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25.修練2

今日は実践修練を止めた三人は、魔法都市の中央にそびえる大図書院を訪れていた。天を突くような白亜の塔だった。


螺旋の回廊に沿って本棚が延々と続き、無数の魔導書が浮遊魔法で自らページを開閉している。


魔力の匂いが充満したその空間は、知識を求める者にとって聖域そのものだった。


ルミナとカイルは、分厚い魔導書を抱えて机に並ぶ。


ページを繰るたびに、淡い魔力の光が走り、古の魔法理論が彼らの脳裏へと刻まれていった。


「・・・やはり僕の魔術は直線的すぎるな。」


カイルが眼鏡を押し上げながら呟く。


「敵の予測を超える軌道や、複合属性との組み合わせをもっと研究すべきだ。」


ルミナは静かに頷く。


「私は逆に、全部を無難にまとめすぎている・・・。攻撃、防御、補助、どれもできるけれどここぞって時の決め手に欠ける」


彼女の声は真剣そのものだった。


一方のフェリアは、机に積まれた本を見て思い切り顔をしかめる。


「む、無理!本ばっかりなんてやってらんないよ!私は剣と魔法を合わせて、感覚で戦うのが一番なんだから!」


「だからこそ、お前は威力を出し切れていないんだ」


カイルが即座に返す。


「感覚は確かに鋭い。だが、理論を知らなければ効率は落ちる。魔力の流れを理解すれば、剣に宿る魔法はもっと強くなるはずだ。」


「むぅ・・・でも、本読むのは嫌いなの!」


フェリアは頬を膨らませ、子供のように机に突っ伏す。


ルミナは小さく笑い、柔らかく言った。


「無理に全部覚えなくてもいいよ。フェリアは感覚派なんだから。私達が理論を整理して、実戦に応用できる形で一緒に練習すればいい。ね?」


「・・・ルミナって、ほんと優しいよね。」


フェリアは渋々顔を上げる。


「分かった! じゃあ二人が勉強してまとめてよ。私は体で覚える方を担当する!」


「・・・結局楽な方を選んでないか?」


カイルは呆れたようにため息を吐くが、どこか楽しそうでもあった。


高い天窓から光が差し込み、浮遊する無数の魔導書がゆっくりと棚に収まっていく。


ルミナは手にしていた分厚い魔術理論の本を閉じ、ふと隣のカイルへ顔を向けた。


「ねぇ・・・カイル。ここに、古代魔術の書物って、置いてないのかな?」


一瞬で空気が張り詰めた。カイルの瞳が鋭さを帯び、低い声で答える。


「・・・ある。だが、俺らが触れていいものじゃない。」


「どういうこと?」


ルミナは首を傾げる。


「古代魔術は、今の体系化された魔術とは根本から違う。効率も威力も桁違いだが、そのぶん、扱う者の命を削る。下手に手を出せば・・・“身を滅ぼす”」


その真剣な声音に、ルミナは思わず息を呑む。


フェリアが口を尖らせながら割り込んだ。


「そんな危ないもの、そもそも置いとく方がどうかしてるでしょ!」


「だからこそ封印されてるんだ」


ルミナは、少し言葉を選ぶように続けた。


「最近、“混沌の使徒”って名乗る連中のリーダーに会ったんだけど、そいつが古代魔術を使っていた。奴らの目的は、古代魔術や災害級魔物の力を解き放ち、世界を混沌に沈めること……。」


その話を聞いたカイルとフェリアの胸に、ひやりとしたものが落ちた。


「あり得ない!!古代魔術を行使して無事でいれるわけが・・・」


カイルは立ち上がりルミナの話を否定した。


「十中八九あれは古代魔術だった。私は目の前でその力を見た」


古代魔術・・・。そんな禁忌の術を混沌の使徒のリーダーは手にしている。その気になれば確実に大災厄を呼ぶだろう。と考えるカイル。


「それが本当の話なら相当な脅威だ。だが、やはり今の俺達が古代魔術に手を伸ばすべきではない。逆に自滅するだけだ」


カイルはきっぱりと言い切る。


「必要なのは、古代魔術に頼らず、自分達の力を磨くことだ」


ルミナは小さく拳を握りしめ、強く頷いた。


「・・・わかった。古代魔術は今は諦める。私に必要なのは、“力を増やすこと”じゃなくて、“自分の弱点を克服すること”だよね。」


ルミナは強く言い切る。


フェリアが満面の笑みで頷いた。


「そうそう! 結局は自分を鍛えるしかないんだって!」


カイルも静かに眼鏡を押し上げる。


「・・・お前にしては珍しく正解だな。なら、理論を叩き込んだ僕と、体で戦うフェリア、それぞれが弱点を埋め合う訓練をするのが一番いい。」


「うん。やろう!」


ルミナの瞳が決意に燃える。


こうして三人は、大図書院を後にし、各々の弱点を克服するための実践的な訓練に身を投じるのだった。


三人は星見修練場で修練をするのではなく、より実戦が行える円形闘技場に移動した。


中央に立つ三人ルミナ、カイル、フェリアは互いに武器を構える。


周囲には幾重もの魔法陣が浮かび、暴発や過剰な魔力を吸収する仕掛けが施されている。


「今回は弱点克服が目的だ」


カイルが静かに宣言した。


「僕は攻撃の軌道を多様化させる。ルミナは決め手を意識し、フェリアは感覚だけに頼らず理論を応用するんだ。」


フェリアは腰の魔法剣を抜き放ち、ニヤリと笑う。


「上等! 一番先に倒れるのはアンタたちよ!」


「ふふ、そうはさせないよ」


ルミナは杖を軽く振り、淡い風の魔力を纏う。


「始めるぞっ!」


結界が唸りを上げ、訓練が開始された。


カイルは詠唱と共に、火の矢を三方向に分散させて放つ。


「フレイム・アロー!」


以前のように一直線ではなく、三角形を描くような軌道で飛来する。


「っ……!」


ルミナは風の魔法で一つを逸らし、フェリアは魔法剣で二本を斬り払った。


「おおっ! 直線だけじゃない!?」


フェリアが驚きの声を上げる。


カイルは冷静に言い放つ。


「これで、お前達の感覚だけでは避けられないはずだ。」


「にゃはは、でもまだ読みやすいよ。真面目な性格が魔術にも反映されてる」


フェリアはカイルに向かって一歩前に踏み込み剣を振り抜く。


「はぁああっ!」


刃に炎の魔力が宿り、火線を描くが、以前のように直感任せではない。


カイルの指摘を思い出し、魔力を一定に流すよう意識していた。


「・・・威力が増してる!」


ルミナは杖で受け止めながら目を見張る。


「ちゃんと制御してるから、剣と魔法がぶつかり合っても押し負けない・・・!」


フェリアは得意げに笑った。


「どう? 私だってやればできるんだから!」


「すぐ調子に乗るのは悪い癖だぞ」


カイルは先ほどより大きめの《フレイムアロー》をフェリアに放つ。フェリアは簡単に弾くが、すぐ真後ろに第二の《フレイムアロー》があり、フェリアは体を逸らしギリギリ避ける。


「すごい・・・」


ルミナが感心していると真下から《フレイムアロー》が襲いかかってきた。ルミナは魔術障壁で防いだ。


ルミナは二人に押され気味だったが、深く息を吸い、杖を強く握りしめた。


「・・・私は全部中途半端、か。でもだからこそ繋げられる!」


二人の次の攻撃がルミナに仕掛けられた時、風の弾丸ウインド・バレットでフェリアの足を止め、光のルクス・シールドでカイルの雷を受け流す。


そして、二つの魔法の隙間を利用し、杖を前に突き出した。


「これが・・・私の決め手! ルクス・ランサー!」


眩い光の槍が形成され、まっすぐに突き抜ける。


フェリアとカイルは同時に驚愕し、結界が震えた。


「なっ・・・!?」


「威力も、速度も、昨日までとは段違い……!」


ルミナは肩で息をしながら、それでも笑みを浮かべる。


「私も・・・一歩、進めたかな」


「これはうかうかしてたらあっという間にルミナに置いていかれるね」


フェリアはワクワクしながら魔法剣を構えた。


「ふん、俺が遅れをとる事は・・・ない!!」


カイルも不敵な笑みを浮かべどちらに攻撃をするかうかがっていた。


訓練はまだ続く。


互いに弱点を突き、補い合い、時に笑い、時に本気でぶつかり合う。


結界の内側で交錯する魔力と汗は、三人の絆をより強固にしていった。

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