34.ルミナ&フェリアVSイルシア&ガルロス3
「グォオオオオオオオッ!!!!」
大地を震わせる咆哮とともに、ガルロス=タートラは甲羅の棘から膨大な魔力を放出した。
都市の街路は抉り取られ、建物は無差別に砕け散る。
魔術師達が咄嗟に結界を張るが、次の瞬間・・・。
「バキィィィィッ!!!!」
巨亀の一歩で結界は粉々に砕かれ、瓦礫が飛び散る。
「やめろッ……市民がまだ残ってる!」
「防げ、防げえぇぇぇ!」
無差別に放たれる光弾と岩塊は、まるで空が崩れ落ちるかのようだった。
ルミナは杖を強く握りしめ、震える脚を踏み出した。
「・・・ここで止めなきゃ、都市は終わる」
「分かってる!二人で・・・やるんでしょ!」
フェリアが炎剣を構え、背中合わせに立つ。
二人は無言で頷き合い、巨亀へと突撃した。
「フレイム・スラッシュ!」
フェリアの炎剣が巨亀の足を斬り裂く。だが硬質な鱗が弾き返す。
「なら!雷槍」
ルミナの雷撃が関節を狙うも、甲羅の反射膜に吸収される。
「ちっ・・・全然通らない!」
「やっぱ核を狙わなきゃダメか!」
だが核は分厚い甲羅の奥深くにあり、攻撃は届かない。
その間にも、巨亀の口から放たれる光弾が街を焼き尽くす。
「ぐっ……!」
二人は吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられる。
「二人だけじゃない!我らもまだ立っている!」
壮年の魔術師が叫び、杖を掲げる。その声に呼応して、周囲に散っていた魔術師たちが瓦礫の中から立ち上がり、次々と詠唱を始めた。
「大地よ、我らに力を貸せ!《岩槍陣〈アース・ランセット〉》!」
地面から無数の岩槍がせり上がり、ガルロス=タートラの脚を突き上げる。巨体がわずかによろめき、足を止めた。
「氷よ、鎖となりて縛れ!《氷鎖縛陣〈フロスト・チェイン〉》!」
氷結の鎖が地面から這い上がり、甲羅や脚に絡みつく。巨亀は怒号のような咆哮を上げ、光弾で鎖を砕こうとする。
「まだだ《風刃連弾〈エアリアル・ダーツ〉》!」
若い魔術師が繰り出した無数の風刃が甲羅の隙間を狙い、注意を引き付けた。
「雷よ、落ちよ!《雷霆一閃〈サンダークラッシュ〉》!」
別の魔術師が天へと手を掲げ、雷を呼び落とす。落雷が巨亀の頭部に直撃し、巨体を一瞬硬直させた。
「今しかない!押せぇぇ!」
指揮を執る魔術師が声を張り上げる。
だが、反撃は容赦なかった。
「グォオオオオオオッ!!!!」
甲羅の棘から再び光弾が乱射され、何人もの魔術師が吹き飛ばされる。
一人、また一人と倒れながらも、残った者達は前へ出る。
「怯むな!命を繋げ!あの二人に託すのだ!」
「《防御結界〈プロテクト・ドーム〉》!」
三人の魔術師が同時に詠唱し、透明な半球状の結界を張る。光弾が降り注ぎ結界が悲鳴を上げるが、その間にルミナとフェリアが立ち直る時間を稼ぐ。
結界が砕け散った瞬間、別の魔術師がすかさず補強の魔法を唱える。
「次は私だ!!来いッ!」
魔力の奔流で血を吐きながらも、彼らは歯を食いしばり、巨亀の暴威を食い止め続けた。
その姿を見て、ルミナの胸が熱くなる。
「・・・みんな・・・私達を信じて・・・!」
フェリアも、血をにじませながら炎剣を強く握った。
「だったら応えなきゃ・・・命がけで!」
「フェリア、いくよ!」
「分かってる!」
魔術師達の必死の援護が続く中、ルミナとフェリアは互いに視線を交わした。
肩で息をしながらも、その瞳にはもう迷いはない。
ルミナが杖を高く掲げ、フェリアが炎剣を振りかざす。
声が重なった。
「燃え滾れ、天を焦がす灼炎よ!」
「貫け、光を纏う刃となれ!」
二人の魔力が共鳴し、紅蓮と光輝が渦を巻く。
「《炎天穿光――フレア・パイルドライヴ》ッ!!」
天へと掲げた魔力が瞬時に収束し、巨大な炎光の杭となって落下!
ガルロス=タートラの甲羅を直撃し、轟音とともに大地を揺るがした。
「グォォオオオオオオッ!!!」
咆哮を上げながら巨亀がのたうち回る。甲羅の表面が灼かれ、亀裂が走り、内部に隠された「赤黒い核」がちらりと露わになる。
「今だ・・・!」
ルミナの声に、フェリアが頷いた。
二人は息を合わせ、再び詠唱に入る。
その声は互いを導く旋律のように、力強く、澄み渡っていた。
「星の輝きよ、闇を裂く槍と化せ!」
「灼炎よ、光と融け合い全てを焼き尽くせ!」
杖と剣が交差し、魔力が重なり合う。
光と炎が一体となって槍の形を成す。
二人同時に叫んだ。
「《光炎極槍――ルミナス・フレイム・ジャベリン》ッ!!!」
超光速で放たれた光炎の槍が一直線にガルロス=タートラの胸を貫く!
内部の核を的確に穿ち、轟音と閃光が爆発した。
「ギャアアアアアアアアアアッ!!!!」
巨亀の絶叫が都市全体を震わせ、赤黒い光と共にその巨体が崩れ落ちていく。
核は粉砕され、跡形もなく消滅した。
ルミナとフェリアは、杖と剣を支えに、互いに息を荒げながらも立っていた。
周囲の魔術師たちが歓声を上げる。
「やった・・・やったぞ・・・!」
「二人が・・・止めたんだ・・・!」
ルミナとフェリアは膝を折りかけながらも互いを支え合い、荒い呼吸を整えた。
だが、その瞳に油断はなかった。
杖を構えるルミナ、炎剣を握り直すフェリア。二人は次の敵に備え、再び臨戦態勢に入る。
沈黙を切り裂くように、冷ややかな声が降り注いだ。
「・・・ふぅん。ガルロス=タートラを倒すなんて、少しはやるじゃない」
瓦礫の上に立ち、霧のような黒衣を纏ったイルシアが、紅い瞳で二人を見下ろしていた。
その表情には怒りも憎悪もなく、ただ退屈そうな薄笑いが浮かんでいる。
「でも・・・ここまでね。せっかく混沌を撒き散らすつもりだったのに、こんな茶番になるとは」
イルシアはわざとらしく肩をすくめる。
ルミナが一歩踏み出し、フェリアも剣を構えて睨みつける。
「まだ終わってない・・・!あなたを止めるまでが・・・!」
「次は・・・君だよ!」
その気迫にも、イルシアは冷淡な笑みを崩さなかった。
「・・・興醒めよ。駒が潰されたら、盤面も退屈になる」
指先を軽く払うと、彼女の周囲に黒い靄が渦を巻く。
やがて霧は深淵へと繋がる裂け目のように広がり、彼女の身体を飲み込んでいった。
「私は混沌の使徒イルシア。今日はここまでにしてあげる。次に会えるのを楽しみにしてるわ」
その声だけが残り、イルシアの姿は掻き消える。
粉塵の中に取り残されたルミナとフェリアは、なおも杖と剣を構えたまま敵影を探す。
だが、既にそこにはただ静寂が残るだけだった。
ルミナは杖を下ろし、フェリアと視線を交わした。
「・・・次は、きっと逃がさない」
フェリアも息を吐きながら頷く。
「必ず・・・決着をつける」
夜風が都市を吹き抜け、二人の誓いを運んでいった。




