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62.氷葬竜イグナ=ヘルヴァル

ライナ、ルミナ、リリスは災害級魔物達を退けるが、直後太古の魔物、氷葬竜イグナ=ヘルヴァルが来襲する。


「来るぞ!!」


ライナの号令と同時にルミナとリリスは左右に散る。


「ガァァァァァァァァアアアアア――ッ!!」


ライナが攻撃させまいと駆け出す。


だが、その足が、わずかに鈍った。


「・・・チッ、身体が・・・重い!」


氷葬竜の周囲には、見えない冷気の結界が広がっていた。


空気そのものが凍りつくほどの極低温。


そのため体が思うように動かなくなっていた。


「寒すぎです!!これじゃあうまく歌えないです!!」


「集中もできないから無詠唱魔術で攻撃しても乱れる」


三人は氷葬竜の前に攻めあぐねていた。


その間にもイ氷葬竜は口から閃光が放たれる。


閃光が通った後は瞬時に凍りつき氷塊が出来上がる。


「あれを食らったら、氷の人形にされるな」


ライナは果敢に氷葬竜に攻撃を仕掛けるが、力がうまく入らず頑丈な氷の鱗に弾かれる。


『イグナか、対峙するのはいつ以来だ・・・』


グラネシスの中にいるグラウ=ネザルの声がライナの頭に響く。


「グラウ=ネザル!!目覚めたのか」


『あれだけ巨大な魔力が放出されてたら、おちおち眠ってもいられん。それより気をつけろ小僧。

イグナは常に自分の周りに氷の結界を張っている。無防備に近づけば結界で凍らされるぞ』


「分かってる。さっき一瞬手が凍りついたから咄嗟に魔力で体を覆って回避した」


『遠距離攻撃も半端なものでは奴に届きもせん』


リリスの歌はこの寒さで封じられてるに等しい。


ルミナの攻撃もバルグロス戦で見せた二重詠唱並みの魔術を放たないとあいつには効かないと考えるライナ。


「やばいな、俺もまだ完全じゃないのに・・・」


ライナはグラネシスを見る。


『分かっていると思うが、扉の向こうの声に耳を貸すんではないぞ』


ライナはバルグロス戦の時の事を思い出す。


「分かってる、分かってるが・・・」


『もうお前は二度、呑み込まれかけているのだぞ。次、呑み込まれれば完全に支配される。戻って来れなくなるぞ』


「クソッ!!どうすれば・・・っ!!」


グラウ=ネザルと話をしていると氷葬竜がライナに向かって閃光を放つ。


「ちっ!!」


ライナは上空に避けるが、それを見越していたかのように氷葬竜がライナにその口を大きく開けていた。


「マジか」


ライナは全魔力を防御に回した。


聖光砲ホーリー・バースト!」


その時、ルミナの光弾が飛翔し、竜の翼に命中する。


爆光が弾けるが、氷葬竜は攻撃の動作を止めない。


その青い瞳が、ルミナを一瞥した。


ほんの一瞬だけ。


まるで、“蚊を見た”程度の反応だった。


「な・・・なんで・・・効いてないの・・・?」


再び光弾を放つ。


三発、五発、十発。


すべてが命中する。だが竜の氷鱗に傷一つつかない。


ライナは一瞬の隙をつき氷葬竜の射程範囲から脱出し、地上に降り立つ。


「助かった、ルミナ」


「ごめんなさい。私の力じゃ・・・」


「気にするな。あいつの相手は俺でも骨が折れる」


ルミナはそれは遠回しに自分はこの戦いでは役に立たないと言われた気分になった。


氷葬竜はライナが態勢を立て直したにも関わらずこちらを見ず魔力をためていた。


ライナがその意図に気付いた時には一歩遅かった。


「あの野郎!!町に!!」


《氷葬の咆哮グラシエル・ロア


低く唸るような声が響き渡る。


青白い閃光が空を裂き、ノルディアの北側が“瞬時に”氷塊へと変わる。


建物も人々も叫ぶ間もなく、凍結して砕け散った。


「そんな・・・っ!」


ルミナが震える。


ライナは、唇を噛みしめた。


「・・・このままじゃ・・・町が全滅する・・・!」


雪が、音もなく降り続けていた。


吹雪の中、氷葬竜の巨体が、ゆっくりと頭を持ち上げる。


先ほどの咆哮でノルディア北部は一瞬にして凍土と化した。


それでもまだ、竜は止まらない。


その胸奥に再び青黒い光が集まりはじめる。


第二撃。


ライナの顔に緊張が走った。


「・・・くる!」


竜の喉奥で、氷の魔力が臨界を迎える。


地面がきしみ、空気が裂ける。


《氷葬の咆哮グラシエル・ロア


轟音とともに、純粋な“滅びの冷気”が吐き出された。


空間が歪む。


雪も氷も、ただの“物質”ではいられなくなる。


存在そのものが凍り、消える、そんな光景だった。


「やらせるかぁぁぁぁッ!!」


ライナが叫び、グラネシスで滅びの冷気を全力で受け止める。


剣身が紅蓮の光を放ち、周囲の氷を蒸発させた。


轟音とともに、赤と金が混ざり合う巨大な結界が展開される。


氷の奔流がそれにぶつかり、眩い閃光を放った。


衝撃波が雪原を薙ぎ、地面がめくれ上がる。


ライナの足元が滑るが態勢を少しでも崩せば、滅びの冷気は町を襲う


「ぐっ・・・こ、こいつ・・・!冷気の圧が・・・ッ!」


グラウ=ネザルの声が脳裏で響いた。


『これ以上解放するな、小僧。扉が開いてしまうぞ』


「分かってる・・・けど、ここで退くわけには・・・いかねぇ!」


剣が軋む。


グラネシスの刃が震え、赤い光が薄れていく。


「持たない・・・っ!」


その瞬間、轟音が止んだ。


氷葬竜の吐息が空気を裂きながら収束していく。


グラネシスの力ががかろうじて直撃を逸らし、ノルディア中心部への直撃は免れた。


しかし竜はすぐに次の攻撃体勢へ移行していた。


蒼の魔力が再び充填されていく。


吐息を止める暇もなく、氷葬竜は三撃目の魔力圧縮を開始する。


「嘘だろ・・・!まだ撃つ気か!」


ライナが息を詰まらせる。


町の防壁の向こうで、人々が怯えた声を上げていた。


「もうダメだ・・・!」


「逃げろ、竜の咆哮がまた!」


「神様・・・!」


絶望が町を包む。


その刹那、リリスが、ライナの隣に立った。


「リリス・・・!?」


彼女は微笑んだ。


「ライナは少し休んでてください。今度は、リリスが守る番です」


「待て、俺でもギリギリだったんだぞ。無茶だ!!」


「無茶?そんなの、とっくに承知してます」


リリスは竪琴を掲げ、血を吐くように無理矢理、歌の詠唱を始めた。


氷の風が彼女の黒髪を吹き散らし、瞳の奥で黄金の光が灯る。


「奏律・絶唱の結界ディヴィーネ・カデンツァ!」


竪琴の弦が、音を超えた“光”を放った。


無数の音符が舞い上がり、光の障壁が空に展開する。


氷葬竜の口が再び開かれ、


第三の“咆哮”が放たれた。


世界が砕ける音。


蒼の奔流がリリスの結界を直撃する。


「ぅああああああッ!!!」


全身から血が噴き出すような衝撃。


音が消え、光が白く染まる。


それでも、彼女は足を止めなかった。


竪琴を握る手が凍りついても、指が砕けても、リリスはただ、唄い続けた。


「誰も・・・もう、傷つけさせないです・・・!」


数秒。


それだけで、永遠にも感じられる時間だった。


やがて氷の奔流が止み、吹雪が静かに消えた。


リリスの障壁は粉々に砕け散り、彼女自身も膝をつく。


だがノルディアは、無事だった。


町人達が、次々に顔を上げる。


「・・・助かった・・・?」


「誰が・・・防いだんだ・・・?」


リリスは荒い息を吐きながら、倒れそうな体を杖で支える。


そして、吹雪が晴れ、彼女の姿が町の光の中に映し出された。


赤の瞳。


黒の髪。


そして、竪琴を携えた少女。


その姿を見た一人の男が、震える声で呟く。


「ま、まさか・・・“ギルデッド・スターズ”の・・・堕ちた歌姫リリス・アーディア・・・!?」


その名が口にされた瞬間、空気が変わった。


ざわめきが雪原を駆け抜け、人々の間に広がっていく。


「ギルデッド・スターズ・・・?本物なのか?」


「でも、あいつは・・・魔王の配下じゃ・・・!」


「なんで、ここに!」


リリスは俯いた。


吐息が白く凍り、肩が震える。


ライナが駆け寄り、彼女の肩を支えた。


「リリス、もういい・・・無理するな」


リリスはかすかに笑った。


「ありがとうです。大丈夫です」


その声は、風に溶けた。


空では、氷葬竜が再び羽ばたこうとしていた。


まるで、彼女の決意を嘲笑うように。

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