表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/96

53.獣王の咆哮と獣達の哮り

砦の最上段。


焦げた石畳の上を、熱風が舐めるように吹き抜けていた。


硝煙と血の匂いが混じるその中、対峙する二つの影。


一方は、全身を覆う筋肉が岩のように隆起し全身傷だらけのギルデッド・スターズの一人、バルグロス。


その背に背負った巨大戦斧ギル=ラグナは、人間なら両腕でも持ち上げるのがやっとの代物。


その刃には無数の血痕がこびりつき、乾いた音を立ててひび割れている。


もう一方は、血と汗に塗れた若き勇者、ライナ。


手に握るは神竜剣グラネシス。


「・・・お前が、バルグロスか」


「そうだぜ!?俺様が獣王バルグロ・デイモン様だ!!勇者、テメェも名乗りやがれ!!」


「ライナ・ヴァルグレアス」


バルグロスは笑う。その笑みは戦場の空気を裂くような、狂気の笑みだった。


「ライナか、テメェは自分の世界を救ったらしいが、それは本当か!?」


「そうだ!!」


ライナの言葉に、バルグロスの目が獣のように細まった。


「ならば、世界を救ったその力を見せてみろ。その小さな体で、どこまで抗えるかをなぁッ!」


轟音。


地を蹴った瞬間、バルグロスの巨体が爆風を生み、石畳が粉砕された。


重斧が唸りを上げ、空気が爆ぜる。


振り下ろされた一撃は雷鳴のようで、受け止める間もなく地面を抉った。


ライナは咄嗟に横へ跳ぶ。


爆発的な衝撃で砦の壁が崩れ、破片が雨のように降り注ぐ。


もし受けていれば、一撃で身体ごと砕けていた。


「速ぇな・・・」


「そりゃあどうも!」


ライナが反撃に転じる。


閃光のような剣閃が走り、バルグロスの胸に浅い裂け目が刻まれた。


血は出ない。だが、その傷は確かに通った。


「ほぉ・・・これは驚いた。こんなに早く俺様に傷をつけるとは」


バルグロスは舌で血を舐め取り、笑う。


「いいぜ。もっと俺様を楽しませろ!!」


バルグロスが斧を構えると、砦全体が軋んだ。


その魔力は、まるで重圧そのもの。


空気が歪み、風が止まる。


「獣王撃震・第一式」


地面を叩き割る一撃。


波動の衝撃が衝撃波となって前方へ突き抜ける。


ライナは咄嗟に神竜剣を地に突き立て、障壁を展開。


だが防ぎきれず、身体ごと吹き飛ばされた。


「がっ……!!」


背中を打ち、口から血が滲む。


だが、その瞬間、剣の中で、低く重い声が響く。


『人間、気をつけろ。あやつ、想像以上の強さだ』


「・・・グラウ=ネザル・・・!」


『今こそ、鍛錬の成果を見せる時だぞ!!』


ライナの視界が白く染まる。


剣から放たれる神光が空を裂き、砦を覆う黒雲を吹き飛ばした。


「うおおおおおッ!!!竜光斬!!」


ライナの咆哮とともに、グラネシスの刃が竜の形を描いて迸る。


光の竜が大気を切り裂き、一直線にバルグロスへ。


「面白ぇぇええ!!!」


バルグロスの咆哮が重なる。


斧と剣がぶつかり、閃光と衝撃が戦場を覆った。


轟音。


風圧で砦の旗がちぎれ、地面の石が浮き上がる。


刃と刃が擦れ合い、火花が散り、空気が焦げる。


押し合う二人の間に生まれる圧力は、まるで世界そのものが軋むよう。


互いの目は、目の前の相手だけを映していた。


「お前を絶対に倒す!!」


「倒せるものなら倒してみろ!!ライナアァァッ!!!」


そして次の瞬間。


二人の力が爆ぜ、衝撃波が砦を包んだ。


煙と光が混じる中、そこに立つのはまだ、決着のつかぬ二つの影だった。


砦の下層。


戦場はもはや地獄だった。


血の雨が降り、煙が空を覆い、焼け焦げた肉の匂いが鼻を刺す。


だがその中心、たった二人の少女が、数百の獣人達を相手に立っていた。


「さっさと消えるです!!」


リリスの竪琴が鳴った。


小さな指が弦を弾くたび、空気が震え、音が衝撃波に変わる。


その旋律は美しく、けれど残酷だった。


「哀哭の輪舞〈ラメント・ロンド〉!」


音が弾け、波紋のように拡がる。


その一瞬で、十数体の獣人が頭を押さえて絶叫し、血の涙を流しながら崩れ落ちた。


耳を破り、心を砕く魔曲。


彼女の歌声は戦場に咲いた死花。


「・・・ハァ、ハァ・・・魔族だった時の技は今の人間の体には堪えますねぇ・・・。それにまだ来るのですか。バカみたいに、しつこいですぅ・・・!」


小さな肩で息を荒げながらも、リリスは立ち止まらなかった。


竪琴の弦は血に濡れ、左手の指先は切れていた。


それでもリリスの瞳は燃えている。


ライナの背中を、見失いたくなかった。


「・・・ライナも今頑張ってるのです。リリスも頑張らないとですね」


苦笑を浮かべ、髪に張りついた血を払う。


「足手まとい!!まだ立てるですか!?」


「当たり前でしょ。まだ、まだ大丈夫よ」


白銀の杖を地面に突き、ルミナが息を整えた。


その姿はもうボロボロだった。


髪も衣も血と泥にまみれ、肌は魔力の消耗で青白く光っている。


それでも、目だけは揺るがない。


「早くライナに加勢しないと」


杖を高く掲げると、淡い光が天を貫いた。


「聖輪転生陣〈サークル・リザレクション〉!」


大地を覆う光の輪が、瞬く間に拡がる。


獣人達の体が、音もなく崩れ落ちていく。


「どうよ!!」


ルミナの瞳がリリスを見た。


リリスは頷く。


「足手まといにしては上等です!!」


リリスは手を胸に手を当て呼吸を整えた。


「なら、この曲で終わらせてやるです!」


リリスが竪琴を抱きしめ、指を走らせた。


「聖奏曲〈セイント・カデンツァ〉!!」


竪琴の音とリリスの歌が、金属の響きのように鋭く変わる。


弦から放たれた魔力が光の刃となり、放射状に広がった。


同時に、ルミナが詠唱を重ねる。


「光刃加護・共鳴展開!」


白銀の杖から放たれた光がリリスの魔法と共鳴し、音と光が融合する。


旋律が砦全体を包み込み、眩い閃光が空を裂いた。


数百の獣人達が、一瞬にして沈黙した。


光が消えたとき、立っていたのはリリスとルミナ、ただ二人だけだった。


リリスは肩で息をしながら、竪琴をそっと下ろした。


その指は震え、血が滴る。


「・・・終わった、ですか・・・?」


「えぇ・・・全部、倒した。もう、誰も残ってない」


ルミナが優しく答えると、リリスは小さく笑った。


「休憩したいですけど、まだ肝心のバルグロスが残ってるです。ライナのところに行くですよ!!」


二人は互いに目を合わせる。


戦場の残滓を踏みしめながら、砦の階段を駆け上がっていく。


夜風が二人の髪を揺らし、血と灰の匂いを吹き払うように流れた。


砦の上から、雷鳴のような衝撃音が響く。


それは、ライナとバルグロスのぶつかり合い。


リリスの心臓が跳ねた。


「・・・ライナ、リリスが行くまで無事でいて下さいです」


小さな声が、風に消える。


その顔には、年相応の少女らしい焦りと、不器用な想いが滲んでいた。


「行くですよ!!」


「えぇ!!」


そして、二人は砦の最上段へと駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ