表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/95

41.絶望の歌

リリスの過去を知ったライナはそれでも止めると立ち上がった。


リリスが静かに竪琴を下ろした。


その動作に、一瞬の隙を突けると考えた騎士団員達が一斉に武器を構える。


だが、リリスは竪琴を弾かない。ただ、唇を開き、透き通るような声を紡いだ。


「歌は、人の心を救いもするし、滅ぼしもする。あなたたちにふさわしいのは……絶望の旋律」


その瞬間。


澄み切った美声が空気を震わせ、耳に届いた途端、団員達の身体から力が抜け落ちる。


「ぐっ・・・な、なんだ・・・!」


「体が・・・動か・・・っ」


希望を支えたはずの歌声が、今や心を切り裂く凶器となって襲いかかっていた。


誰もが剣を握ることすらできず、その場に崩れ落ちていく。


「やめろ・・・リリス・・・!」


シリウスが歯を食いしばり、剣を突き立てて耐える。


音の波が心臓を直接掴むように押し潰してくる。


呼吸すら奪われるのに、彼だけは剛剣のような精神力で立ち続けていた。


だが周囲を見れば、すでに団長達でさえ膝をつき、地に伏している。


「流石はシリウス団長。喉を温める程度の歌なら、耐えれるってわけ」


リリスが愉悦の笑みを浮かべる。


シリウスが一歩前に出ようとしたその時。


「待て、シリウス!」


ライナの声が響く。


ボロボロの身体で、しかし剣を握りしめ立ち上がっていた。


「こいつは・・・俺がやる。ありがたいけど・・・こいつは俺一人でケリをつけないといけない気がするんだ」


「だが、ライナ!お前の体は・・・!」


シリウスが食い下がる。


ライナはギラつく瞳を向け、低く言い放つ。


「俺が立ってる限り、まだ負けてねぇ。・・・頼む。お前は団員達を守ってやってくれ」


その言葉にシリウスの目が大きく揺れた。


剣士としてではなく、仲間を守る者として、ライナの意思がまっすぐに伝わる。


数秒の沈黙の後、シリウスは静かに剣を下げた。


そして苦しげに笑みを浮かべる。


「・・・分かった。ならば託そう。お前のその覚悟に」


彼は即座に周囲を見渡し、倒れ伏した団員達や団長達を抱え上げる。


「みんなを安全な場所へ運ぶ!死ぬなよ、ライナ!」


「当然だ・・・!」


ライナは答え、リリスだけを真っ直ぐに見据える。


リリスはそんな二人のやり取りを眺め、楽しげに竪琴を軽く爪弾いた。


「いいですねぇ……その覚悟。歌姫に立ち向かうなんて、最高の観客よ」


歌声が再び空を震わせる。


「ふふ・・・やっぱり、あなたって面白いね」


リリスが竪琴を構え直し、今度は指を滑らせるように軽やかに弦を弾いた。


甲高い音色が空気を裂くと同時に、彼女の歌声がそれに重なった。


「竪琴の弦よ、雷鳴となって砕け散れ!!《雷弦衝波〈サンダー・ストラム〉》!」


青白い雷光が弦から奔り、矢のようにライナへ襲いかかる。


ライナは神竜剣を横薙ぎに振り抜き、雷撃を刃で切り裂いた。


「まだなんだから!」


すぐさま次の和音。


今度は空気を震わせる低音が轟き、


「氷の調べよ、心臓を凍らせろ!!《凍絶弦奏〈アイシクル・コード〉》!」


無数の氷刃が空中から降り注ぐ。


ライナは地を蹴って駆け抜け、斬り払い、受け流す。


竪琴の攻撃、それは確かにライナの剣技で捌ける。


だが、その合間に忍び込むように響く歌声だけは、どうしても避けられなかった。


「♪ 眠れ、眠れ・・・その命を凪に還せ・・・」


甘美で柔らかい旋律が耳に入り込んだ瞬間、全身から力が抜け落ちる。


膝が崩れ、意識が白く霞む。


「くっ・・・!こんな・・・歌で・・・!」


歯を食いしばり、神竜剣を杖のように突き立てて無理やり立ち上がる。


リリスの笑みが揺らいだ。


「まだ立つんだ?普通の人間なら、今ので心臓ごと沈黙してるはずよ。でも、そうでなくちゃ面白みがないんだけど」


ライナは荒い呼吸を繰り返しながら睨み返す。


「・・・悪いな。俺は・・・お前の歌に、負ける気はねぇ」


その言葉に、リリスの瞳に冷たい影が宿る。


「・・・なら、いいよ。もう遊ばない」


竪琴に指をかけると同時に、声が劇的に変わった。


美しくも、聞く者の心を直接引き裂くような「死の旋律」。


竪琴の弦が震える。


空気そのものが揺れ、目に見えぬ音の刃が満ちていく。


リリスはゆっくりと口を開き、旋律を紡ぎ始めた。


♪──

「*光は砕け、影に沈め

 命の鼓動よ、闇に溶け逝け*

 *悲嘆の鐘を鳴らせ

 絶望の詩を刻め

 希望は虚ろ、夢は儚く

 すべては無へと帰る*」


低く響く調べに、竪琴の和音が重なる。


ライナの体を震わせる圧が増し、耳を塞いでも逃げ場はない。


♪──

「*眠れ、戦火に散る者よ

 眠れ、愛を忘れた者よ

 眠れ、抗う勇者よ

 お前の魂も同じ淵へ沈む*

 *刃よりも深く

 炎よりも熱く

 響きは心を断ち裂き

 血潮は旋律に染まる*」


歌声は甘美で美しく、同時に破滅的。


聞いた者の心を縛り、身体を切り裂く。


♪──

「*舞い散れ、祈りの花びらよ

 朽ち果てろ、未来の約束よ

 世界は滅びを待ちわびる

 混沌の調和を――我が歌で満たせ!*」


最後の一節を絶叫と共に歌い上げる。


竪琴の弦が同時に強く弾かれ、音が衝撃波となって爆ぜる。


その瞬間、ライナの全身が斬り刻まれるかのような激痛に襲われた。


耳から、心臓から、血が吹き出しそうになる。


それはもはや音楽ではなく、世界そのものを呪う「殺歌」。


リリスの声が、冷たくも艶やかに響いた。


「さあ、勇者。あなたの命も、この歌に沈めてあげる」


「《呪葬歌〈ディル・カンティクス〉》!!」


竪琴の和音と共鳴したその歌声は、刃の嵐となってライナを襲う。


目に見えぬ音の刃が空間を切り裂き、全身を無差別に刻みつける。


「ぐっ……ああああっ……!」


ライナの肌が裂け、血が飛び散る。


避けることも、防ぐこともできない。


歌声そのものが、肉体の内側から破壊してくる。


リリスは冷たく微笑み、竪琴を爪弾き続けた。


「もう立てないでしょう?さあ、沈みなさい、リリスの歌に溺れて」


だが。


血まみれのライナは、まだ剣を離さない。


足が震えようと、呼吸が乱れようと、視線は決して折れなかった。


「・・・立ってる限り、まだ終わらねぇ・・・!」


その姿に、リリスの笑みがわずかに歪んだ。


苛立ちと焦燥を含んだ表情で、さらに声を張り上げる。


「しつこいッ!だったら今度こそ歌で殺してあげる!!!」


歌声がさらに強まり、空間そのものが震動を始めた。


殺意の旋律が、ライナの全てを呑み込まんと迫っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ