36.決意と動き出す闇
都市の高台にある墓地。
そこに立つ白い墓標には「エリオス・ヴァルディア」の名が刻まれていた。
まだ土の匂いが残るその場所に、ルミナ、カイル、フェリアの三人が並んで立つ。
「・・・師匠、俺達は生き延びました」
カイルが静かに呟き、拳を握る。
「あなたから頂いた力、あなたの教えを胸に、これからも戦っていきます」
フェリアは片膝をつき、墓標に手を添えた。
「お師匠さんのこと、絶対忘れないよ。まあ忘れたくても忘れられないけどね。・・・見ててよね、私達がもっと強くなってく姿を」
そして、ルミナ。
少し躊躇いながらも、前に歩み出て頭を下げた。
「ご指導、ありがとうございました。折角色々教えていただいたのにまだ未熟で、イルシアには届かなかった。でも必ず強くなって帰ってきます。その時は、胸を張って報告しますから……」
風が吹き抜け、木々を揺らした。
まるでエリオスが微笑んでいるかのように。
「絶対に帰ってきてよね」
フェリアが涙を浮かべながらルミナに抱きついていた。
「うん、絶対」
カイルが近づいてきた。
「古代魔術に関しては先日も言ったが任せておけ。できれば古代魔術なしでも魔王軍や混沌の使徒の連中をコテンパンにしてくれるのが望ましいんだがな」
「えぇ、私もそう出来るようにこれからも精進はするつもり」
その答えを聞いたカイルはフッと笑った。
「元気でな。俺達もお前に負けないように更に強くなる」
「私もなる。今度ルミナに会うまでには災害級の魔物を一人で倒せるくらいにはなっておくから」
「ふふふ、楽しみにしてるわ」
ルミナは二人に見送られ、静かに街を後にした。
背中に差し込む陽光は、これから歩む道の険しさを示すようであり、それでも彼女を優しく照らしていた。
ーセレネアの部屋ー
椅子に腰掛けるセレネアは、冷ややかな瞳を虚空に向けていた。
報告を終えた部下の視線の先に、亡きヴァルドの名が告げられる。
「・・・ふふ。やはり、あの男は器ではなかった」
声に失望も怒りもなく、ただ淡々とした響きがあった。
「私達と同じギルデッド・スターズになる?冗談。あの程度で到達できるものではないわ」
セレネアは長い指先で椅子を軽く叩く。
「だが・・・功績はありました」
その唇が微かに吊り上がる。
「エリオス・ヴァルディア、あの忌々しい男が死んだことで、我らの力を抑えつけていた結界が消え去った。世界に満ちる枷が解かれたのだ。これでようやく本来の力が発揮できる」
配下は静まり返る。
セレネアの纏う威圧感が、場を圧する。
「ヴァルドの死は犬死にではなかった。それだけは・・・認めてあげましょう」
その言葉は、賞賛というよりも冷徹な判決のように響いた。
ー???ー
闇に包まれた広間。
中央に立つのはフードを纏った混沌の使徒のリーダー。
その足元には魔法陣が脈動し、青白い光が広がっていた。
「ガルロス=タートラが倒された、か」
低い声が響く。
「あの亀ちゃん。思ったより大した事なかったわ。あんな子うさぎ達に負けるくらいだもの。でも貴重な戦力を失った事は申し訳なかったわ」
諜報役のイルシアが、報告を終える。
だがリーダーは失望の素振りを見せなかった。
むしろ、口元に笑みすら浮かべていた。
「いや、いい。人々は歓喜し、希望を見出しただろう。絶望を打ち破れると信じたはずだ」
その声音は甘やかで、しかし底知れぬ冷たさを孕んでいる。
「だが、いいか。希望が大きければ大きいほど、それが砕かれた時の混沌は計り知れぬ。小さな絶望など不要だ。我らが望むのは・・・世界を覆うほどの『大絶望』」
リーダーは両腕を広げ、暗黒の魔力を天へ掲げた。
イルシアともう一人の男はニヤリと笑う。
「その時まで、もっともっと希望を育てよ、ルミナ・セレフ。そして、世界のすべてを喰らい尽くす混沌へと我らが導くのだ」
こうして、魔王軍と混沌の使徒。
それぞれが違う思惑で暗躍を始め、世界はさらなる不穏の渦に飲み込まれようとしていた。




