表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/133

129.異世界行脚1

叡智の都ミスティア――。


魔王討伐から数日後。


各地で祝宴が続く中、ライナとルミナは、門を前に立っていた。


幾重にも連なる魔導塔。


空中を淡く漂う魔力灯。


知識と魔術を重んじる都市国家ミスティアは、どこか静謐でありながら活気に満ちていた。


「ここが……ルミナが修行してた国か」


ライナが見上げながら呟く。


「私にとっては第二の故郷みたいな場所よ」


ルミナはどこか懐かしそうに目を細めた。


すると次の瞬間――。


「おーい! ルミナぁ!!」


門前から大きく手を振る青年の姿が見える。


「ほんとに帰ってきたのね!」


その隣では、少女も笑顔で駆け寄ってきた。


「カイル、フェリア……!」


ルミナの表情がぱっと明るくなる。


駆け寄ってきた青年――カイルは、ライナを見て喜んでいた。


「魔王城以来だな。よく来てくれた」


「そうだな。ルミナがここで世話になったと聞いて来てみたくなったんだ」


ライナがそう言うと、隣の少女フェリアが笑った。


「勇者様ならいつでもウェルカムだよ!!」


フェリアはライナの腕に抱きついた。


「ちょ、ちょっとフェリア!」


ルミナが顔を赤くし二人を引き離す。


その反応に、カイルは声を上げて笑った。


「何だ?やきもちか?」


カイルが、からかうように言う。


「ち、違うわよ!!」


ルミナはそっぽをむく。


「じゃあ、いいよね?」


フェリアは再びライナの腕に抱きつく。


ライナは苦笑いしながら、流れに身を任せるのであった。


笑い合ってる二人とルミナのやり取りを見ながら、小さく笑みを浮かべる。


この世界に来てからずっと見てきたルミナとは、少し違う顔だった。


戦いに追われる魔術師ではなく――。


年相応の、普通の少女の顔。


「さ、案内する!」


カイルが先頭を歩き出す。


石畳の街路を進みながら、二人はルミナの昔話を次々と語り始めた。


「ルミナはここに来た時からかなり強かった。俺たち二人がかりでも勝てたかどうか……」


「ちょっ……!そんな事ないわよ。カイルもフェリアも充分強かったよ?」


「あの時、世界は広いなーって痛感したよ」


「フェリアまで何言ってるの!?」


「まあ、一緒に師匠の訓練を受けた時は闘技場ひとつ吹き飛ばしかけたけどな」


カイルがルミナを横目で見る。


フェリアもその言葉に同調した。


「そうそう。もっと強くなるためにって張り切ってたら暴発したんだよねー。あれは流石に焦ったわ」


「もう、その事は忘れなさいっ!」


耳まで真っ赤にしたルミナが抗議する。


ライナは堪えきれず吹き出した。


「ははっ、そんな事があったんだな」


「ライナまで……!」


恥ずかしそうにしながらも、ルミナの顔にはどこか誇らしさが滲んでいた。


ライナは気付く。


ルミナはこの街で努力して、泣いて悩んで、それでも前に進み続けたのだと。


今、自分の隣にいる魔術師は、自分の弱さに打ちのめされてここで強くなった。


この街で積み重ねてきた時間が、彼女をここまで連れてきたのだ。


「でもさ」


カイルがふと真面目な声になる。


「あの魔王軍と混沌の使徒の同時襲来の時は、本気で助かった」


フェリアも静かに頷く。


「ルミナがいなかったら、ミスティアは壊滅してた」


ライナは視線を向ける。


ルミナは少し照れくさそうに笑った。


「みんながいたからよ。私一人じゃ何もできなかったし、混沌の使徒のイルシアに至っては追い払うのが精一杯だった」


「それでも救われた」


「あの時は再び痛感したよね。自分たちの不甲斐なさに」


ルミナから簡単に説明はされていたものの改めて聞くと、壮絶な死闘が繰り広げられたんだなと思うライナ。


物思いに耽っている三人ではあるが、その目は、数々の困難を乗り切り今は確かな自信に満ちていた。


ライナは静かに目を細めた。


――ああ。


この世界には、ちゃんとルミナの居場所があるんだな。


その事が、なぜだか少しだけ嬉しかった。


そして夜――。


叡智の都ミスティア全体が、祝祭の灯りに包まれた。


空には無数の魔導光が打ち上がり、色鮮やかな光が夜空を彩る。


音楽。

笑い声。

料理の香り。

平和を祝う人々の歓声。


広場の中央では、ライナとルミナの帰還を祝う盛大な催しが開かれていた。


「勇者様ー!こっちこっち!」


「英雄殿、飲んでくれ!」


次々と声を掛けられ、ライナは苦笑する。


その隣でルミナは、懐かしい人々に囲まれながら楽しそうに笑っていた。


その姿を見たライナは、静かに空を見上げる。


もうすぐ、自分はこの世界を去る。


けれど――。


この景色を、この笑顔を守れた事だけは、きっと誇っていいのだと思えた。


ドボル王国。


鍛冶と鉱石の国。


数多の武具を生み出してきた職人達の王国は、今日も赤熱した炉の熱気に包まれていた。


「すごい……」


隣を歩くルミナ・セレフが、感嘆したように辺りを見回す。


巨大な溶鉱炉。


山ほど積まれた鉱石。


火花を散らす鍛冶場。


街全体が巨大な工房のようだった。


「ここで……あの剣が作られたんだね」


ルミナの視線が、ライナの腰へ向く。


だが、そこにかつてあったはずの神竜剣はもう存在しない。


今あるのは、空になった剣帯だけだった。


ライナは静かに頷く。


「ああ。俺がこの世界で初めて“託された武器”だ」


その声には、どこか懐かしさが滲んでいた。


王国の奥へ進むにつれ、通り過ぎるドワーフ達が次々とライナに気付く。


「おお!?」


「勇者殿じゃねぇか!」


「本当に戻ってきやがった!」


歓声混じりの声が飛ぶ。


その中でもひときわ大柄な老人が、鍛冶場の奥から姿を現した。


白く長い髭。


岩のように太い腕。


煤に汚れた鍛冶服。


バルド・アイアンアーム。


神竜剣グラネシスを作り上げた、ドボル最高峰の鍛冶師だった。


「……久しぶりだな、ライナ」


低く重い声。


ライナはその姿を見るなり、小さく頭を下げた。


「バルド」


ルミナも慌てて続く。


「は、初めまして! ルミナ・セレフです!」


「ほう。噂の魔術師嬢ちゃんか」


バルドは値踏みするようにルミナを見た後、ふっと笑った。


「なるほど。こりゃライナが信頼するのも分かる」


「えっ……」


ルミナが少し照れたように目を逸らす。


だがライナの表情は、どこか硬かった。


バルドはすぐにそれに気付く。


「……どうした」


ライナはしばらく沈黙した後、ゆっくりと腰の剣帯へ触れた。


そこにあるはずだった重みは、もうない。


「……グラネシスは」


掠れるような声。


「魔王との戦いで砕けた」


周囲の金属音が、一瞬だけ遠くなった気がした。


ライナは深く頭を下げる。


「すみませんでした」


ルミナが小さく目を見開く。


ライナは続けた。


「全部の力を使った。グラネシスも、グラウ=ネザルも……全部」


「だから、剣は最後に耐えきれなかった」


その声には、武器を失った悔しさだけではない。


共に戦った相棒を失った喪失感が滲んでいた。


静寂。


やがて――。


「……馬鹿野郎」


ガルドが鼻を鳴らした。


「え……?」


ライナが顔を上げる。


周囲のドワーフ達も、呆れたように笑い始めていた。


「なんで謝る必要がある」


「そうだそうだ!」


「むしろ胸張れって話だ!」


一人の職人が笑いながら言う。


「神竜剣はよぉ、“世界を救うため”に作られたんだ」


別のドワーフが続ける。


「だったら使命は果たしたじゃねぇか」


「最後まで戦い抜いて砕けたんなら、本望だろうが」


バルドはライナの前まで歩み寄る。


そして、分厚い手でライナの肩を乱暴に叩いた。


「誇れ」


低く、力強い声。


「神竜剣グラネシスは、世界を救った英雄の剣だ」


ライナは目を見開く。


「武器ってのはな、壊れねぇ事が名誉じゃねぇ」


バルドの視線が、まるで炉の炎のように熱を帯びる。


「使い手と最後まで戦い抜いた時に、初めて“生きた武器”になるんだ」


周囲の職人達も頷く。


「グラネシスは最後までお前と一緒に戦った」


「だったら最高の剣じゃねぇか」


「むしろもっと褒めてやれ!」


ライナはしばらく言葉を失っていた。


脳裏に浮かぶ。


最後の瞬間。


砕け散る銀の刃。


光となって消えていく瞬間に微かに見えた神竜。


『――よくやった、ライナ』


あの声が、姿が今も耳の奥に残っている。


ライナは静かに目を閉じた。


そして小さく笑う。


「ああ……そうだな」


その表情は、ようやく相棒の最期を受け入れられたようにも見えた。


「グラネシスは、最高の剣だった」


その瞬間。


ドワーフ達が一斉に笑い声を上げた。


「そうこなくっちゃなぁ!!」


「今日は飲むぞ勇者ァ!!」


「英雄の剣に乾杯だ!!」


一気に鍛冶場の空気が明るくなる。


ルミナはその光景を見ながら、そっとライナの横顔を見つめた。


そこには、ほんの少しだけ肩の荷を下ろした勇者の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ