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16.虚無の裂け谷1

新たな剣の作成をする為にドボル王国に来たライナだったが、ドボル王国でもライナの全力に耐えうる剣は無いと言われた。


だが、神屍竜の素材があれば作れると言われ、ライナは神屍竜の素材を取りに行くため虚無の裂け谷を目指すのであった。


バルドは虚無の裂け谷に向かうライナに剣を渡した。


「これを持っていけ。お前さんが持ってる武器じゃもう満足に戦えんだろう。それにその剣はもう充分役目を果たした。休ませてやりなさい」


ライナは鉄剣に「ありがとう」と言いバルドに託し新たな剣を受け取った。


「虚無の裂け谷はここから更に西方に位置する。歩けば一週間、馬車なら四日ほどで着くだろう」


「歩いて行くよ。そんな危険な所に馬を連れて行くのは申し訳ない。戻ってきたらよろしく頼む」


そう言うとライナは神殿を後にした。


「彼は大丈夫でしょうか?単身で乗り込むなんてあまりに無謀」


ドワーフの一人がバルドに話しかけた。


「ただの”戦士”ならばこんな提案などせんよ。だが”勇士”となると話は別だ」


「彼が!!」


「ああ、厄災から世界を救う勇士。我はそう思う。さあ勇士が戻ってきた時の為に準備に取り掛かるぞ。もちろん今請け負ってる仕事もきっちりこなすのだぞ」


バルドはドワーフ達に命令し、鍛冶の作業に戻った。


ライナは虚無の裂け谷を目指して歩いていた。


道中、剣の試し斬りの為に魔物を狩りながら問題なく地道に進んでいた。


「おお、斬れ味抜群」


ライナは感心しながら更に歩みを進めた。やがて虚無の裂け谷が見えてきた。


世界が刃で割れたまま縫われずに残ったような巨大な亀裂。


縁は黒曜石のように艶めき、谷底からは音のない風が吹き上がる。草は生えず、代わりに灰色の苔が星の砂のように微光を放ち、夜とも昼ともつかぬ薄闇が常に漂う。


ところどころで地表が肋骨の弧のように隆起しており、竜の骨格を思わせるアーチが谷をまたぐ。空は歪み、稲妻が走っても雷鳴は遅れて来ない。代わりに、鼓動に似た振動が地面から伝わってくる。“屍竜の残滓”だ。


谷の壁面には、黒い鉱脈に赤い結晶が脈打つように走り、時折、結晶の面が星図めいた紋を描く。近づけば魔力が乱れ、詠唱の韻が勝手に狂う。


「ルミナじゃここは無理だな。緻密にコントロールしないと魔術が暴走する」


ライナは掌から発せられる稲光のような魔力を抑え込んだ。


ライナは谷の中に足を踏み入れる。


谷底へと続く石段を下りるにつれ、光は急速に失われていった。空はまだ昼のはずなのに、裂け谷の中は永遠の黄昏に閉ざされているかのようだ。


壁面を覆うのは、赤黒い結晶。脈動するように淡く輝き、心臓の鼓動のような音を響かせていた。


一歩進むたびに、その音が増幅して足音をかき消していく。


「まるで、谷そのものが生きているみたいだな」


ライナの声は反響して、何倍にも膨れ上がって返ってきた。


「さしずめここは竜の棺ってところだな」


(神屍竜の瘴気が、大地を呑み込んで腐らせてる・・・だから、この谷は常に“息をして”やがる)


前方の霧の向こうで、ぼうっと青白い光が灯った。


近づくと、それは結晶に取り込まれた獣の骸骨だった。


口を開け、苦悶の叫びを上げたまま固まった獣の顎から、冷たい光が漏れ続けている。


「ここでは死すら終わりじゃないってことか」


ライナは目を細め、結晶を横目に通り過ぎた。その歩みは一切揺らがない。だが、握り締めた拳からはわずかに白い気配が滲み、彼の体内で力が呼応しているのが伝わる。


やがて、谷の中央に広がる広大な空洞へと辿り着いた。頭上は見えず、闇が天へと繋がっている。


足元には深紅の川が流れ、その流れの中には人影のようなものが漂っては消えていく。


「……血の川……?違うな。これは魔力の濁流か」


ライナは冷静に分析した。


「神屍竜が放った瘴気が、大地の魔力を押し流してるのか」


風が吹き抜けた。だがその風は冷たさではなく、深淵に引きずり込むような重みを伴っていた。


ライナは体が重くなるのを感じたが一歩前へ踏み出す。


「ここを抜けなければ、神屍竜には辿り着けない」


虚無の裂け谷。その内部はまさしく、竜の亡骸が大地に刻んだ生きた迷宮だった。


瘴気に包まれた空洞を進んでいたその時・・・。


ライナは立ち止まった。


耳を澄ますと、谷の鼓動の合間に、不気味な軋みが混じっていた。


ガリ・・・ガリ・・・。


結晶に覆われた岩壁が膨れ上がり、ひび割れる。


そこから這い出てきたのは、四つ足の獣の形をした赤黒い結晶体。


だがその眼窩には瞳がなく、代わりに瘴気の火が揺らめいている。


結晶獣は耳を裂く咆哮を上げ、突進してきた。地面を削る音が響く。


ライナに迫るその一撃


「遅い!」


轟音と共に剣が結晶獣の横腹を斬り裂き、破片が飛び散った。


だが、砕けた破片が宙に舞うや否や、再び瘴気に引き寄せられ、獣の身体に戻っていく。


「回復してる・・・!」


「普通に壊すだけじゃ駄目か。なら核を探して斬るか!」


ライナが一歩踏み込んだ。


その刹那、彼の足元に風が巻き上がり、疾風の如き加速が生まれる。


「閃斬!」


閃光が走った。


結晶獣の胸を裂き、内部に潜む黒ずんだ結晶核が露わになる。


そこへすかさず追撃する。


轟音と共に核が貫かれ、結晶獣は断末魔の咆哮をあげて崩れ落ちる。


破片は光となって消え、残されたのは瘴気の残滓のみだった。


「ふぅ・・・」


ライナは息を整える。


「これが・・・虚無の裂け谷の“守り”・・・」


ライナは剣を収めた。


「まだ序の口か。ここから先、もっと厄介なのが待ってるのか。気を抜けねぇな」


再び闇の奥へと歩みを進めた。

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