14.宣戦布告
混沌の使徒と名乗る謎の男と対峙したルミナ。世界をぶち壊すと言いその場を立ち去った。
時は、ルミナと別れた直後まで遡る。
ライナはのんびり一人でだだっ広い草原を歩いていた。
「うん。ここなら魔物気配も少ないし、大丈夫だろう」
ライナは目を閉じ頭にルミナから預かった地図を思い浮かべた。
そして足が光り、宙に浮き始めとてつもない勢いで飛んだ。
ライナは魔王城が一望できる丘にゆっくり降り立った。
魔王城の眼前、ただ一人ライナが立っていた。
魔王城の麓に広がる荒涼とした大地。夜空には血のように赤黒い月が浮かび、城を覆う魔力の瘴気が渦を巻いていた。
人の気配はない。ただ、城そのものが生き物のように呼吸し、不気味な鼓動を響かせている。
大地を這う瘴気の中、彼は立ち止まり、わざとらしく力を解放し大声を放った。
「聞こえてるか!グラン=ディアヴォルス!」
「いつまでも玉座にふんぞり返っていられると思うな!その首、俺が必ず取りに来る!」
言葉は荒野に響き、瘴気を伝って城の奥へと届く。次の瞬間、魔王城全体からぞわりとした殺気が返ってきた。
「へっ!!」
ライナは大胆不敵に笑っていた。
ー魔王城内ー
リリスを除く奈落の星徒は玉座の間に集まっており、ライナが放つ力に驚愕していた。
「この力。リリスと対峙した時は本気じゃなかったって事・・・」
セレネアは額から冷や汗が流れた。
別室で傷を癒してたリリスは無言で怒りの表情を外に向けていた。
「ここまでとは」
ゾークは落ち着いてライナの出方を窺っていた。
「いいねぇ〜。今すぐぶっ殺してやる」
バルグロスはライナの元に向かおうとするが、ヴァルゼルがそれより早く消えた。
「……お前が勇者か」
重々しい声とともに、黒銀の鎧を纏った剣士、ヴァルゼルがライナの背後に音もなく現れた。夜風を受け、その鋭い眼光がライナを真っ直ぐに射抜く。
ライナは驚き瞬時に戦闘態勢に入った。
ヴァルゼルの目がわずかに細まる。剣を抜かずとも、二人の間に稲妻のような緊張が走った。
互いの力量を確かめるかのように、見えない刃が空気を裂く。
「……虚勢ではない、か」
「お前もな。魔王の犬にしては骨がある」
「リリスの時は手を抜いてたのか?」
「いや、あの時はあれが俺の出せた”全力”だ」
「なるほど」
わずかな火花を交わし、剣を抜く寸前で踏みとどまる二人。ライナは最後に不敵な笑みを浮かべ、城を見て言い放つ。
「待ってろよ。すぐに、その玉座を踏み荒らしてやる」
背を向けて飛び去る勇者。その背中を、城の奥から潜む魔王配下たちの気配が、鋭くも愉悦を帯びて見送っていた。
ヴァルゼルが静かに歩みを戻すと、玉座の間に集っていた配下達がヴァルゼルに寄ってきた。
「どうでしたか?」
セレネアが一番に尋ねた。
ヴァルゼルは短く答えた。
「……虚勢ではない。あれは確かに“勇者”だ」
その言葉に、巨躯のバルグロスが喉を鳴らす。
「グォ……!ならば、すぐにでも俺に相手をさせろ。骨を砕き、血を啜るに相応しい獲物だ」
「早まらないで、バルグロス」
セレネアが、冷ややかに制した。
「あの力は脅威です。・・・焦らず観察する必要があります」
「うむ」
ゾークがうなずく。
「ライナ・ヴァルグレアス!!リリスに手を抜いた事、後悔させてやるですぅ」
リリスが怒りに満ちた表情のボロボロの状態で玉座の間に現れた。
そんな彼女らのやり取りを黙って見ていたヴァルゼルは、玉座の上の男、魔王グランへ視線を向けた。
「魔王様・・・勇者は確かに力を持っています。ですが、今はまだ半端なもの。脅威となるのは、成長しきった時です」
闇に包まれた玉座から、重々しい声が響く。
「・・・ならば見届けよう。勇者がどれほど足掻き、どこまで届くのか。その果てを、我が手で断ち切るのも悪くはあるまい」
言葉に応じるように、配下たちは不気味な笑みを浮かべた。
勇者ライナの存在は、恐怖ではなく、むしろ魔王軍にとって愉悦と期待の種となっていたのだ。
先ほどと同じ場所に戻ってきたライナは笑っていた。
「とんでもねぇ、化け物揃いだったな。今のままじゃ無理だな。って事で俺の力に耐えれる剣を探すか。前の世界で使ってた聖剣並の物があればいいけど・・・。まあ焦らずゆっくり探すか。あんだけ脅せば、あいつらも下手に動けないだろうし」
ライナはそう言い自由気ままに歩き始めた。