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39.再戦・ライナVSリリス1

王国の城門前。


戦場は瞬く間に紅蓮と混沌に覆われた。リリスが奏でる呪歌の竪琴《ルーン=ミゼリア》からは、前よりもさらに濃く重たい魔力が溢れ出している。


「・・・以前のリリスと同じだと思ったら、大間違いなんだから」


リリスの指先が弦を弾く。


すると空気が震え、竪琴から迸る魔力は以前よりも鮮烈で、確かな殺意を孕んでいた。


ライナは剣を握る手に力を込め、鋭い眼差しで相手を見据える。


「確かに・・・桁違いだ。だが俺もあの時とは違うぜ!!」


頭に浮かぶのはシリウスとの鍛錬の日々。


受け流され、打ち据えられ、それでも立ち上がり剣を振り続けたあの時間。


団長達と共に汗を流した数多の夜。


ライナの呼吸が整う。


重すぎる魔力の圧力にも、一歩も退かない。


「かかってこい、リリス。今度は完膚なきまで叩きのめしてやるぜ!」


竪琴が高鳴り、リリスの周囲に紅蓮の刃が浮かぶ。


同時に、ライナは地を蹴り抜けて疾走した。


刹那。


ライナの剣閃と、リリスの紅蓮の弦撃が交錯する。


轟音と共に火花が散り、王国の石畳が爆ぜた。


風を切る鋭い一閃がリリスの頬を掠め、血の一滴が紅蓮に染まる。


同じ瞬間、リリスの魔弦がライナの頬を裂き、紅い線を刻む。


互いに振り返りざま、再び距離を取った。


頬から流れる血を指で拭ったリリスは、妖艶に笑う。


「・・・悪くないですね。剣も新調したんですかぁ?あなたの力に耐えれてますねぇ。けれど、この程度でリリスに勝てると思わない事ですぅ」


ライナは剣を構え直し、瞳に宿した闘志をさらに燃やす。


「勝てるかどうかじゃない・・・勝つんだ。俺は!」


二人の気配が膨れ上がる。


紅蓮と鋼が交錯する、本格的な戦いの幕開けを告げるかのように。


その戦いを見守る騎士団と騎士団長達。


ライナの助太刀に入るタイミングをうかがっていた。


それを察したリリスはアルヴァレスト王国に無数の魔物を解き放った。


「邪魔できるとは思えないですけど、邪魔しないでもらえますかぁ?あなた達は愚鈍な国民や国王でも守ってやがれですぅ」


多種多様な魔物が次々と街中に地上から空からと侵入していく。


騎士団はすぐさま街中に戻り魔物の対処に向かった。


「団長達も行ってくれ!!ここは俺一人で大丈夫だ」


ライナがリリスから目を離さず言う。


団長達は「すまない」と言い騎士団達の後を追った。


「これで心置きなくやれますぅ」


石畳が砕け、炎と震音が交錯する。


リリスの竪琴《ルーン=ミゼリア》から放たれる魔力は、音色と共に無数の魔術の形へと変貌していた。


「クリムゾン・クレッシェンド!」


竪琴を爪弾く。


紅蓮の奔流が波のように押し寄せ、城門前の広場全体を呑み込む。


「くっ・・・!」


ライナは神竜剣グラネシスを構え、迫り来る炎の奔流を真っ向から斬り裂いた。


炎は割れ、大地へと散るが


「まだだよ」


リリスの指が再び弦を走る。


今度は炎に雷鳴が混ざり、紅蓮の稲妻が雨のように降り注ぐ。

「・・・ッ!」


ライナは跳び退きながら剣を振るい、雷を弾き落とす。だが捌ききれなかった一閃が肩を焼き、焦げた匂いが立ち昇った。


「ははっ・・・さすがだな。容赦がねぇ」


言葉とは裏腹に、額に汗が滲む。攻撃が苛烈すぎて、反撃の隙を掴めない。


ライナは心の中で叫んだ。

(・・・グラウ=ネザル!聞こえてるんだろ!?今こそ力を貸せ!剣の力を解放しなきゃ、この女には勝てねぇ!)


だが返ってくるのは低く冷たい声。


『・・・愚かなる人間よ。お前はまだ“器”に至っていない。力を欲するなら、まずその身で証明してみせろ。』


「ふざけんなよ・・・!」


剣を握る手が震える。拒絶の声と同時に、再び轟音が襲った。


リリスは楽しげに微笑む。


「どうしたの?その程度じゃ終わらねぇですよ!」


《ルーン=ミゼリア》の弦が奏でられる度に、炎と氷、雷と風が複雑に絡み合い、矢のように、波のようにライナへと殺到する。


ライナは必死に斬り払い、受け止め、時に躱す。


だがその動きは徐々に荒くなり、鎧の隙間からは赤黒い傷が浮かび上がっていく。


「はぁ・・・はぁっ・・・!」


肩で息をしながらも剣を構えるライナ。


対するリリスは涼しげな顔で竪琴を弾き、なおも圧倒的な魔力を放ち続ける。


「まだ立ってやがるですねぇ。でも、その足、もう震えてますけどぉ?」


「・・・ッ、黙れ・・・!」


草原を覆う魔力はなおも膨張し続け、ライナの剣先が揺れる。


反撃の隙は一向に見えない。


まるで嵐の中心に一人立たされているかのようだった。


「奏でなさい、《ルーン=ミゼリア》。《紅魔の大協奏――クリムゾン・カタストロフィ》!」


リリスの竪琴が大地を震わせ、赤黒い魔力が空を覆った。


炎と雷、氷と風――相反する力が交錯し、巨大な奔流となってライナを押し潰さんと迫る。


轟音。


光と闇が混ざった奔流に包まれ、視界すら奪われる。


「ぐっ、あぁぁっ!」


ライナは神竜剣を両手で握りしめ、全身に魔力を巡らせて必死に押し返す。


だが力の差は歴然だった。


膝が沈み、足裏を這う石畳が砕け、喉の奥に血の味が滲む。


(このままじゃ……押し潰される!)


その時、脳裏に浮かぶ。シリウスとの鍛錬の日々。


剛剣を受け流され、力を流され、叩き伏せられた数多の瞬間。


そして、必死に食らいつき「力を制御する術」を掴んだ自分。


(そうだ……全部ぶつけるんじゃない……!流して、受け止めて、力を一点に収束させる!)


ライナは剣に込めた魔力の奔流を意識的に絞り込み、刃に宿す。


無駄な揺らぎを削ぎ落とし、ただ一点――正面の奔流を貫くためだけに。


「おおおおおおおッッ!!」


神竜剣が輝き、まるで竜の咆哮のような閃光を放つ。


奔流を切り裂き、嵐の中心を真っ直ぐ駆け抜け・・・。


ドンッ!!


爆ぜた魔力が渦を巻き、衝撃波が広場全体に広がる。


煙と炎の中、ライナは剣を振り抜いた姿勢のまま踏みとどまっていた。


リリスの肩に一筋、赤い線が走る。


掠っただけ。だが確かに「一矢」を報いた。


「・・・へぇ」


リリスは竪琴を撫でながら、目を細める。


「やりますねぇ。正直もう少し楽に勝てると思ってたんだけど・・・」


その声音は余裕に満ちていた。


リリスの魔力はまだ膨張を続けている。


「なら、次はこれですぅ!」


再び竪琴が鳴り響く。今度は乱打する旋律。


炎と氷の刃が同時に降り注ぎ、雷の矢が斜めに交錯する。


「くっ・・・!」


ライナは正面から受けず、剣を横に滑らせて斬撃を受け流す。


力を流し、隙間に身を潜り込む。


(力の制御……!受け流して、前に出る!)


雷撃を斬り払いながら、彼は一歩、また一歩とリリスとの距離を詰めた。


竪琴から放たれる音色が彼を弾き返そうとするたびに、神竜剣が光をまとい軌道を逸らす。


「なに・・・?」


リリスの眉がわずかに動いた。


これまで一方的だった攻撃が、確かに受け流されている。


そして次の瞬間・・・。


「そこだッ!」


ライナが地を蹴り、リリスの懐に飛び込む。


剣閃が疾駆し、彼女の胸元を狙う。


リリスは竪琴を盾のように構え、ぎりぎりで受け止める。


弦が悲鳴を上げ、火花が散った。


至近距離。


魔力の奔流と、研ぎ澄まされた刃。


二人の闘気が拮抗し、草原全体が震える。

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