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46.合流

王国を離れて数日。


森を抜け、街道を歩む二人の旅はまだ始まったばかりだった。


陽光の下、フードを深く被ったリリスは、かつての艶やかな舞台衣装とはまるで違う、無骨な旅人の姿で歩いている。


「なぁ、リリス」


 沈黙が続く中、ライナがふいに切り出した。


「ギルデッド・スターズの他の奴ら・・・あいつらも元は人間だったりするのか?」


リリスは歩みを止めることなく、小さく鼻を鳴らした。


「・・・そうです。セレネアとゾークは間違いなく元人間です。人間だった頃は、それなりに有名でした」


「有名?」


「セレネアは今は亡き大国の宰相。『氷の才女』なんて呼ばれて、民衆の憧れだったです。ゾークも帝国最強と謳われた守護騎士だったです。人間界にいた頃は二人とも、英雄に近い存在だったです」


ライナの眉がわずかに動く。


思い描いていた「絶対悪」の像が、ほんの少し揺らぐ。


「バルグロスは・・・人間といえば人間。けど、正確には獣人です。戦場じゃ誰もが恐れる“血染めの闘士”として知られてた。戦うために生まれて、戦うために生きてる・・・あれは、ただの猛獣です」


リリスの声音が冷たくなる。


彼女自身、仲間として共にいたからこそ、その本質を嫌というほど理解していた。


「じゃあ、最後の一人・・・ヴァルゼルは?」


ライナの問いに、リリスは初めて立ち止まった。


深いフードの下で視線を伏せ、低く呟く。


「ヴァルゼルだけは、分からないです。出自も、過去も、全てが謎に包まれてる。知ってるのは、魔王さ・・・いいえ魔王に最も近い存在ってことだけ」


ライナは無意識に拳を握りしめていた。


リリスを人間に戻せたように、他のギルデッド・スターズも説得すれば。


その考えを読んだかのように、リリスは鋭く言い放つ。


「・・・それはお勧めしないです、ライナ」


「え?」


「リリスみたいに、他のギルデッド・スターズを救おうだなんて思わないことです。そんな甘い考えで挑んだら、今度こそ確実に殺されるです」


彼女の声には怒気ではなく、切実な恐怖と現実を突きつける冷徹さが宿っていた。


「セレネアとゾークは完全に魔王に心酔してる。人間だった頃の未練なんて微塵もないです。だからこそ二人の祖国は今存在していないのです。バルグロスは戦闘狂です。戦うこと以外に価値を見出せない奴に救いなんて必要ないです。そして、ヴァルゼルは・・・言うまでもないのは分かってますよね?」


歩き出したリリスの背中は、どこか影を帯びていた。


リリスの言葉は、決して脅しではなく現実だった。


(・・・セレネア、ゾーク、バルグロス、ヴァルゼル。そいつらは救う対象じゃない。敵として、倒す)

 

歩きながら、心の中でその決意を噛み締めるライナ。


その横でフードを深く被ったリリスは、彼が下した覚悟を知ってか知らずか、無言のまま歩を進めていた。


そんな折――


「やっと見つけたぁぁぁ!!!」


派手な光と共に、空から眩い閃光が落ちた。


地面に舞い散る火花と砂埃の中、軽やかな着地とともに現れたのは、ルミナだった。


銀髪を風に揺らし、杖を構えるその姿は、以前と変わらぬ眩しさを放っている。


「ライナの魔力が、ようやく私の索敵できる範囲に入って、急いで追ってきたわ!」


「そ、それはご苦労さん・・・ルミナ」


ライナは思わず目を見開いた。


仲間との再会に安堵しかけたその時、ルミナの視線が横に移る。


「その隣にいるのは・・・?」


フードで顔を隠していたリリスが、ゆっくりと前へ出る。


そしてフードを脱ぎ淡々と告げた。


「久しぶりですぅ。リリス・アーディアですぅ」

 

その名を聞いた瞬間、ルミナの瞳が大きく揺らぎ、同時に杖が一気に構えられる。


「なっ・・・!リリス・アーディア!?ライナ、何でそんな奴といるの!?」

 

臨戦態勢に入ったルミナの気迫が一瞬で辺りを満たす。


緊張が爆発する直前、ライナが慌てて二人の間に割り込んだ。


「待て!ルミナ、話を聞いてくれ!」


「何を言ってるの!?リリスは敵でしょ!こいつがどれだけの人を」


「分かってる!だけど事情があるんだ!」


ライナはルミナを真っすぐに見据えた。


その瞳に嘘がないことを悟り、ルミナの動きが一瞬だけ鈍る。


「・・・事情?」


「ああ。リリスはもう、人間に戻った。俺が・・・神竜剣の力で。それに今は、俺の仲間だ」


「仲間・・・っ!?ちょっと、正気なのライナ!?」

 

ルミナは杖を下ろすことはしなかったが、ライナの必死の声に、その杖先はわずかに揺らぐ。


リリスは何も言わず、その場で静かに立ち尽くしていた。


緊迫した空気の中、ライナは深呼吸をして、これまでの経緯、リリスとの死闘、彼女の過去、改心、そして人間に戻ったことを説明し始めるのだった。


ライナの必死の説明が終わっても、ルミナは納得できなかった。


杖を構えたまま、彼女は苛立ちを隠さず声を荒げる。


「そんな話、信じられるわけない!たとえ人間に戻ったって、罪は消えない!ライナ、あなた・・・どうしてこんな奴を!」


その言葉を遮るように、リリスが前に出た。


蒼白な顔を真っすぐにルミナへ向ける。


「勘違いしないでほしいんですけどぉ。リリスは“ライナ”の仲間になったの。あなたの許可なんて必要ないのですぅ」


そう言い放つと、彼女は迷いもなくライナの腕に両手を絡め、その胸元に身体を預ける。


突然の行動にライナは目を丸くするが、リリスの瞳は挑発的に輝いていた。


「ねえ?リリスはもう“ここ”に居場所を見つけたの。・・・それが気に食わないなら、どうぞ勝手に吠えてるのですぅ」


「なっ……!」


ルミナの顔がみるみる赤くなり、怒りと困惑が入り混じる。


ルミナは言葉を詰まらせ、震える指先でリリスを指した。


「そ、そんなことして・・・!ライナをたぶらかしてるだけでしょ!あなたみたいな裏切り者を仲間だなんて認めない!」


「ふふ・・・だからあなたの許可なんて必要ないのですぅ。”認めない”って言ったところで、私はもうここにいるのですぅ。それとも、そんなに余裕がないのですかぁ?それじゃあこの先の冒険についていけないと思うのですが?」


リリスの冷ややかな挑発に、ルミナの堪忍袋の緒が切れる。


足元に魔力が迸り、杖がギラリと光を放つ。


「・・・いいわ。なら、はっきりさせましょう!ライナの仲間にふさわしいのは、どっちか!!」


宣戦布告のような声が響くと同時に、杖を構えるルミナ。


それに対し、リリスも腕をほどき、以前とは雰囲気が違う純白の竪琴《ルーン=ミゼリア》を静かに構えた。


「望むところですぅ。リリスの歌と竪琴で、あんたの“光”がどれほど通じるか、試してあげますですぅ」

 

両者の間に走る緊張は、先ほどまでとは比べものにならなかった。


ライナは慌てて割って入ろうとするが、二人の気迫がそれを許さない。


こうして、少女達の火花散る一騎打ちが幕を開けようとしていた。

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