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56.解放

再び一対一になったライナはバルグロスから視線を外さない。


「遊びは終わりだ!!この一撃で全員沈めてやるよ!!」


バルグロスから今まで以上の圧を感じるのと同時に魔力が巨大な斧に集まっていく。


「させるか!!」


ライナはバルグロスの攻撃を阻止するべくバルグロスに攻撃を仕掛ける。


神竜剣とライナは再び光を放つ。


「竜閃斬!!」


光が竜の形を成しバルグロスの体を斬り裂かんと襲いかかる。


バルグロスの体は斬られ血が流れるが、バルグロスは微塵も動揺しない。


「どうした!?そんな小手先の技じゃあ、この攻撃を止めることはできないぜ?」


巨大な斧に真紅の魔力が纏う。


「いくぜ!!これが俺様の最強の奥義だ!!戦滅奥義・天壊ノ覇斧〈テンカイ・ハセン〉》」


轟音。


地が裂け、天が鳴る。


真紅の衝撃波が放たれ、砦の中央から放射状に爆散した。


ライナの体は真紅の光に飲み込まれそのまま吹き飛んだ。


瓦礫が舞い、炎が上がり、光が収まる頃。


そこに立っていたのはバルグロス一人だった。


だがバルグロスはイラついた様子を見せていた。


「クソがああああ!!俺の最強奥義を防ぎやがったな」


バルグロスはこの砦ごと吹き飛ばすつもりだったが、砦はおろか今いるこの最上段の場所さえ残っていた。


「剣でギリギリ受け流しやがった。しかも生きてんじゃねえか!!」


バルグロスの眼前には血に塗れたライナが、剣を支えに膝をついたまま、バルグロスを見上げていた。


「ぐっ!!」


ライナは必死に立ちあがろうとするが力が入らない。


「ふぅー。いけねぇ、いけねぇ。頭に血が上っちまった。俺様の奥義を止めたんだ、褒めてやらねえとな」


バルグロスはライナの頭を掴み上にあげる。


「がっ・・・あっ・・・あっ」


「良くやったぜライナ。敬意を表して、苦しませずに殺してやる」


バルグロスはライナを宙に投げた。


ライナは体にまったく力が入らず何もできず落下し始めた。


「あばよ!!異世界の勇者!!」


バルグロスが巨大な斧を落ちてくるライナに合わせて振り構える。


ライナはもう何もできないと目を閉じた・・・その瞬間手の甲の痣が光り、グラウ=ネザルが塞いでくれてる扉の隙間から言葉が漏れ出てきた。


《カイ・・・ホウ、シロ・・・》


ライナはカッと目を開き、バルグロスの攻撃を弾いた。


「なっ!!」


バルグロスはライナの反撃に驚いた。


神竜剣の中のグラウ=ネザルが低く唸る


『小僧!!抑えろ!!今度こそ飲み込まれるぞ!!!』


だがグラウ=ネザルの声は届いてない様子だった。


《オマエ・・・ジャマ・・・》


扉の向こう側の声の主はグラウ=ネザルを扉の前から弾き飛ばし闇が飲み込んだ。


ライナの身体を、光と闇が同時に包み込む。


白金の輝きが紅く染まり、皮膚の下で竜の紋様が浮かび上がる。


血が逆流するような痛みとともに、瞳の色が金から紅へと変わっていく。


「が、ああああああああああッ!!!」


叫びと共に、砦全体が爆裂した。


光が爆発し、風が逆巻き、天空を突き抜けるほどの衝撃波が吹き荒れる。


バルグロスが腕で顔を覆う。


その表情に、僅かな驚愕が走った。


「何が起こってる?」


ライナの姿が、光の中から現れる。


髪が風に逆立ち、全身から紅黒のオーラが噴き上がる。


背後に、巨大な竜の幻影、“かつての神屍竜グラウ=ネザル”が浮かび上がる。


その双眸は、怒りと悲しみが混じった深紅の焔。


地に刻まれた竜紋が砦全体を覆い、空が裂けるように轟いた。


《フウ・・・イン・・・カイジョ》


次の瞬間、紅蓮の光が炸裂する。


砦が震え、大地が裂け、天が赤く染まる。


バルグロスは笑みを浮かべた。


「ようやく面白くなってきたじゃないか……ライナ!!」


そして、紅く染まった空の下。


理性を失い、竜の怒りと共に暴走するライナが、ゆっくりと顔を上げた。


その瞳にはもう、迷いはなかった。


ただ、燃えるような殺意と、喪失の残響だけが宿っていた。


紅蓮の嵐が吹き荒れ、大気が燃える。


空そのものが裂け、崩壊した砦の石片が宙を漂っていた。


その中心に二つの存在。


ひとりは、血と炎に塗れた獣人王バルグロス。


その身体は無数の傷を勲章のごとく携えており、猛獣のような息を吐く。


もうひとりは、理性を喪ったライナ。


髪は血と光を吸い、紅黒に染まり。


瞳はまるで血の結晶。


そこには、怒りも哀しみもない。


ただ“破壊”という名の純粋な衝動のみ。


神竜剣グラネシスは形を変えていた。


刃の輪郭は歪み、竜の角のような棘を帯び、空気を切り裂くだけで衝撃波を撒き散らす。


その一振りに宿るのは、もはや人の魔力ではなく竜の怨嗟。


《スベテヲ、ハカイスル》

《ヤドヌシ、テキミカタ、ハンベツフノウ》


空気が悲鳴を上げた。


次の瞬間、ライナが消えた。


否、速すぎて“見えなかった”。


バルグロスの筋肉が反射的に反応する。


全身に寒気が走り、反撃の斧を放つ。


しかし、その斧が空を裂くよりも速く。


ズシャッ――!!


鮮血が噴き上がった。


視界が、歪む。


次の瞬間、自分の右腕が宙を舞っていた。


認識が追いつく前に、断面から血が滝のように流れ落ちる。


「・・・あぁ・・・?」


音にならぬ声が漏れた。


バルグロスが振り返る。


そこに、立っていた。


紅い光の中、ゆらりと立つライナ。


片手に神竜剣を垂らし、表情一つ変えず、ただ見ていた。


その視線は、敵を見る目ではなかった。


まるで“存在”を確認していないかのように、虚ろで、冷たい。


「・・・見え・・・なかった・・・だと・・・?」


バルグロスの全身に戦慄が走る。


己が何十年も鍛え上げた身体。


魔王グラン・ディアヴォルスの直下になる前から、ずっと戦場の修羅として生きてきたこの肉体が。


“動くより先に斬られた”。


「ガ、ハハ・・・ハハハハハハハハハ!!!」


次の瞬間、バルグロスは笑い出した。


狂気と歓喜が混じる、獣じみた咆哮。


「いい!!いいぞォッ!!!」


「貴様は何だッ!!この身をここまでしたのは魔王以来だぞ!!!」


口元から血を垂らしながら、両目を見開く。


痛みはない。


あるのはただ、戦士としての悦び。


「グラン・ディアヴォルスをも越え、この俺を殺せるかもしれぬ存在ッ!ならば、貴様を殺して、魔王グラン・ディアヴォルスも殺し、俺様がこの世界で最強の存在になる!!」


彼の咆哮と同時に、砦の残骸が爆発的に弾けた。


肉体がさらに膨張する。


巨体が地を踏み割り、獣の咆哮が空を揺らす。


しかし、ライナは動かない。


ただ静かに、首を傾けた。


紅い瞳が、ゆらりとバルグロスを捉える。


その瞬間、空間が裂けた。


ライナが踏み込んだだけで、地面が縦に割れた。


速度が“距離”を超えた。


バルグロスは辛うじて反応するが、その瞬間には既に斬撃が通過していた。


ギィン――!!


音が遅れて響き、バルグロスの左肩に血が走る。


だが、今度は笑う。


「見えた・・・見えたぞッ!!」


「さぁ、もっとだ!もっと暴れてみせろッ!!」


紅蓮と黒炎が衝突し、砦の空が焼ける。


竜の咆哮と獣の咆哮が重なり、世界そのものが震えるようだった。


しかし、その中心で。


ライナの瞳には、何の感情も宿っていなかった。


怒りも、喜びも、哀しみも、ただの“空白”。


ライナの世界は、既に壊れていた。


その瞳には、“殺す対象”だけが映っていた。

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