5.宵姫リリス、優雅なる殺意
ライナ、ルミナの2人は魔王軍の事を話しながら、次の街を目指して街道を歩いていた。
「直属の配下が5人。今までの討伐隊もだいたいこの5人にやられているわけか」
「うん、魔物にやられる事は殆どないわ。やられるとしたら、魔王軍に与してない太古の昔からいる魔物達によ」
「太古の魔物達ねぇ〜。強いの?」
「えぇ。もし襲われたら天災だと思って諦めろっていうのがこの世界の共通認識。でも基本的に自分達の縄張りから
動く事はないし、向こうから襲ってくる事はないわ」
「ふ〜ん、じゃあ無視でいいか。そいつらがいる事によって成り立っている事もあるだろうし」
「うん。地域によっては神獣と崇めている所もあるから、下手に手を出して反感を買う事もあるわ。それより、魔王グラン=ディアヴォルス。あいつは放置できない。あいつが2年前にいきなり現れたせいで、たくさんの街や村が蹂躙され、魔物も凶暴性が増した」
「この2年間での被害は?」
「最初の半年は一方的に攻められていた。でも、各国の騎士団がそれぞれ力を合わせ、健闘してくれてそれ以降は睨み合い状態が続いているわ。でもその状態もいつまで続くか・・・」
「その各国の騎士団達は魔王討伐には行かないのか?」
「行けないの。恥ずかしながら国同士もそこまで仲が良いとは言えない状況で」
「なるほど、騎士団を派遣すればその間に他国に攻め込まれる可能性があるからどの国も送り込めないのか。どの世
界でもこれは共通か。くだらねぇ」
ライナは少しイライラした様子だった。
「みんな思う所はあるだろうけど、こればっかりは仕方ないよ。それぞれ事情があるだろうし」
ライナは大きくため息をついて、世界の情勢についてこれ以上は聞くのをやめた。
「魔王軍の直属の配下って顔分かるの?」
「分かるよ、1人目の・・・」
ルミナが神妙な顔で何か言いかけた時、突如周りの空気が重苦しく変わった。
「な、何だこの魔力!?」
「この魔力は」
「や〜っと会えた。対リリス達用に面倒な阻害魔術を張ってくれてるおかげで、移動手段が限られて苦労したぁ〜」
「リリス?」
ライナは剣を構えた。
リリスの血のような赤い瞳はライナとルミナを交互に見た。
「はじめまして。わたしは《奈落の星徒》の一人、リリス・アーディア。短い間だけど覚えてね。勇者様」
リリスは幼く見える容姿に反して大人びた笑顔を浮かべ、ドレスの裾を掴んでお辞儀をした。
「【宵姫】リリス・アーディア」
ルミナが杖を召喚し臨戦体制に入った瞬間、後方に吹き飛ばされた。
「かはっ!!」
「ねぇ?リリス、自分で名乗ったよね?何でまた呼んだの?それじゃあリリスが名乗った意味無いよね?ねぇ?何で?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?ねぇ?」
リリスはルミナに向かって複数の魔力弾を放つ。
ライナはリリスの背後に一瞬で回り込み、剣を振り落としたが魔力障壁に弾かれた。
「慌てなくても、順番に壊してあげるから、ちょっと待ってて」
ライナに背中を向けたまま話すリリス。
チリン・・・。
ライナの耳に何かの音が入ってきた瞬間、ライナの体が硬直した。
(このリリスって奴、めちゃくちゃ強い)
ライナは体に魔力を纏い、硬直を解くと同時に閃光斬を放った。
リリスは顔だけライナに向け不敵の笑みを浮かべていた。
ドゥンッ・・・!
ライナの閃光斬が何かに弾かれた。
ライナは慌てず、剣をリリスの脇腹に向かって振り抜くがそれも弾かれる。
ライナは一歩も引かず、リリスに攻撃をし続ける。攻撃を止めたり距離を開けたら何かくると直感的に感じていた。
「すごいね。離れたらヤバいって本能的に感じてるのかなぁ?さすが勇者様。正解だよ♪」
ビイィィィン・・・!
また音が聞こえ、リリスから魔力を帯びた斬撃風が放たれ、ライナは剣でそれを弾くがその反動で後退してしまった。
「でも、そんな様子見の攻撃じゃあリリスに傷一つつけられないよ。音刃」
先ほどの斬撃風が音が鳴ると共に複数発生しライナに襲いかかる。全て捌き切るライナ。
「じゃあ、これはどうかなぁ?夜想の鎖縛」
ライナの体が再び硬直して、身動きが取れなくなった。
「ナメるな!!」
ライナは魔力を体に纏い、拘束を強制的に解除した。
チリィン・・・キィィン。
「・・・チクッてするの、我慢できるかなぁ?音針の連撃」
空中に無数の黒い光の針が出現しライナに一斉に襲いかかる。
「我が内に灯る叡智の光よ、闇を裂き、虚無を照らし、命を護れ。星環よ巡りて輪と成せ、此処に遍く守護の座を築かん。ルクス・ドミヌス」
ルミナが魔術を唱え、ライナの周りを球状の光の壁が覆いリリスの攻撃から守ろうとしたが意図も容易く粉々に砕け散った。
が、ライナは隙をつきリリスの攻撃の合間をすり抜け、リリスに攻撃を仕掛ける。
ライナの渾身の一振りがリリスの体に当たるが傷一つ付かなかった。
「ダメ、ダメ。まだ全然リリス楽しくないよぉ?もしかしてこれが精一杯?・・・だったらもう壊すよ?」
「ちっ!!」
続く