戦い方をしていくつもり?」
キョトンとするジークをノアとバルクも見ていた。
「そのつもりですけど、何か問題でも?」
その答えに全員がガクッとした。
「おいおい、それはねぇだろ?冒険者なら多少のリスクは覚悟するもんだろうが!?」
「は?お前と一緒にしないでくれるか。僕はできるだけ安全にランクを上げて、悠々自適に誰にも縛られず冒険者を続けたいんだ。出発前にも言っただろう」
「そ、それはあまりにも自己中では・・・。依頼されてる以上はちゃんと仕事はこなすべきだと思いますけど」
「冒険者なんて自己中ばかりだろう?それに国の最高峰魔術師のルミナ・セレフがいるんだ。僕がいなくても楽勝だろ?」
その言葉にバルクがキレてジークの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ、やる気ないなら、今すぐ降りろ!!チキン野郎と一緒にいても足手まといにしかならねぇ」
「チキン野郎?」
ジークはバルクの手を振り解き、後ろに回り込み首に剣の切っ先を突きつけた。その動きに全員が驚愕した。
「確かにやる気はこのメンバーの中ではない方だと思うよ。でもこの中ではルミナさんの次に強いと思うよ。無駄なエネルギーを使いたくないんだ。疲れるの嫌だし」
自分が一番と言わないあたり意外と冷静に自分を分析できている?と思うルミナ。バルクはそのまま振り返らず話す。
「ジーク、お前その実力・・・限りなくAに近いんじゃ」
「んん〜どうだろう?そこんとこ分かんないや。疲れる依頼は面倒だから楽な依頼しか受けないし」
「だ、だからCランク」
ノアは少し警戒する。
「警戒しなくていいよ。どうこうするつもりないし、依頼が終わらないと、報酬もらえないじゃん?」
「そこまでにして!!これ以上威嚇するなら、少しの間眠ってもらうわよ」
ルミナがジークに杖を構えた。
「少し遊びが過ぎました。申し訳ありません。バルクもノアも悪かった」
素直に剣を引き鞘に入れたジークは再び地べたに寝そべった。
(実力は分かった・・・。でもこのまま進んでも本当に大丈夫かしら)
ルミナは悩みの種が増え頭を抱え込むのであった。