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65.混沌

氷葬竜イグナ=ヘルヴァルの核を貫くことに成功したライナ達。


一段落したと安堵し氷葬竜を眺めるライナ。


すぐに異変に気づく。


「何で、崩壊を始めない・・・」


ライナは疲弊し切った体を起こし、グラネシスを構える。


『安心しろ。直に崩れる・・・。それに小僧に何か言いたいみたいだしな』


ライナが氷葬竜を見ると目だけがライナの方を見た。


《助かったぞ、人間よ。我を邪悪な楔から解き放ってくれて》


「イグナ=ヘルヴァル?」


《いかにも。我こそが氷葬竜イグナ=ヘルヴァルだ》


「何で、町を襲った!?」


《あれは我の意志ではない。混沌の使徒とかいう連中にいいように使われていた》


グラウ=ネザルが唸るような低い声で氷葬竜に話しかけた。


『我と同列である、太古の魔物が人間如きに操られるとは軟弱になったものよのお』


《その声はグラウ=ネザルか。久しいな。我が軟弱になったというなら、お主もそこの人間の道具に成り下がっているではないか》


『こいつは我の大切な器である』


《器を手に入れどうする?我々、太古の魔物と呼ばれる竜種はただ”いる”だけの存在。

今更世界をどうこうしたいわけではあるまい》


グラウ=ネザルは氷葬竜の問いに答えようと考えていると、氷葬竜の体が崩壊し始めた。


《ふむ、崩れ始めたか。時間がない、手短に話すぞ。混沌の使徒、連中の後ろにはおそらく”混沌竜”が絡んでいる》


『混沌竜だと!?奴は我らが完全に消滅させたはずだぞ!!』


「混沌竜?」


『混沌竜ヴェル=ナーガ。はるか昔、世界を我が物にしようと暴虐の限りを尽くした厄災の竜だ。太古の魔物と呼ばれてる我々はこちらから何かを仕掛けることはないが、奴は違ったのだ』


《あぁ、奴は野心そのものみたいな存在だった。本能のまま暴れられては困ると、

我とグラウ、残り二匹の竜で攻め、消滅させたはずだった。だが混沌の使徒が我を支配できるほどの力があるとは思えん。そう考えるとより強大な力が混沌の使徒に力を与えてると考えるのが自然だと思う》


『確かに、混沌の使徒という連中を我はまだ直接見ていないが、貴様を支配するほどだ。普通の人間とは考えにくい』


《だから、気をつけろ。たとえヴェル=ナーガが関係していないにしても連中を放置しているのは危険だ。

早めに潰せるなら潰した方がいい・・・》


表層流の体が半分くらい崩れた。


《人間、グラウの助力があったとはいえ我を倒した。見事だ。褒美に我の核を貴様に託そう。

有意義に使ってくれ。グラウよ先に逝く。さらばだ》


氷葬竜は核だけを残し完全に消滅した。


ライナは氷葬竜を思い空を見上げた。


「ライナ、一体何の話をしてたの?」


ルミナが杖を支えにしてライナに近づいてきた。


「ん?話していた通りだけど?」


「リリス達にはまったく聞こえませんでしたよ。ライナがイグナ=ヘルヴァルと話しているなとは

何となく感じはしましたけど」


『小僧、我らと対話できるのはそれなりの力を持った者だけだ』


「そうなのか・・・」


ライナは氷葬竜が話してくれた事をルミナとリリスに伝えた。


「混沌竜。そう言われたら納得するわ。彼らは本来なら代償が必要なはずの古代魔術をごく普通に使っていた」


「”混沌”の使徒って名乗ってますしね。無関係とは考えにくいですぅ」


「魔王より先にそいつらの対処をした方が良さそうだな」


「そうね。でも、今は・・・」


三人は互いに見る。


疲労困憊な状態で、すぐに落ち着いて休息したかったが、リリスの件でノルディアには戻れない。


ライナはとりあえず氷葬竜の核を回収して、この後どうしようか考えてると、背後から複数の足音が聞こえてきた。


振り向くとそこにはノルディアの住民達が立っていた。


三人は痛みを我慢しながらゆっくり立ち上がった。


住民達の視線はリリスに集中していた。


その中から町長らしき人物が群衆から出てきて、ライナ達に近づいてきた。


「まずは、町を救ってくれた事に関しては感謝を述べよう。どうもありがとう」


町長は頭を下げた。


「俺達は魔王を討伐するために旅をしてるんで、そのついでなんで気にしないでください」


「魔王討伐・・・。なら何故魔王の側近を連れ歩いているのですか?」


町長はリリスを睨んだ。


「リリスは魔王と決別し、共に戦う事を選んでくれました」


「だから、今までの事を許せと?」


「いや、そんな事を言うつもりはない。共に戦ってくれるとは言ったが、リリスにはこれからセリフィア王国で裁判を受けてもらうつもりだ」


「そうですか。で、受けた後もし万が一にも温情が出たとしたら今までの事を水に流せと言いますか?」


「いや、それは・・・」


ライナはリリスをチラッと見る。


リリスは何も言わず俯いていた。


「当たり前ですが、裁判でどのような結果が出ようとも、世界がその女を許す事は絶対にない」


ライナは悔しそうに拳を握る。


「だが、命を救ってくれたのも事実。そのような方々をそんなボロボロの状態でこの極寒の地に放り出すのは無礼だ。傷が治るまでは滞在していただいて結構ですが、治り次第早々に立ち去っていただきます。

これが我々にできる精一杯の譲歩です」


「ありがとうございます」


ライナが頭を下げると続くようにリリスとルミナも頭を下げた。


ライナ達は診療所に連れて行かれ、療養する事になった。


沈黙の中に、冷たい雪が舞い降りる。


夜のノルディアは、救われたはずなのに、どこか、深い悲しみと混乱に包まれていた。

少し更新ペースを落とします

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