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19.神屍竜グラウ=ネザル2

両者は動きが止まっていた。


「・・・クソッ、砕ききれなかったか!」


ライナが意識を取り戻した。それと同時に血を吐く。


一撃に全てを込めた反動が全身を蝕み、腕が痙攣して剣を取り落としそうになる。


神屍竜も目を覚まし、胸部を押さえるように巨腕を組み、その瞳をさらに灼熱のごとく燃やした。


「人の子よ・・・我が核を穿つとは・・・だが、未だ死は遠い・・・!」


背中の結晶が一斉に脈動する。


それは鼓動のようであり、谷そのものがひとつの心臓に変わったかのようだった。


竜の口腔から赤黒い閃光が収束していく。


「あれは・・・核を守るために、力を極限まで集中させてる・・・ッ!」


次の瞬間、竜の口から放たれたのは・・・。


大地ごと消し飛ばす絶滅の光線《神晶劫光》だった。


神晶劫光が奔流となって大地を薙ぎ払った。


谷の岩盤が次々と蒸発し、轟音と共に光が押し寄せる。


「くっ・・・ぅあああああッ!」


爆発と轟音の中、ライナの身体は地に叩き伏せられていた。


血が喉を焼き、肺は裂けるように痛む。


右手に握る剣は、刀身に無数の亀裂が走り、今にも崩れ落ちそうだった。


「・・・っは・・・」


呼吸すらまともにできない。


それでも、心は折れていなかった。


(ここで・・・倒れるわけにはいかない・・・)


ライナは血に濡れた手で剣を強く握り直す。


握った瞬間、刀身が軋み、悲鳴を上げるように赤い光を漏らした。


「……わかってるさ。次で終わりだ。」


自分に言い聞かせるように呟き、立ち上がる。


血にまみれ、片膝を引きずりながらも、ライナの瞳だけは決して揺らいでいない。


「まだ立つのか!」


神屍竜が低く唸り、赤黒い光を胸の核へと収束させていく。


「ならば、その矮小なる刃で終わりを刻んでみせよ、人の子よ!」


ライナは深く息を吸い込む。


吸気と共に、限界を超えた魔力が体中を駆け巡り、筋肉が裂ける音が聞こえた。


吐息と共に、剣が赤熱し、亀裂の隙間から閃光が溢れ出す。


「これで・・・決めるッ!」


剣が壊れるか、自分が壊れるか。


その賭けに全てを懸けて、ライナは最後の一歩を踏み出した。


谷全体を揺らすように、神屍竜が大口を開いた。


胸の核が赤黒く脈動し、そこから生み出される力が全身へと巡る。


もはや一撃で世界を崩すほどの絶滅の咆哮を放たんとしていた。


だがそれより速く、ライナが動いた。


「ッはああああああああッッ!!!」


呼吸を極限まで刻み、全身に宿した魔力を一条の刃へと収束させる。


壊れかけの剣が悲鳴を上げ、刀身に奔る亀裂から光が噴き出す。


その光はやがて竜をも覆い尽くすほどに巨大な輝きへと膨れ上がった。


「《閃斬・終ノ型・絶星剣》ッ!!!」


空を裂き、大地を割り、世界そのものを断ち切るような斬撃が放たれる。


光は流星のごとく一直線に竜の胸を貫き核を真っ二つに裂いた。


「■■■■■■ッッッッ!!!!!」


絶叫が谷を埋め尽くす。竜の全身を覆う結晶が次々と砕け散り、崩れ落ちていく。


膨大な瘴気が逆流し、空へと吹き上がり、黒い嵐となって消え去った。


残されたのは、胸を裂かれたまま崩れゆく竜の巨体。


「見事だ、人の子よ・・・」


その瞳は最後の瞬間まで赤黒く燃えていたがやがて光を失い、沈み落ちた。


「・・・っ、はぁ、はぁ・・・」


ライナは剣を振り抜いた姿勢のまま、全身から血を滴らせていた。


彼の手にあった剣は、もはや原形を留めず、刀身の半分が砕け散っていた。


ライナはかすかに笑った。


「・・・終わった・・・あいつを・・・斬り伏せた」


そして、静かに膝をつく。


倒れゆく彼の手に残っていたのは、砕けた剣の欠片だがその奥底に、竜の力に耐えうる新たな輝きが宿っていた。


崩れ落ちた竜の死骸の中、ライナの前に残ったのは紅に染まった結晶と、黒く光る竜の鱗と骨、そして胸から零れ落ちた赤黒い核だった。


「・・・これは・・・間違いない。あいつの心臓だ」


ライナは砕けた剣を見下ろし、拳を握る。


「こいつを鍛え直せば今度こそ、俺の力に耐えうる剣を。」


その瞬間、ドボル王国のドワーフ達の言葉が脳裏をよぎった。


「人の戦士よ。我らドワーフの技術をもってしても、素材なくしては不可能。だが神屍竜の骨と鱗さえあれば、お主の力に応えうる“真の剣”を鍛え上げてみせよう」


まさに今、ライナはその答えを手にしていた。


「へへへ・・・それ以上の物を手に入れたぜ。ドワーフさんよ」

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