11.血晶巨獣グロマルス1
突如、広大な空洞に飛ばされたルミナ達。そこで待ち構えていたのは、血晶巨獣グロマルスだった。
ルミナ達4人はグロマルスの圧倒的な存在の前に動けずにいた。
「これがAランクダンジョンのボスの力・・・」
ルミナがボソッと呟くと、ジークが否定した。
「こいつはAランクなんかじゃない。【血晶巨獣グロマルス】!!災害級魔物ですよ。文献か何かで見たことあるでしょ!?」
「見たことあるけど、災害級がいるからAランクダンジョンに指定されてるんじゃないの?」
「災害級はSランクです。紅の洞窟で確認されていたボスは紅結晶を纏った蠍型の魔物でした。こいつは到底僕達がかなう相手じゃない。逃げましょう」
ジークの提案にバルクとノアも相手を刺激しないように小さくうなずいた。
「逃げたいのは山々なんだけど・・・逃げれると思う?」
ルミナ達の眼前には15m程の四足巨獣がルミナ達を睨みつけている。
「グロマルスから逃れる自信はありませんし、そもそもここの空洞、出口がありません」
ノアの発言に3人は驚いた。
「出口がないだと・・・」
バルクは辺りを見渡す。
「さっきこっそり空間認識魔術を発動したんですが、ドーム状に覆われている感じで出口が見当たらないんです」
「つまりは・・・?」
「こういう場合その場にいる魔物を倒せば出口に繋がる道が開かれるか、魔法陣が現れるのがセオリーですが・・・」
「こいつを倒さなきゃダメって事ね」
「俺達がグロマルスを・・・」
「無理ですよ。ここまで圧倒的な差があると・・・」
「でも、倒さないとどのみちここからは出られない」
ルミナは3人が絶望の表情を浮かべる中、グロマルスを直視して言った。
「できる!!」
ルミナを見る3人。
「どうしてそう言えるんですか・・・?」
ジークがルミナに尋ねる。
「確かにグロマルスは強い。でも私達ならこいつを討伐できる」
「だから根拠は!?」
「勘よ!!それに私はこの程度の魔物に負ける訳にはいかない。彼に追いつくために!!」
ルミナはグロマルスを睨む。
それを見ると同時に、咆哮をするグロマルス。その余波が収まるよりも早く、グロマルスの前肢が振り下ろされた。岩壁ごと粉砕する質量が迫り、空気が悲鳴を上げる。
「避けてッ!」
ルミナの叫びと同時に仲間たちが散開。
次の瞬間、巨腕が叩きつけられた地面は地震のように隆起し、紅の結晶片が雨のように降り注ぐ。
バルクはやけくそに真っ先に飛び込み、粉塵の中で拳を振るった。
「ォオオオッ!!」
鍛え抜かれた拳が結晶の外殻を砕くが、手応えは厚い氷を殴ったかのように重い。
「チッ……効いてやがんのか!」
続けざまにルミナが詠唱する。
「風よ、刃と化し敵を裂け!!エアリアル・カッター!」
放たれた風刃が紅の外殻を斜めに切り裂く。
しかし、血晶の肉体はしなりながら再生し、まるで笑うように光核が脈動した。
「なら、こちらは・・・」
ノアが眼鏡の奥で目を細め、杖を地面に突き立てる。
「結晶は魔力の器……なら逆に、魔力を逆流させれば!」
青白い魔力陣が床に広がり、結晶の一部が共鳴してひび割れを生む。
巨獣が低く唸り、苛立ちを示すように尻尾を薙ぎ払った。
「ちくしょう!」
ジークが前へ。
尻尾の一撃が空気を裂き、岩壁を粉砕するより速く、彼は剣を抜き放った。
「轟断剣!」
轟断剣を直接叩きこむジーク。尾の結晶棘が一瞬だけ断ち割られる。
火花のような赤黒い欠片が散り、巨獣の体液とも呼べる結晶の血が滴った。
だが・・・。
断面はすぐに蠢き、血晶の肉が泡立つように再生していく。
核の鼓動が一段と激しくなり、洞窟そのものが呻いた。
「……まさか、“この空洞ごと”が体なの」
ルミナの背を冷たい汗が伝う。
だが退く道はない。冒険者たちは紅の巨獣を囲み、次の手を打つべく武器を構え直した。
「でも、思ってる以上に渡り合えてる?」
ジークは体がグロマルスの動きについていけてる事に驚いていた。それは他の2人も同じだった。
「フォース・エンハンス・・・」
ルミナはライナの技を使っていた。
(ライナは武器に力を込めてたけど、私はそれを応用して肉体強化に変化させた。これで戦えるはず)
だが、決定打に欠ける。傷をつけても追撃しなければ回復してくるグロマルス。
(回復する前に追撃をしてダメージを与えないと、ジリ貧だ)
ルミナは打開策を頭の中で考えるが思いつかない。
「ルミナさんは魔力をためてください!!」
ノアがグロマルスに水弾を撃ち込む。
「ノア!!」
ノアに巨腕を振り落とすグロマルス。
「しゃらくせぇえええ!!」
振り落とされてくる巨腕をバルクが全力で殴り、押し返す。その反動でグロマルスが体勢を崩した。
「轟断剣!!」
追撃でグロマルスを斬りつけるジーク。
だが、やはりグロマルスが纏っている紅晶に少しヒビが入るだけで、また回復する為に紅晶が赤く輝き始めた。
「やらせません!!空を巡る奔流よ、力を借りん。纏え、穿て、砕け散れ!ウインド・バレット!!」
ノアが空気を一点に圧縮し集めた風の弾を放ち、ヒビが入った紅晶ごと体を撃ち抜いた。
グロマルスは咆哮を上げ、少し苦悶の表情を浮かべた。
「通った!!」
バルクがダメージが入ったのを喜ぶのと同時にグロマルスが空洞が震えるほどの咆哮を上げ、体に纏っている紅晶を四方八方に猛スピードで発射した。
バルクは自力で避け、ノアは魔術障壁を張り、耐えていた。
ルミナとジークは岩陰に隠れやり過ごした。
「3人の連携であの程度か・・・」
ジークが岩陰からグロマルスの巨腕にできた小さな傷を見てぼやく。
「今のままではこちらが先に力尽きてしまいます。先ほどの連携技を絶えずやり続けないと」
「いけるのか・・・」
「無理だろうね。相手は災害級のSランクだ。同じ技は通用しないだろ」
「はい。だから、ルミナさんにはあいつを一撃で葬れる位の魔力をためてもらいます」
「ためてる間は、攻撃がルミナさんに向かわないように誘導しないといけないわけか」
「それだけじゃありません。ダメージももう少し与えておかないと」
「おいおい、やる事山積みじゃねぇか・・・」
3人は武器を構える。
「そんな危険な事」
ルミナは別の案を出そうとするが、ノアが首を横に振った。
「これしかありません。だからできるだけ早くためて下さいね」
「俺達の命あんたに預けるぜ」
バルクは拳同士をぶつけ、構え直す。
「僕がここまでやるんです。失敗したら覚悟して下さいよ」
ジークは言い終わると同時にグロマルスに突っ込んでいった。
3人の覚悟にルミナも覚悟を決め、アーク・セレノスの先端に魔力を集め始めた。
(あいつを倒すには、星刻の光槍しかない。けどまた暴走したら、今度は止める人がいない)
ルミナは弱気になって俯いた。
(いいえ、3人は私の事を信じて格上の魔物の相手をしてくれている。私は彼らの期待に応える為に、やるだけの事をやるだけ。それにフォース・エンハンスの効果ももう少しで切れる。切れたらあの3人には荷が重すぎる。そうなる前に決着をつける)
ルミナは顔を上げ、魔力を込め続ける。
勝利を掴むために。