第5話 王都ギルド、裏と表。
――王都・中央区ギルド本部。
冒険者の喧噪が飛び交うロビーに、ひと際場違いな空気が流れる。
「……戻ってきちまったか、ここに」
ユウは大きく息を吐き、ギルドの重い扉を開いた。
その隣には神職の少女リアと、保護した封神の少女・ミリィの姿。
「ここが、ユウの昔のギルド……?」
「正確には“追放されたギルド”だ。俺を切り捨てた連中が、今ものうのうとここで活動してる」
「……緊張してる?」
「まさか。ただ……懐かしすぎて、笑いが出てくるだけだ」
数歩進んだ先で、受付カウンターにいた女性が顔を上げて──目を見開いた。
「……え? ユウ……?」
受付嬢リナ。かつてユウに密かに好意を寄せていた、唯一まともな職員。
「リナさん。久しぶり」
「久しぶりって……あなた、追放されたはずじゃ……!」
「まあ、事情が変わってな。ギルドに用がある。トップの奴、今もいるか?」
「……ええ。ですが、今すぐは無理です、彼は上層の貴族ギルドの面談中で──」
その言葉を遮るように、男の声が割り込む。
「おやおや、ずいぶんと懐かしい顔だな。雑魚ノービスが戻ってくるなんて」
現れたのは、ユウのかつてのパーティリーダー、【レオン】。
Aランク剣士。ユウを育成失敗として見限り、追放を主導した男だ。
「レオン……まだ偉そうにしてたのか」
「何だその口の利き方は? お前がいなくなってから、俺たちはSランク昇格候補になってるんだぞ?」
「へえ、俺を追放したおかげで調子いいってか? だったら、ありがたく思えよ。俺が“最弱”だったおかげだ」
「は……!」
空気がピリつく中、リアが一歩前に出る。
「この人は、ただのノービスなんかじゃない。……この間、Bランク魔獣のスケルトンナイトを、ほぼ単独で撃破したのよ」
「ほう? なら“実力”とやらを、証明してみせるか?」
レオンはギルドロビーにある「模擬試合エリア」を顎で指し、にやりと笑った。
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ユウ vs レオン。ギルドの視線が集まる。
「ルールは簡単。魔法と武器は制限なし。ただし殺さない程度にね」
「手加減するつもりはないけどな」
開戦の合図とともに、レオンが《剛剣・裂空斬》を放つ。
剣から真空の斬撃が発射され、ユウの正面を薙ぎ払う。
が──
「《模倣・跳躍斬り+幻歩》」
ユウはその刹那、地を蹴って幻影のように跳び、斬撃を回避。
空中でくるりと体を回転させ、背後からレオンへ斬撃を浴びせる。
「ぐっ……まさか、回避された!?」
「お前と違って、戦場で生きてるからな」
ユウは写影石を再起動。
《複合模倣:震動矢+足払い術》
足元に着弾する魔矢が震動し、足をすくった瞬間に膝裏へダガーを突き立てる!
「ッくそっ!」
レオンは辛うじて後退し、傷を浅く抑えるが、その顔色は青い。
「どうした? かつて“役立たず”って言ったノービスに、押されてるぞ」
「黙れぇぇぇ!」
レオンが奥の手、《剣神の加護・第一段階》を発動。
剣速と反応速度が二倍になるバフを展開。
「まだあるぞ──《バグ構築・模倣解除→瞬時再構築》!」
ユウは写影石を連続で切り替え、《絶風の舞》という風属性の体術をコピー。
風の渦をまとい、レオンの攻撃をかすりもさせない。
──そして、決定的な一手。
「《模倣・奥義:一点穿刺》!」
ユウが使うはずのない高位スキルが発動。
本来は槍使いしか扱えない奥義を模倣し、レオンの鎧の隙間に命中させた。
「ぎっ……ぁ……!?」
レオンが崩れ落ちた。観衆がどよめく。
──最弱と呼ばれたノービスが、ギルドのエースを完封した。
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直後、ギルドマスターの執務室。
「なるほど。あの騒ぎは君が原因か、ユウ=ノービスくん」
現れたのは中年の男。ギルドマスター・バゼル。
そしてその隣には、上級貴族の青年──【セリウス侯爵家・長男アレン】がいた。
「この子を保護したそうだね。封神の血筋は国が管理する法令に準じ、我々が保護すべき存在だ」
「いや、渡さない」
「それは、ギルドへの反抗とみなしても?」
ユウは一枚の証書を取り出す。
「これは、旧聖都ギルド支部の“特例戦功登録書”。現地での救助と魔獣討伐記録だ。正当な保護者は、俺とリアになる」
バゼルの目が細くなり、アレンが舌打ちをする。
「……面倒なことを」
「やれるもんなら、力ずくで来いよ。模擬戦で見ただろ? 今の俺は、追放された時のままじゃない」
バゼルが手を振り、アレンを下がらせる。
「……今は見逃そう。ただし、君がギルドに復帰したいなら、査定と正式な再登録が必要だ」
「わかった。条件を飲もう。ただし一つ、俺のパーティ名義は“ノービス零式”。個人ランクも“変動制”で申請しろ」
「“変動制”……? 通常は固定ランクだぞ?」
「俺はノービスのまま、上位クエストを受ける。育成失敗のレッテルが、どれだけ馬鹿げてたか……証明してやるよ」
バゼルは笑みを浮かべる。
「面白い。なら君の挑戦、見届けさせてもらおうか」
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ギルドを出た三人。
ミリィは手を繋ぎながら、そっと微笑んだ。
「ねえ、ユウお兄ちゃん。私、強くなれるかな……?」
「なれるさ。お前は“選ばれた存在”なんだからな」
リアが優しく微笑み、ユウの腕に寄り添う。
「最弱なんかじゃない。あなたは……私たちの希望なんだから」
──夜空に瞬く星の下、三人の絆が少しだけ、強く結ばれた。
次回予告
第6話:「貴族令嬢と秘密の依頼。『神の使い』を名乗る暗殺者」
新たな依頼は、王都の貴族令嬢からの極秘依頼。
その裏に潜むのは、神職を狙う謎の暗殺組織《アストラ教団》。
再び試される“バグ職”の力。
リアの過去と、ユウの覚悟が交差する──!