第6話 貴族令嬢と秘密の依頼。
──夜。
王都の外れ、静かな通りにある小さな屋敷。その前に立つユウ、リア、そしてミリィ。
「……ここが依頼主の屋敷?」
リアが不安げに問いかける。
「そうだ。ギルド経由じゃなく、“個人宛て”で直接届いた依頼書だ」
ユウは懐から取り出した羊皮紙を広げる。そこには、筆跡の整った文字で短く書かれていた。
> 『神職を護る者、ユウ殿へ。
本日、王都東区の“ルヴァン邸”へお越しください。
目的は守護と調査。依頼料は現地にて提示いたします。
――L・ルヴァン』
「ルヴァン……貴族の家名よ。確か伯爵家だったはず」
リアが囁く。
ミリィがユウの袖をそっと掴む。
「……また、危ないこと?」
「……たぶん、そうだ」
だが、行くしかない。ユウは扉をノックした。
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迎えに出たのは、凛とした銀髪の少女だった。
「ようこそ。私が依頼主、リゼ=ルヴァンです」
──新キャラクター:リゼ=ルヴァン
・ルヴァン伯爵家の長女
・神職の保護政策に異を唱える改革派
・表向きは病弱な貴族令嬢として暮らしている
・裏では神職にまつわる極秘文書を追っている情報屋
「私の護衛をお願いしたいの。狙われているの……“神の使い”と名乗る、謎の暗殺組織に」
ユウは眉をひそめた。
「“神の使い”……リア、聞き覚えは?」
「ええ。かつて神殿内で噂になっていた“異端排除”の影の組織。存在自体は曖昧だったけど……まさか、本当に動いてるなんて」
リゼは静かに頷く。
「昨日、屋敷の護衛たちが一人、遺体で発見されたの。神職に関連する“記録文書”を扱っていた彼だけが狙われて……」
「つまり、情報の所在を知る君も、次に狙われるってことだな」
「そう。だからこそ、あなたたちにお願いしたい。“ギルドを通せない依頼”を、引き受けてほしいの」
ユウは少し考えてから、頷いた。
「わかった。護衛と調査、まとめて引き受ける。……その代わり、情報はすべて公開してもらう」
「ええ、約束するわ」
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その夜、ユウたちは邸内に滞在し、交代で警戒に立った。
深夜、静寂を切り裂く音が響く。
「……来たか」
ユウはすでに装備を整えていた。
《写影石:絶影》
──黒のダガーとともに、音もなく廊下を駆け抜ける。
「風音ひとつしない……この足音、常人じゃない」
すると──壁が崩れ、漆黒のローブを纏った刺客が飛び出した!
「神の使いに敵対する者よ……“浄化”を」
「チッ、やっぱり本物か!」
刺客の手に宿る光──《神断》の魔印。
通常の魔法防御を貫通する“神術”の一種だ。
「ユウッ、危ない!」
リアが加勢しようと飛び込む。
「《模倣・空間転位》!」
ユウが地面に写影石を投げると、瞬間的にリアとミリィを転送し、彼女たちを部屋の外へ。
「ここは俺がやる。……“バグ職”の本領、見せてやるよ」
刺客が詠唱を終え、光の刃を放つ。
《聖剣断罪》──神職専用の一撃必殺術。
「《複合模倣・冥界歩+霧化》!」
ユウの体が霧のように分散し、攻撃をすり抜けた。
「な……消え──」
「背中が甘いな」
刺客の背後に現れたユウが、《震動爆刺》を突き立てた。
「グゥッ……!」
霧と震動が体内で炸裂し、刺客は床に崩れる。
「さて……何者なんだ、お前は」
「“第八の教典”を……返せ……」
「第八……?」
そう呟いた刺客は、手に持っていた封書を地面に落とし、そのまま昏倒した。
ユウが拾い上げた封筒には、封蝋が押されていた。
「……この紋章、神殿の封印文。下級神職でも開封すらできないはず」
リアが驚いた声を上げる。
ミリィは震えながら背後から顔を覗かせた。
「“第八の教典”って……神様の教えが七つしかないって、教会では……」
「そう。公には“七教典”までしか存在しない。だが、裏では『第八教典』の存在が囁かれてきた」
リゼが静かに口を開く。
「私の父もその真実を追い、……十年前、謎の死を遂げたわ」
「まさか……それが今回の襲撃と繋がってるって?」
「ええ。そして、この“神の使い”……あれはただの刺客じゃない。おそらく、“異端監視局”の下部組織。……神殿の“裏部隊”よ」
空気が重くなる。
「つまり、神職を護る立場の俺が、その“神殿の裏側”と戦うことになるってわけか」
ユウは苦笑した。
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ユウは、戦闘で使用した《震動爆刺》《霧化》《冥界歩》を整理し、改めてノービスの能力を確認していた。
「ノービスは本来、模倣と拡張の複合スキルを持つ……が、通常では発動条件が厳しすぎて実用に耐えない」
「でも、ユウはそれをレアドロップの装備と“バグ”で覆したのね」
リアが横から呟いた。
「装備スロット拡張のバグと、写影石の無限コピー。戦闘ログ偽装……システム的には全部合法スレスレだな」
「そういうの、ずるいって思わないの?」
ミリィが問うと、ユウは肩をすくめた。
「思うよ。でも……“勝てなきゃ、守れない”んだ」
その言葉に、リアもミリィも黙ったまま頷く。
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その翌日。
リゼの屋敷に訪問者が現れた。
黒馬に乗った騎士装束の青年、仮面で顔を隠している。
「私の名はクラウス。神殿直属、教典保守監査官。君たちの行動について、いくつか話を聞きたい」
──新キャラ:クラウス=ヴァルデン
・神殿に所属する寡黙な監察官
・剣と神術の両方に通じる特異な立場
・一見冷静だが、信仰に対しては狂信的ともいえる忠誠を誓っている
・ユウに興味を持ち、同行を提案
「君は……神職にあるまじき技を使った。それが、何を意味するか……わかっているか?」
クラウスの声には冷徹さがあった。
ユウは一歩も引かずに言い返す。
「……俺は神職だからこそ、守るために戦った。それの何が悪い?」
しばしの沈黙。
「興味深い。……君の行動、監視対象に指定させてもらう」
そう言い残し、クラウスは踵を返した。
ユウは肩をすくめる。
「また厄介なやつに目をつけられたな……」
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リゼが小さく息を吐く。
「封印文書……この“第八教典”は、私が預かるわ。でも、それは同時に──命を狙われ続けることを意味する」
「なら俺たちが護る。……あんたが、この世界の真実に向き合う覚悟を持ってるならな」
リゼは、微かに微笑んだ。
「ありがとう……神職を失いかけた私に、まだ“神を信じる勇気”をくれるのね」
次回予告
第7話「黒の教団、潜入任務。王都地下に眠る“断罪の祭壇”」
突如浮上する異端教団“黒の福音”。
教典奪取を狙う彼らの本拠地は、王都地下水路にあるという。
ユウたちはリゼの導きで潜入調査を開始するが、そこで出会ったのは──神殿を追放された元神官たちだった。
そしてユウの“ノービス”に眠る、さらなる“再現スキル”が発動する!