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49.神竜剣グラネシスの試練

ライナは深い眠りに落ちた。


気づけば、そこは現実ではない「何もない空間」だった。


上下も左右もなく、ただ闇と光が混じり合うような不思議な場所。


ガァァァァァァ・・・。


低い咆哮が響く。振り向いた先にいたのは、巨大な白き竜の幻影。


神竜剣に宿る存在、グラウ=ネザルだった。


『ようやく来たな、人間。ここはお前の精神と我の魂が交わる場・・・ここでならば、制御の訓練を行うことも可能だ』


ライナは剣を握っているわけではなかった。


しかし意識した瞬間、右手には神竜剣が現れた。


「・・・ここで、剣を扱えるのか」


『無論だ。だが忘れるな。これはお前の精神の投影にすぎぬ。制御できねば、そのまま精神ごと焼き尽くされる』


竜の双眸がぎらりと光る。


ライナは剣を構え、深呼吸した。


「いいさ。俺は暴走なんかに負けない。・・・始めよう」


その言葉と同時に、空間の地平から光と炎が爆ぜ、雷鳴が轟いた。


神竜剣が呼応するように膨大な魔力を放ち、ライナの体へと流れ込む。


「ぐっ・・・!!」


全身を突き破るような魔力の奔流。


意識が飛びそうになるが、必死に剣を握りしめて踏みとどまる。


『まずはその流れを感じ取れ!力を振り回すのではなく、流れを掴め!』


グラウ=ネザルの声が轟く。


ライナは歯を食いしばり、押し寄せる力を「受け入れる」ように意識を切り替えた。


すると、暴走しかけていた力が少しずつ穏やかに流れ始める。


「・・・これは・・・水の流れみたいだ」


光の奔流が滝のように体を通り抜けていく。


今まで荒れ狂う濁流だと思っていたものが、意識を変えるだけで“導ける川”になる。


『そうだ・・・だがまだ浅い。次はその流れを“形”にせよ!』


空間の中に、いきなり黒い炎の竜が出現した。


グラウ=ネザルが創り出した制御の試練。


ライナは剣を握り直し、迫る炎竜に向かって魔力を流す。


暴走しそうになる力を抑え込み、剣先に集中させ。


「はああああっ!!!」


光の斬撃が走り、炎竜を真っ二つに裂いた。


爆ぜる炎。


ライナは肩で息をしながらも、確かな手応えを感じていた。


「・・・少しだけ、掴めた気がする」


グラウ=ネザルが低く笑った。


『フン・・・呑み込みは悪くはない。さすがは一度世界を救っただけのことはある。だが調子に乗らぬ事だ。道は始まったばかり。お前が本当にこの剣を使いこなすか、それとも呑み込まれるか・・・楽しみだ』


意識が揺らぎ、ライナの視界が白く霞む。


次に目を覚ました時、そこは再び現実の夜明けだった。


森を抜けた先には小さな村があった。


三人はそれぞれ別行動する事にした。


リリスは正体がバレないように念の為フードを深く被り、村のあちこちを巡った。


(気持ちのいい風です。まさか、またこんな気持ちになれる日が来るなんて夢にも思いませんでしたよ。これも全部ライナのおかげなのです。・・・だからリリスはライナの最高のパートナーになるのです!!)


ルミナは村唯一の道具屋に入りそこにあった魔導書を読んでいた。


(なかなか興味深い魔導書ね。買って宿屋で読もうっと。・・・リリス、あの子本当に魔王討伐についてくる気かしら?信用できない。一度はギルデッド・スターズの一角を担ってたわけだし。またあちら側に寝返る可能性がある。それに、ライナに事あるごとにくっつきすぎだし・・・)


悶々と考えるルミナ。


「って何でライナとリリスがくっついてるだけで私がこんなに考えないといけないのよ!!ライナが誰とどうなろうが魔王さえ倒してくれればどうでもいいわ!!」


咄嗟に声が出てしまい、道具屋の主人に怪訝な目で見られた。


「・・・すみません」


ルミナは恥ずかしくなり魔導書で顔を隠した。


ライナは宿でベッドで横になっていた。


(一分一秒がもったいない。また始めるぞ)


ライナは眠りに落ち、暗闇の中で目を開いた。


そこは前と同じ、光と闇が入り混じる虚無の空間。


だが今度は、前よりも明確な「地平」と「天空」があった。精神世界が安定しつつある証拠だった。


『ほう、殊勝な心がけだ、人間。では始めるとするか』


空に影が差す。巨大な白竜グラウ=ネザルの幻影が姿を現す。


その瞳は試すように光り、ライナを射抜いた。


「・・・前回は“流れ”を掴むところまでだった。次は?」


『次は、その流れに“意思”を重ねろ。力はただの奔流ではない。剣に宿る我と、お前の心とが重なって初めて真なる形を成す』


グラウ=ネザルの咆哮と同時に、空間が震えた。


大地が裂け、無数の光と闇の奔流が噴き出す。


それらは龍や獣、剣や槍の形をとって襲いかかってきた。


ライナの精神に生まれた“恐れ”“焦り”が具現化したものだ。


「くそっ・・・これが俺の・・・」


ライナは神竜剣を握り直す。


だが振るう度に、流れが暴走しそうになり、剣身が軋む。


『まだ力を押さえつけている!違う、受け入れろ!そして、己の意志を刻み込め!』


「意思を・・・?」


ライナは深く息を吸い込んだ。


迫りくる光と闇の竜巻に飲み込まれる直前、自分の胸に手を当てる。


守りたいものは何だ?


なぜここまで剣を振るう?


浮かんだのは元の世界の人々やこの世界に来てから今まで出会った人々の笑顔。


そして隣にいるリリスやルミナの姿。


それらが心に火を灯す。


「俺は・・・守りたいんだ。誰一人、失わせはしない!」


その瞬間、剣が共鳴した。


白と黒の光が渦を巻き、ライナの意志に従って一筋の刃へと収束していく。


「はあああああああっ!!!」


放たれた斬撃は、押し寄せる幻影をまとめて両断した。


虚無の空間に轟く爆発音。


光と闇の奔流が霧散し、静寂が訪れる。


ライナの剣先は、確かに「制御された力」を宿していた。


『・・・ほう。やっと一歩、形にできたな』


グラウ=ネザルの声音は低いが、どこか愉悦を含んでいた。


『だがまだ未熟だ。お前の意志は弱い。迷えば、流れはすぐ暴走する。次の段階では、己の感情すら制御せねばならぬ。怒り、恐れ、迷い・・・それらを力に変える術を学べ』


竜の双眸がぎらりと輝く。


ライナは荒い息を吐きながらも、真っ直ぐにその視線を受け止めた。


「分かった。・・・ここで、必ず掴む。暴走させず、力を“俺の剣”にする」


その決意に応えるように、空間が再び形を変えていく。


今度はより深い暗闇と、苛烈な光が混ざり合い、嵐のように渦巻く。


ライナの精神修行は、次の段階へと突入していった。

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