15.剣を求めてドワーフ王国へ
魔王城近くまで乗り込み宣戦布告をしたライナ。相手の力の片鱗を知ったライナは本気を出しても壊れない剣を求めて旅を続けていた。
「ルミナと戦っておいて良かったわ〜。剣の耐久力を事前に知れて」
ライナは剣を抜き状態を確かめた。剣はあちこち刃こぼれを起こしており、後何度か斬ったら壊れるくらいボロボロだった。
「練習用の鉄剣だからな〜。むしろよくここまで耐えてくれたよ」
ライナは苦笑いしながら、剣を優しく鞘に納めた。
「街に行って剣を探すか・・・」
ライナは近くの街に着き、すぐに武器屋に向かった。
「すみません。剣が見たいんですが・・・」
武器屋のカウンターにはゴツいおじさんが座っていた。
「いらっしゃい。好きに見ていってくれ。軽く振るくらいなら持ってもいいよ」
ライナは店内の剣を吟味し始めた。
「マスター。魔術を付与しても耐えれる剣ってここにある?」
「あるが、それなりに値段は張るぜ?」
店主は奥に行き、剣を持ってきた。
「これがうちにある魔術付与できる剣だ」
ライナは店主に剣を渡されて持ってみた。見た目はライナが持ってる鉄剣とそう大差はなかった。
ライナは軽く振って見て剣をじーっと見つめた。
「ちなみにこれ以上の物は・・・?」
ライナは恐る恐る聞いてみるが店主はそんなライナをギロっと睨みつけた。
「ねぇよ!!この剣は俺の店の中で最高の一振りだ。これ以上ってなったら王都とか、でかい街に行きな」
「でも、俺が見た限りこの剣もなかなかだと思うけどな・・・」
「そりゃあそうだ。そいつは俺の知り合いのドワーフが打った一振りだからな。鍛冶をさせてドワーフの右に出る者はいないぜ。常識だろ?」
(ドワーフ、この世界にもいたのか。ならドワーフに直接作ってもらった方が良さそうだな)
「マスター。ドワーフ達が住んでる国ってどこにあるんだ?」
「ドボル王国の事か?どこってお前、あんな大国を知らねぇって・・・もしかしてお前」
ライナはしまったと思って顔を手で少し隠した。
「相当ど田舎の所から来たんだな。しゃあねぇ教えてやるよ。地図は持ってるよな?」
ライナは異世界の勇者とバレずに済み、ホッとして袋から地図を取り出して広げた。
「この街がここだ。ちょうど真ん中辺りだな。ここからドボル王国は西に進んだらある。街道があるから何もなければ歩いて1週間って所だな」
「へぇ〜、ドワーフだから、辿り着きにくいもっと険しい岩山の洞窟の奥に住んでると思ってた。(実際俺の世界のドワーフはそうだったし)」
「ガハハハ、いつの時代のドワーフの話をしてんだよ兄ちゃん。今は武器やら一般道具の交易の為にどでかい国を作り上げたんだよ。ドワーフも俺達もその方がやりやすいしな。本当に何も知らねぇんだな」
ライナは苦笑いしてスルーした。
その後武器屋を後にしたライナはドボル王国目指し街道を歩き始めた。
(ん?何か魔力がどこからか漏れ出してるけど・・・まあいっか)
ライナは一瞬、紅の洞窟がある方を見たが気にせず歩き続けた。
そして歩き続ける事1週間ドボル王国に到着した。
広大な緑の平原を抜けると、地平線の先に現れるのは、まるで大地そのものが盛り上がったかのような黒鉄の城塞都市であった。
周囲を囲むのは自然の山ではなく、ドワーフが積み上げた鋼鉄と岩石の防壁。分厚い壁は陽光を浴びて鈍い輝きを放ち、まるで戦神の甲冑のように国を守っている。
城門をくぐれば、そこには地上に築かれた巨大な街と、その下に広がる地下層都市が待っていた。
地上は石畳と工房が立ち並び、煙突からは赤々とした煙が立ち昇り、絶えず金床を打つ槌音が響き渡っている。
地下は平原の下を掘り抜いて造られ、何層にも渡る空洞に吊り橋や鉄の通路が走り、火と水の力を利用した巨大な機械仕掛けが唸りを上げていた。
そして中央にそびえるのは、鋼と黒石で造られた鍛冶神殿。その頂きからは昼夜を問わず炎柱が立ち昇り、遠くからでも王国の位置を示す灯火となっていた。
それはまさに、平原に突如現れた「鋼鉄の山脈」と呼ぶべき光景だった。
ライナは口元にわずかな笑みを浮かべる。
「ここなら、俺が求める剣が見つかるかもしれないな」
巨大な鋼鉄の門を抜けた瞬間、ライナを包み込んだのは熱気と鉄の匂いだった。街の至るところで赤々と火が焚かれ、ドワーフの鍛冶師たちが鉄槌を振るう音が響き渡っている。
「すげぇな」
ライナは小さく呟いた。その瞳には炎と鉄に彩られた壮観な光景が映り込み、まるで別世界を覗いたかのような表情を浮かべていた。
やがてライナは中央の鍛冶神殿に辿り着き中に通された。そこでは老齢のドワーフが、鋼の槌を片手に立っていた。背は低いが、背筋は真っ直ぐに伸び、白く長い髭が威厳を漂わせている。
「よく来た、人の戦士よ。我はドボル王国鍛冶師団長、バルド・アイアンアームだ」
低く響く声は、まるで金床のように重みを持っていた。
ライナは一歩進み出る。
「俺の力に耐えられる剣を探している。お前達の腕なら、それが叶うと聞いた」
その言葉に鍛冶場はざわめき、集まっていたドワーフたちがライナを品定めするような視線を投げかけた。
すると、バルドはゆっくりと目を細め、ライナを凝視する。
「・・・力を隠してはおらぬな。良いことだ」
その瞬間、ライナの身体からわずかに放たれていた魔力が、周囲の空気を震わせる。鉄槌の音が一瞬止み、ドワーフ達の表情が引き締まった。
「こやつ・・・まるで嵐を封じ込めた剣のようだ・・・」
「いや、剣では足りぬ。大地そのものを斬り裂く刃・・・!」
ドワーフたちは口々に呟き、やがて全員が一歩後ずさった。
バルドは鉄槌を地面に突き立て、静かに首を振る。
「・・・人の戦士よ。その力に耐えうる剣は、この国には存在せぬ」
「何だと?」
ライナは目を見開いた。
「我らが誇る最強の鋼をもってしても、全力を出せばお主の刃はひと振りで砕け散るであろう。鍛え上げた神器すら、持ちこたえられまい」
ライナは黙ってその言葉を受け止めていた。表情は変わらないが、握りしめた拳がわずかに震えている。
「ならば、どこにある」
「伝承の中に名が残る太古の魔物神屍竜の眠る地だ。その骸より生まれし骨と鱗こそ、お主の刃にふさわしい」
鍛冶場に再び鉄槌の音が響き始める。だがその重低音は、まるでライナの心に突きつけられた宿命の鼓動のようだった。
ライナは短く息を吐き、微かに笑う。
「なら、探しに行くだけだな」
鍛冶神殿の奥、火を絶やさぬ大炉の前で、バルドは重々しく語り始めた。
ドワーフたちの槌音も止まり、国全体が一つの物語を聞くかのように静まり返る。
「遠き太古、神々の時代。世界を震撼させた竜がいた。名を神屍竜グラウ=ネザル」
その名が告げられた瞬間、炉の炎が揺れたように見えた。ライナは無言で耳を傾ける。
「神々にすら屍を刻む咆哮を放ち、あらゆる大地を踏み砕き、空を裂いた怪物だ。だがやがて、神々と英雄たちの力を合わせた一撃により討たれ、この大地の深淵に沈められたと伝えられておる」
バルドは壁に飾られた古の壁画を指差した。そこには巨大な竜と、それを取り囲む小さな人影が刻まれている。竜の瞳は宝石のように輝き、見る者の心を射抜くようだった。
「グラウ=ネザルの骸は今も眠る。骨は鋼より硬く、鱗は山脈を覆う盾より強靭・・・その血すらも燃える鉱石となった。そのすべては、神すら超える武を求めし者に試練として残されたのだ」
「試練・・・」
ライナが小さく呟く。
「そうだ。神屍竜の眠る地は “虚無の裂け谷” と呼ばれる。幾人も挑み、帰らぬ者ばかりよ。たとえ屍竜が動かぬ骸であっても、その残滓だけで世界を壊すほどの力を秘めている」
ライナが腕を組み、顔をしかめた。
「つまり、その骸を乗り越え、牙や鱗を得ねぇと俺の全力に耐えられる剣は作れねぇってことか」
バルドは深く頷く。
「その通りだ、人の戦士よ。我らドワーフの技術をもってしても、素材なくしては不可能。だが神屍竜の骨と鱗さえあれば、お主の力に応えうる“真の剣”を鍛え上げてみせよう」
炎がごうっと燃え盛り、ライナの影を長く伸ばす。
彼はその場に立ち尽くしたまま、ゆっくりと剣を抜いた。
赤黒い光を反射する刃は、鍛冶場の熱に耐え切れず微かに軋みを上げている。
「いいね。それがあれば俺は全開で戦える」
低く呟き、ライナは剣を鞘に戻した。その瞳には、揺るぎない闘志が宿っていた。
「行くか。神屍竜の眠る地へ」