10.紅の洞窟の主
ルミナ達は紅の洞窟の最深部に向かって歩いていた。
「ルミナさん、ジークさんとの戦いを見ていて思ったのですが、魔物との戦闘の時、手を抜いてたんですか?」
ノアがルミナの隣に並んで聞いてきた。ルミナはすかさず否定した
「手を抜いたつもりはないけど、色々試させてもらってたの。無詠唱ではどのくらいの威力かとか、安定して攻撃できるかとか、その他色々ね。でもさっきの戦いを見たらそう思われても仕方ないわね。ごめなさい」
ルミナはノアに頭を下げた。
「い、いいえ。ルミナさんは、あくまで私達のサポートとしてついてきてもらっているので、お気になさらず。ルミナさんから見たら私なんてまだまだですよね」
「そんなん事ないわ。ノアは少ない魔力であれだけの威力を出せている。すごい事よ。あれは魔法陣の最適化かしら?」
ルミナの話を聞いて、ノアの顔がパッと明るくなった。
「はい!そうです。術式を極限まで簡素化してます。それと私は魔力共鳴って言ってるんですが、魔力を無造作に放つのではなく、対象の性質に波長を合わせて干渉してるんです。例えば炎魔法なら、空気中の酸素振動とか水魔法なら大地の水脈の流れとかを感じて、それの波長と合わせてるんです。そうする事で最小限の魔力で最大限の威力を出すことができるんです」
ノアは饒舌に語った。
(本人達が自覚してるかは分からないけど、ライナやリリスももしかしてノアが言ってる魔力共鳴を自然とやっている?だからあれだけの猛攻をやり続けることができた)
「表現が適切かどうかは分かりませんが、これバルクさんやジークさんの攻撃に応用する事もできますよ」
ノアがジークとバルクを見た。
「「?」」
2人が軽く首を傾げるとノアが説明を始めた。
「見ていたら、お二人とも自分のポテンシャルに頼りすぎです。バルクさんは肉体に頼りすぎで、いつでも全開!!って感じです。そんな戦い方は長期戦に不利です。普段は最低限の力だけで動いて、攻撃が当たる瞬間だけ力を思いっきり込める。そうすれば先ほど戦った魔物とももう少し互角に戦えていたと思いますよ。」
「お、おう・・・」
バルクはいまいち分かってない様子だった。
「ジークさんもまあ似た感じですけど、動作に無駄が多いです。自分ではかなり最適に動いてるつもりなのでしょうが、私から見たらもう少し削れるところがありましたね。まあ痛いのが嫌だからあんな無駄に動いて、一撃で終わらせたいからあんな大ぶりな攻撃になってるんでしょうけど」
ジークは初めにあった時のノアの迫力の違いに何も言い返せず黙って話を聞いていた。
「ていうか、ノアって結構喋りたがり?」
ルミナが苦笑いしながら聞いた。
「すすすす、すいません。自分の得意分野の話になると止まらなくなって・・・」
ノアは顔を赤らめて俯いた。
「悪い事じゃないわ。得意な事はどんどん発信していくべきよ。それに今の話は冒険者にとってとても有益な情報よ。ノアはもっと自分に自信を持つべきよ」
「よく分からないが、俺のためを思って言ってくれた事は伝わったぜ。サンキュウな」
バルクは笑顔でノアの背中を軽く叩いた。
「頭の片隅にでも置いとくよ」
ジークは少し照れ臭そうに言った。
その2人の様子にノアは心の底から嬉しくなった。
「私には?」
「ルミナさんはですね・・・っ!!」
ノアが何かを言いかけた時、ルミナ達の周りの空気が一変した。全員一気に警戒心を最大限まで高め武器を構えた。
「この威圧感・・・」
「最深部まではまだだろ」
「だが、この感じは」
「近くまで来てる」
その瞬間、ルミナ達の足元に巨大な魔法陣が現れ、全員光に包まれた。
「転移魔法!?」
4人は一瞬で巨大な空間に転移させられた。
空気そのものが血のように重く、鉄の匂いが鼻腔を焼いた。そこに「それ」はいた。
岩盤を穿つように無数の紅い結晶が林立し、その中心に、ひときわ巨大な影が身を横たえている。それは獣でも竜でもない。
結晶と肉がぐちゃぐちゃに絡み合い、四肢は鉱石の柱のように歪み、背からは剣山じみた血晶の棘が突き出していた。顔と呼べる部分には牙の代わりに赤水晶の結晶刃がぎっしり並び、眼窩には血晶核が脈動している。
ドクン。
地響きのような鼓動が洞窟を震わせた。それは生き物の心臓音ではなく、赤く脈打つ鉱石そのものの波動だった。
岩壁に生えた結晶までもが共鳴し、赤い光を放ち始める。
「……っ、なんて化け物……!」
ルミナが杖を握る手を震わせる。
巨獣が立ち上がった瞬間、地面に亀裂が走り、血晶の棘が地を突き破ってせり上がる。咆哮・・・いや、岩盤が砕ける轟音に似た絶叫が空洞全体を支配した。
音圧だけで岩片が降り注ぎ、仲間の足元が揺らぐ。
「来るぞッ!」
ジークが剣を構え、それに呼応するように全員力を込める。巨獣の腕が振り下ろされた。その動きは鈍重に見えて、鉱石の重みと血晶の硬度が合わさった破壊力は岩盤を容易く粉砕する。大地を叩き割る衝撃波が走り、立っているだけで全身の骨がきしむ。
純粋な理性なき災害。
それが血晶巨獣グロマルス、紅の洞窟の主だった。