75.絶望の混沌
ダルガの呪いに倒れる、リリス、シリウス。
ダルガは混沌竜ヴェル=ナーガを眺める。
「はっはっは。壮観だな混沌竜ヴェル=ナーガ。あれがいれば全てを飲み込んでくれる!!」
ダルガはリリス達に背を向け邪悪に笑う。
イルシアもヴェル=ナーガを崇拝する眼差しで見つめていた。
「はあー。神々しいほどの漆黒。あれこそ神が遣わし破壊の権化。そうは思わない?・・・ってもう息してないか」
ルミナ、カイル、フェリアは血を流し地面に倒れていた。
まだ逃げ切れていない住民達はヴェル=ナーガの姿に恐れ慄いていた。
ヴェル=ナーガの足元には混沌の使徒リーダー、ヴァルター・クロウと勇者ライナが立っていた。
「素晴らしい。攻撃力、防御力、耐久力、スピード。どれにおいても一線を画す!!全てを混沌に飲み込む存在。
原始竜アドゥ=ラグナス、深雷竜ケルヴォ=ラザーデ、黎冥竜ヴァラ=オルフェイン、氷葬竜イグナ=へルヴァル、神屍竜グラウ=ネザル。先の戦いでは原始竜はいず、四種の太古の魔物で一瞬の不意をついて消滅させるのがやっとだった存在だと聞き及んでます。さあどうしますか?今この場にいるのは神屍竜グラウ=ネザルの抜け殻だけ。どうします?異世界の勇者ライナ!!」
ヴァルターは勝利を確信した顔でライナを見る。
「すでに勝った気でいやがる・・・」
『だが、あの人間の気持ちは理解できる。奴を止めるにはあまりにも戦力不足すぎる』
グラウ=ネザルの声がライナの頭の中に響く。
「やっぱ俺とお前だけじゃ止められないか?」
『無理だ。あの娘達とここに集まってる多少マシな連中どもがいれば、まだ戦いにはなるだろうが・・・。
まあそれでも奴がその気になれば一息で今見えてる景色は一変するだろうがな』
「マジか・・・」
ライナは絶望的な状況の中、笑みが溢れる。
「あまりの絶望に観念しましたか?」
「いや、乗り越える壁が高ければ高いほど燃えるタイプなんだよ、俺は」
「いいですね。その表情が絶望に変わる時が楽しみです」
「言ってろ!!」
ライナはヴェル=ナーガに飛び込む。
ヴェル=ナーガはライナの攻撃を真正面から受け止める。
「ちっ、やっぱ傷一つ付かないか」
ライナは神竜剣グラネシスの力を開放する。
ライナは意識をグラネシスに持っていかれそうになるがギリギリ理性を保つ。
「ぐっ!!魔力が高まるのを感じるがちょっとでも気を抜いたら乗っ取られる」
グラネシスからは青白い光と赤黒い光が交互に放たれる。
『無茶はするな。小僧の体がもたんぞ』
グラウ=ネザルが力を抑え込もうとし光が小さくなっていく。
「今無茶しないと勝てるもんも勝てないだろうが!!」
『それはそうだが・・・』
「俺を信じろ。グラウ=ネザル」
『分かった。どのみち死ぬ気でかからなければ活路は見出せそうにないしな』
グラウ=ネザルも覚悟を決めグラネシスの力を抑え込むのを止めた。
『死ぬなよ、ライナ・・・』
ライナはニッと笑いギリギリまで力を開放する。
「はああああああああ!!!」
ライナの体が光り輝く。
「ディヴァイン・ノヴァ」
グラネシスから超高密度の白黒の光線がヴェル=ナーガに放たれる。
「いけえええええ!!」
ライナの雄叫びが周囲に響く。
フゥー。
「え?」
ライナは今何が起こったか理解出来なかった。
ライナのディヴァイン・ノヴァは混沌竜の"ただの呼吸”でかき消えていた。
ライナの一瞬の呆然の間にヴェル=ナーガの巨大な爪がライナに襲いかかった。
『ライナ!!』
グラウ=ネザルが咄嗟にグラネシスで防御結界を張るが意図も容易く粉々に砕かれ、
ライナは幾つもの家を破壊しながら吹き飛ばされていった。
ライナは呆然とし力無く座り込んだ。
『おい、立て!!あの人間が近づいてきてるぞ』
ライナの元にヴァルターが近づいてきていた。
「あまりの事に頭が追いつきませんか?」
ヴァルターの呼びかけにもライナは無反応だった。
「はぁー。もう少し楽しめると思ったのですが、ここまでですね・・・」
ヴァルターは落胆した顔でライナに手のひらを向け魔力を溜め始めた。
「さようなら。異世界の勇者」
ヴァルターがライナに向かって黒炎を放った瞬間、黒炎が斬り裂かれた。
それと同時にヴァルターの肩から血が吹き出した。
「おや?」
ヴァルターは痛い様子も見せずライナを見る。
ライナは項垂れたまま微動だにしてなかった。
だがヴァルターはライナから底知れぬプレッシャーを感じていた。
《カワレ・・・》
ライナの頭にグラウ=ネザルとは別の声が響く。
《オマエノ、ホンショウヲ、サラケダセ。ワレハ、オマエダ!!》
紅黒の光がライナを包み込む。
『貴様は扉の向こうに引っ込んでいろ!!』
グラウ=ネザルがグラネシスの中で扉を閉じようとするが、完全に開き切っており闇がとめどなく放たれ、
押し返される。
《トビラハ、カンゼンニ、ヒライタ。コイツノ、ツカイカタヲミセテヤル》
ライナの目は虚ろで金色に妖しく輝き、口元はニヤリと不気味に笑っていた。
ヴァルターは危険を察知し後ろに飛び退いた。
「オソイ・・・」
グラネシスがヴァルターの眼前に迫っていた。
「ぐっ!!」
ヴァルターは咄嗟に黒炎の壁を作りライナの攻撃を防ぐが、剣圧で吹き飛ばされた。
「ツギハ、オマエダ。トカゲ」
ライナの姿をした何者かがヴェル=ナーガを見る。
ヴェル=ナーガはライナを一瞥するがすぐに視線を外した。
「ムシ、カ・・・」
ライナは一瞬でヴェル=ナーガの足元に移動し、前足に向かって剣を横に振った。
ザシュッ!!
ヴェル=ナーガの前足がわずかながら切れた。
「フッ・・・」
笑みを浮かべるライナ。
切られた事にヴェル=ナーガは目を見開き、ライナを潰そうと足を持ち上げた。
「ヨウヤク、コッチヲ、ミタナ!!」
ライナは目にも止まらぬ速さでヴェル=ナーガの体を次々に切り刻んでいく。
何の支障もないほどの小さな傷だが、ヴェル=ナーガの表情は明らかに不快そうだった。
『小蝿が。我の前をうろちょろするでない』
ヴェル=ナーガが初めて言葉を発した。
「ハハハハハハハハハ。シャベッタッテコトハ、オレヲ、テキトシテ、ニンシキ、シテクレタッテコトカ?」
『調子に乗るなよ。貴様如き軽く踏み潰して終わりだ』
ヴェル=ナーガが振り上げた足をライナに向かって振り落とした。
それに対抗するようにライナはグラネシスに紅黒い魔力を溜め、一気に解き放った。
両者の攻撃が互いにぶつかり合い、突風が起こり周囲に広がり次々と建物が倒壊していく。
その攻撃には周りへの配慮は一切なくただ破壊の限りを尽くしていた。
ヴェル=ナーガは足を弾き返され、少し体勢を崩すがすぐに立て直した。
「イイネ。ゾンブンニ、ヤリアオウカ!!」
ライナがヴェル=ナーガに飛び込み、ヴェル=ナーガもそれを迎え撃つ。
破壊VS破壊の戦いはまだ始まったばかりだ。




