40.再戦・ライナVSリリス2
至近距離まで詰めたライナ。一気に畳み掛ける。
「もう、奏でさせないぞ!」
ライナは踏み込み、竪琴の弦へ斬撃を叩き込む。
リリスが旋律を奏でる暇を与えまいと、ひたすら攻め続ける。
竪琴を盾に受けるたび、火花が散り、弦が悲鳴を上げた。
リリスの表情から初めて、余裕がかすかに揺らぐ。
「この子を・・・壊すつもり?面白い・・・!」
リリスは逆に竪琴を振り回し、鋭利な衝撃波を叩き込む。
だが、その瞬間。
神竜剣が白銀の光を帯び、空気を震わせた。
まるでライナの意志に呼応するように、神竜剣の力が自ら解放されていく。
「なっ……!」
リリスの衝撃波を一刀両断し、光の奔流が逆流するように襲いかかった。
ライナの瞳が細められる。
彼は無意識のまま、さらに剣へ魔力を注ぎ込み・・・。
神竜剣の輝きは一層強烈になった。
(止まらない・・・けど、今なら!)
大地を抉る斬撃が連続して放たれ、リリスは後退を余儀なくされる。
防戦一方、竪琴を守る手が震える。
「すごい、すごいよ!!ここに来るまでは、一方的に屠って終わりかなって思ってたけど。想像以上!!」
リリスは苛烈に笑みを浮かべ、反撃の魔力を竪琴に込めるが、
光の奔流が迫るたびに旋律は途切れ、力を発揮できない。
ついにライナはリリスの懐を突き、
渾身の一撃を叩き込もうと剣を振りかぶった。
その瞬間。
『やめろ、ライナ!』
頭の奥で、グラウ=ネザルの声が轟いた。
同時に、神竜剣の輝きが強制的に収縮し、刃が震える。
「なっ・・・!?」
全身を貫く激痛。制御できず、ライナの動きが一瞬止まる。
『これ以上は・・・まだお前には早すぎる!命を落とすぞ!』
神竜剣の力は封じ込められ、刃から光が消えていく。
解放の反動で体内の魔力が暴れ狂い、膝が崩れ落ちそうになる。
「・・・隙だらけなんだけど!」
リリスの目が鋭く光り、
竪琴から黒紅の旋律が弾け飛んだ。
ドゴォンッ!
魔力の奔流が至近距離で炸裂し、ライナの身体を直撃する。
血が舞い、彼は地面に叩きつけられた。
「・・・ぐ・・・っ!」
咳き込みながらも立ち上がろうとするライナ。
だが、足が震え、神竜剣が重く感じられる。
リリスは乱れた髪をかき上げ、冷ややかな笑みを浮かべる。
「急に動きが鈍くなったけど、どうしたのかなぁ?」
リリスは神竜剣を見る。
「なるほど、さっきまでの力はその剣のおかげですかぁ。でも逆に呑まれそうになって強制解除されたわけですかぁ。まぁ力に呑まれた時点で、あなたの負けなんだけどねぇ」
彼女の声が、勝者の宣告のように響いた。
地面に倒れ伏すライナ。
全身は血と土にまみれ、息をするだけでも苦しい。
それでも、剣を杖代わりにして腕に力を込め、ふらつきながらも立ち上がろうとする。
「・・・まだ・・・終わってない・・・俺は・・・俺の力で・・・」
だが、膝が砕けるように崩れ、身体は思うように動かない。
その瞬間、轟音と共に魔物達の気配が一斉に消えるのを感じた。
「遅くなったな!」
「魔物はすべて掃討した!」
騎士団の団員たちが血煙を上げながら戻ってくる。
その後ろには団長達の堂々たる姿。
そして、ひときわ鋭い視線をリリスに向けるのはシリウスだった。
リリスは竪琴を肩に担ぎ、無邪気な笑みを浮かべてライナを見下ろす。
その顔を目にした瞬間
「・・・お前・・・まさか・・・!」
シリウスの表情が凍りつく。
あれほど冷静沈着な彼の声が、驚愕と動揺で震えていた。
「シリウス・・・知っているのか?」
息を荒げながらライナが問う。
シリウスは答えをためらうように拳を握りしめた。だが、リリスは逆に楽しげに口を開く。
「ふふ・・・一度しか来た事ないのに、こんな私の事を覚えていてくれたんですかぁ?シリウス団長」
彼女は竪琴を軽く爪弾く。
その一瞬、柔らかくも懐かしい旋律が空気を震わせた。
騎士団の一部がはっとして目を見開く。
「・・・この歌・・・まさか・・・!」
「俺が団長になりたてのころ、城下町で流れていた・・・」
ざわめきが広がる中、シリウスが低く告げた。
「リリス・【ヒーリング】。かつてこの世界に生きる人々の心に、勇気と癒しを与え続けた歌姫。若干十四歳にして、国を越えて人々に希望をもたらした天才……」
リリスは肩をすくめ、悪戯っぽい笑みを見せた。
「ええ、そうですぅ。ヒーリングなんて言われたのはあの日が最後ですけどねぇ。あの頃は“光の歌姫”なんて呼ばれて、みんなの笑顔を見て奏でたり歌うのが楽しかった・・・。でも」
その声色が低く変わり、竪琴から流れ出た旋律は不気味な震動へと変わった。
「“希望”はやがて“失望”に変わる。私は知ってしまったんですぅ。人は結局、絶望に飲まれる生き物だって。だからリリスは決めたの笑顔なんてもういらない。絶望に沈む世界のほうが、ずっと“本当の歌”に満ちているってね」
「・・・!」
ライナの拳が震える。
シリウスは奥歯を噛みしめ、視線を逸らさずに言葉を吐いた。
「リリス・・・あの無垢な歌姫が・・・どうして魔族なんかに・・・」
リリスは楽しげに首を傾げる。
「どうして?簡単ですよぉ。リリスの歌を“利用”した大人達がいたから。『歌え、希望を与えろ』って。でも誰も私の歌なんて見なかった。・・・リリスの歌を利用して金儲けしてただけ!!現に、少し調子を崩しただけで、もう誰も見向きもしなくなった。どれだけ必死に歌っても奏でてもリリスを見なくなった。利用価値がないリリスはもういらない子、そんな烙印を押された気分だった。そんな時、魔王様だけがリリスの歌を褒めてくれた。だから、私はもう“癒し手”じゃない。世界を絶望で染める“呪歌の魔女”になったんです」
竪琴が低く唸り、空気が圧し潰されるように震えた。
ライナは全身に走る痛みを押さえ込みながら、必死に剣を握り直す。
「・・・なら、俺は・・・剣で止める。たとえお前が・・・誰だったとしても・・・!」
リリスの瞳が妖しく光り、笑みが深まった。
「その言葉を待ってたですぅ。勇者!!本当の“舞台”はこれからなんだから」




