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37.アルヴァレスト王国

アルヴァレスト王国


大陸中央に広大な領地を有し、武勇と魔術、そして歴史の長さで「世界の盾」と呼ばれる大国。


特にその軍事力は他国の追随を許さず、王直属の騎士団は「大陸最強」と讃えられている。


王城の中庭に設けられた広大な訓練場。


陽光を浴びて煌めく甲冑、鋼鉄がぶつかり合う轟音。


そこに立つのは、王国最強の称号を持つ騎士団長達。


彼らはいずれも、各方面で「英雄」と讃えられる存在だった。


炎の剣を振るう者、巨盾を構え不落を誇る者、雷を纏って突撃する者――まさしく「人の身の限界」を超えた猛者達。


その中央で、剣を構える青年がいた。


ライナだ。


ライナがこの国を訪れたのは偶然ではなかった。


ドボル王国を発った後、ライナは己の力に耐えうる剣を得たものの、制御の難しさを痛感していた。


「ならば、己を鍛え直すしかない」


そう決意し、世界各地で「最強」と謳われる戦士を探す中で辿り着いたのがアルヴァレスト王国だった。


国王はライナの実力と目的を見抜き、異例の措置として王国最強の騎士団に稽古をつけさせることを許したのだ。


「来るぞ、外の剣士!」


「ふん、潰すつもりでいけ!」


三人の騎士団長が同時に間合いを詰める。


一人は炎の剣を振り下ろし、もう一人は巨盾で道を塞ぎ、最後の一人は雷光と共に突撃した。


その全てをライナは紙一重で受け流す。


神竜剣グラネシスを振るいながら、彼の足取りは軽やかで、剣閃は凄絶。


だが、グラネシスは彼の思うようには応えない。


刃の奥から響く意識が、嘲笑するように「まだだ」と告げてくる。


「・・・クソッ、まだ足りないってのか!」


「ほう、今のを凌いだか」


「だが次はどうだ!」


炎、雷、衝撃が交錯する中で、ライナは一歩も退かない。


むしろその瞳には、獰猛な光が宿っていく。


「いいぜ・・・この国最強の騎士団だろうが、全部ぶっ壊してでも前に進む!」


鋼と魔力の衝突は、王国の空に轟き渡った。


そして、後ろからその様子を静かに眺めているもう一人の騎士団長、流水の騎士団長 シリウス・アルヴェイン


銀髪を後ろで結び、細身の体格。甲冑も軽量で無駄がなく、剣も細身のレイピア型。


「流水剣術」と呼ばれる独自の剣技を使う。相手の力を正面から受けることはせず、全てを受け流し、勢いを利用して逆襲する。


無駄のない動きと冷静な眼差しは「人の形をした水流」とも評される。


他の騎士団長達が豪快な武勇を誇るのに対し、彼は緻密で狡猾な戦術家。


ライナは炎と雷の猛攻を弾き返し、巨盾を打ち砕かんばかりの一撃を放つ。


だが、その刃はするりと逸らされた。


「……ッ!?」


気づけば、背後に冷たい声が落ちる。


「力任せでは、水は裂けん」


銀の剣閃が、ライナの頬を掠めた。


彼は正面から打ち合うことなく、ライナの全ての力を「無に還す」。


重い一撃を振り抜けば、その勢いで逆に懐へ飛び込まれ。


攻め急げば、その刃は風のように逸らされ、体勢を崩される。


「ぐっ・・・チッ!」


「荒削りだな、外の剣士。力はあるが流れを読む眼がない」


炎や雷を振るう猛者たちとは違う。


シリウスは淡々と、確実にライナを追い詰めていく。


ライナの強み、力でねじ伏せる剛剣が、最も通じない相手。


「・・・なるほどな。力と力なら負けねぇ。けど、あんたみたいなやつは・・・正直、一番やりづれぇ!」


「ならば克服せよ。それができぬなら、魔王はおろかその配下にいるギルデッド・スターズにも挑む資格はない」


シリウスは水面のような眼でライナを見据えた。


彼の戦いは「圧倒」ではなく「制御」。


ライナにとって、最も学ぶべき壁がそこにあった。


ライナの剣が火花を散らす。


その一撃は大地を揺らすような剛剣。だが、細身のシリウスは軽やかに流し、踏み込みを逆利用して肩口へ突きを入れる。


「ぐっ・・・!」


ライナは大剣で間一髪弾き返すが、すでに体勢は崩れていた。


再び振るう斬撃も、渦を巻く水流のように逸らされ、無駄に空を切る。


「力は凄まじい。しかし、力の波に呑まれているのはお前自身だ」


シリウスの声は冷たくも透き通り、胸を貫く。


ライナは歯を食いしばる。


「ちくしょう・・・力で押せねぇ・・・!」


シリウスの攻撃は一つとして無駄がない。


時に柔らかく受け流し、時に剛剣のように打ち砕く。


相手の出方次第で自在に変化するその剣筋に、ライナはまるで翻弄される子供のようだった。


「・・・俺は、一度は世界を救った勇者だぞ」


心の奥で、そんな言葉が囁く。


誰もが自分を認め、称えた。


いつしか、敵も味方も心のどこかで見下していた。『俺なら勝てる。俺がいないと何もできない』と。


しかし今、目の前の男に、一太刀もまともに通せない。


「・・・俺は・・・傲慢だったんだな。いつの間にか知ったつもりでいた。何にも知らないのに・・・」


自嘲するように、ライナは唇を噛んだ。


シリウスは静かに剣を構え直す。


「気づけたのなら、それでいい。剣士とは常に未熟であることを自覚する者だ」


その言葉が胸に突き刺さる。


力だけではなく、制御もまた強さ。


己にないものを持つ剣士が、今こうして目の前にいる。


ライナは神竜剣を両手で握り直すと、深く息を吐いた。


先ほどまでの荒々しい豪剣ではなく、流れを読むように。


シリウスの足の運び、剣の角度、呼吸のわずかな乱れ。


すべてを意識して・・・振り抜いた。


刃と刃がぶつかり、火花が散る。


今度は受け流されるだけではなかった。


力を殺さず、軌道を調整し、次の一手に繋げる。


「・・・ほう」


シリウスの目がわずかに細められる。


ライナはまだ拙いながらも、「制御」の一端を掴んでいた。


息を荒げながら、ライナは笑みを浮かべる。


「俺は・・・もっと強くなりてぇ。勇者としてじゃなく、一人の剣士として……!」


その言葉は偽りなく、己の奥底から溢れ出たものだった。


シリウスは剣を下げ、頷いた。


「ならば磨け。お前の力は剛剣にあらず。剛と柔を併せ持つ、未だ見ぬ剣だ」


その日から、ライナは驕りを捨て、純粋に剣を求める者となった。


訓練場には、かつて世界を救った勇者ではなく、ただひとりの若き剣士の姿があった。

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