第8話 追跡者クラウスともう一人の神職
王都ギルド支部のロビーには、任務から帰還したばかりのユウたちの姿があった。
疲れた表情ながらも、どこか達成感を湛えているのが見て取れる。
「はぁ……生きて帰ってこれたのが奇跡だよ……」
ソファに沈み込むミリィ。
その隣で、リアが水を飲みながらちらりとユウを見やる。
「アンタ、前より“戦い慣れ”してきたね」
「そうか……? まだまだ手探りだけど」
「でも……なんか、戦ってる姿見てて――」
リアの言葉を遮るように、ギルドの重厚な扉が開いた。
ガシャン、と鋼鉄の音が響き、重装備の男が一人入ってくる。
「……ユウ」
呼ばれた名に、ユウの肩がびくりと揺れた。
「――クラウス……!」
神職の装束を纏ったその男は、かつての“聖光の神殿”においてユウの才能を切り捨てた張本人だった。
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「お前が、ここまで這い上がってくるとはな。驚いたよ」
「……あのとき、あんたが俺を見限ったから、ここまで来れたのかもしれない」
「皮肉な話だ。だが、俺の任務は一つ――お前を“管理外”として排除することだ」
「は?」
「お前の力は、あまりに“不確定”だ。神職として、見過ごすわけにはいかん」
空気が一瞬にして張り詰める。
リアとリゼが、すぐさま武器を構えた。
「ちょっと待ちなさいよ。あんた、仲間を脅しに来たの?」
「勘違いするな。これはあくまで“通告”だ。次に対峙する時、お前は敵だ。覚悟しておけ」
クラウスは冷たい瞳でユウを見つめ、背を向けて去っていった。
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「……で、なんで私たちが“再度地下任務”なんかやらされてるわけ?」
リアの文句が響く。
「クラウスの通告があってから、王都近郊で魔力の異常が発生してる。どうやら奴ら――“黒の福音”が関与してるみたい」
リゼが地図を広げる。
「今回の任務は、地下水路に出現した“変異型魔物”の討伐。それと……」
「それと?」
「クラウスとは別の、“もう一人の神職”が出現したとの情報があるの」
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地下水路の最奥部。
光も届かぬ静寂のなか、魔力の流れだけが生き物のように蠢いていた。
「誰か……来る?」
そこにいたのは、巫女装束に身を包んだ少女だった。
白銀の髪、透き通るような肌、そして瞳に宿る神気。
「まさか……ここに“生きた神職”が?」
ユウが近づくと、少女は一歩退いた。
「……あなた、ノービス?」
「そうだが……」
「やっぱり……“予兆”は間違ってなかった。あなたこそ、私が探していた“運命の者”」
「えっ、運命……!?」
突然の言葉に、ミリィとリアの反応がピリつく。
「ちょ、ちょっと! いきなり何言ってんのよ!?」
「彼は私たちの仲間なんだから! そういう“出会いフラグ”みたいなの、勝手に立てないで!」
少女――神巫エリナは微笑む。
「あなたたちには感謝するわ。彼を導いてくれたことに。けれど……これからは、私もその一人」
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その時、壁が崩れ、異形の魔獣が飛び出した。
「出たわね、《変異種:アクアヘッド》!」
水を纏った巨大な獣。動きは俊敏で、斬撃や魔法を弾く水膜を纏っている。
「ミリィ、前衛防御! リア、右から回り込め!」
「了解! 《シールド・スラッシュ》!」
「《ウィンドステップ》からの――《エアスパイク》!」
ユウも《影跳び》を駆使し、敵の死角へ。
「今だ、エリナ!」
「……《神降ろし・雷光顕現》!」
雷撃の柱が天から降り注ぎ、水膜を一瞬で蒸発させる。
「すご……あの子、相当な神職だよ……!」
ミリィが驚きの声を漏らす。
「これが、真の神職の力――か」
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戦闘を終えたユウたちに、エリナが近づく。
「改めて……私は神巫エリナ。神託に従い、あなたと行動を共にします」
「待って、それって……」
「ええ。あなたの“加護”は、普通のノービスではありえない。“神職の再来”として、私はあなたを護りたい」
リゼが腕を組み、冷静に言う。
「面白いじゃない。これで、私たちのパーティも戦力強化されるわ」
「ま、まぁ……増えるのは悪くないけど……」
リアは複雑な顔をしつつ、ミリィはちょっと涙目になっていた。
「ユウくんって……ほんと、女の子を引き寄せるよね……」
「えっ、そ、そんなつもりは……!」
「フフ。そういうところがまた……魅力なんじゃないかしら?」
エリナの微笑みが、パーティにまた新たな波紋を生んでいく――
次回予告
第9話「神罰の双剣と、歪んだ祈り」
新たな敵、新たな力、そして揺れ動く想い。
エリナの過去が語られるとき、クラウスの真意が明かされる。
“バグ職”の覚醒が、ついに形になる瞬間が迫る――!




