2.勇者、実力を試す
王様の頼みで洞窟に向かったライナ。
そこで魔法陣を発見し無力化を試みようとした瞬間光に包まれ気づいたら別の場所に移動していた。
そしてライナの前に一人の少女が近づいてきて「お待ちしておりました、勇者様。どうか我々の世界をお救いくださいませ」とライナに頼むのであった。
(世界を救う?何を言ってるんだこの子は。世界はもうとっくに救われてるのに)
ライナは銀長髪の少女を怪訝な顔で見る。
(てか、ここどこだ?さっきまで洞窟にいたのに。魔法陣による転移魔法か?)
ライナは周りをキョロキョロと見渡す。
その様子を見た少女が更にライナに近づいてきた。
「あの、勇者様?」
「あ、あぁごめん。ちょっと自分の身に何が起きたか状況把握がしたくて。君の名を聞いても?」
「失礼しました。私は魔術師のルミナ・セレフと申します。ここはセリフィア城の地下になります」
「セリフィア?知らないなぁ・・・。おっと俺はライナ・ヴァルグレアスだ。で、さっきの世界を救ってほしいって言うのは?」
「はい、私達の世界は今魔王の脅威にさらされてるのです」
魔王?とライナは首を傾げた。
「ルミナだっけ?もしかして魔王が討たれたという一報はまだこの国に届いてないのか?」
ライナはセリフィアという国に聞き覚えがないと思い、魔王が討たれた知らせが届かない程の辺境の地だと思い込んだ。
その言葉にルミナの紫色の瞳が大きく開いた。
「魔王を討った?」
他の魔術師達も何やらザワザワとし始めた。
(ん?何だ?全員何か話し始めた)
ライナが魔術師達を見ていると、1人が階段を登っていった。
「ようやく真の勇者様が・・・」
ルミナは涙を流しライナを見た。
「真の勇者?」
「失礼しました。まずここは勇者様がご存知の世界ではございません。別の世界でございます」
「別の世界?」
「はい、ここはアーク=ネイヴという世界で私達はこの世界を救っていただくべく別の世界から勇者様を召喚させていただきました」
「召喚・・・」
ライナは頭を抱えしゃがみ込んだ。
(魔法陣が光って、目を開けたら別の世界。そしてこの世界の魔王を倒してほしい?色々一気に起こりすぎだ。)
「勇者様・・・」
ルミナが心配そうにライナの顔を覗き込んだ。
「あぁ、ごめん。いきなり別の世界ですって言われて少し混乱した」
「そうですよね、申し訳ございません」
「いいよ、もう召喚されてどうしようもないわけだし」
「本当に申し訳ございません」
深々と頭を下げるルミナを見てライナは深いため息をついた。
「で、俺にこの世界の魔王を倒してほしいって事だけど、この世界にも俺みたいな勇者はいるだろ?」
「いました・・・でも2年前に魔王の配下の手によって殺されてしまいました。その後も魔王に挑むもうと何人もの人達が魔王城を目指しましたが、ことごとく配下達に破れ去りました」
マジか・・・と天井を仰ぐライナ。
「魔王にたどり着いた者はいないって事?」
コクリと首を縦に振るルミナ。
「はああぁぁぁ〜。ぱっと見俺はその魔王と戦えそうか?」
「勇者様の世界の魔王を倒したというのが真実なら・・・」
「倒したのは真実だ。でもこの世界の魔王や配下達に比べたら俺の世界の魔王は雑魚かもしれない」
「それは・・・」
言葉に詰まるルミナ。
「勝てる見込みが少なくても民のために戦いを挑むのが勇者なんだろうし、俺も実際そうしてきて魔王に勝った」
「なら!!」
「でもそれは俺の大切な人達が悲しむのを見たくなかったからだ。悪いが、突然訳もわからず召喚されたこの世界がどうなろうと正直どうでもいいっていうのが今の心情だし迷惑だと思っている」
ライナは冷たく言い放つ。
「はい・・・」
俯くルミナ。
「それと同時に救ってあげたいって気持ちもある!!」
「え?」
「これも何かの縁だ。俺がその魔王を倒してやるよ」
ライナはルミナの肩に手を置き笑顔で答えた。
「ありがとうございます」
ルミナは再び涙を流した。
話がまとまったところに、先ほど上に行った魔術師が帰ってきて、王様にお目通りしてほしいと頼まれ、謁見の間にルミナと共に向かった。
「お主が勇者か?話は聞いてくれたか?」
「はい国王陛下。こちらのルミナからおおよその話は聞かせていただきました。私の力がお役に立てるのならばお貸ししたい所存でございます」
頭を下げるライナ。
「頭を上げてくれ。こちらこそ貴殿には申し訳ない事をした。本来なら自分達で何とかせねばならぬ事を別の世界の者に託してしまった」
「その事はもういいです。愚痴は悪いですがルミナに言わせていただいたので」
「そうか、ルミナすまなかったな」
王様がルミナを見て言った。
「いえ、至極当前の事です。それでも力をお貸しくださる勇者様に感謝です」
「ところで、今この国で一番強い者は誰ですか?」
「そこのルミナだ」
王様は迷わず答えた。その答えにライナは驚く様子を見せなかった。
「でしょうね。彼女からは途轍もない魔力を感じる」
その言葉を聞いて、全員がライナに注目した。
「魔力が分かるのですか?」
ルミナはライナを見た。
「魔力感知は魔術師の基本だろ?」
「いいえ、この世界に魔力を測れる者は魔王軍以外いません」
「そうなの!?俺の世界では当たり前なんだけど・・・」
その言葉にライナ以外の全員が驚愕と確信を持った。
「勝てる、勝てるぞ。この機を逃せば二度とチャンスは巡ってこない」
王様は喜び震えていた。
「国王陛下、ルミナと模擬戦をやりたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わ、私とですか⁉︎私なんて勇者様の足元にも及びません」
ルミナは手と首を横にブンブン振り拒否した。
「だろうな、多分その気になれば10秒で終わる。でもこの世界のレベルを知っておきたいんだ」
「それでしたら私なんかより強い者はたくさんいます。その方々と戦うのは・・・」
「それもいずれするけど、俺は君の実力が見たいんだ」
真っ直ぐ真剣に見るライナにルミナも覚悟を決めた。
「分かりました。やるからには全力でお相手させていただきます」
そう言ったルミナは細身の銀白の杖を出現させ手に持った。
「へぇ〜その杖を持った瞬間、更に魔力が上がったな」
「銀白杖アーク・セレノス。私の相棒です」
「それじゃあ、やろうか」
ライナはニヤリと笑った。
ライナVSルミナの模擬戦が今始まる。