第4話 神職少女と、はぐれノービス。最強ペア、始動
【王都・アーヴェンシュタット、冒険者ギルド支部】
陽が高く昇る頃、王都最大の冒険者ギルドは、朝から混雑していた。
「おい、聞いたか? 西の廃村で、神職とノービスが一帯の盗賊団を潰したって話……」
「ノービスが? 冗談だろ? どうやって戦ったんだよ、あのゴミジョブで」
「いや、それが……“神剣”っていう伝説級のスキルをぶっ放したとかでさ……」
浮かび上がるは“ノービス”という異端の名。
信じる者はまだ少ない。だが、何かが変わり始めていた。
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【廃村・東の草原】
リアは、草の上に座りながら、そっと光輪を撫でていた。
「ふふ……もう、暴走しないみたい」
「……だろうな。あの神剣、ちゃんとお前自身の意思で放てた」
ユウは薪を組みながら、笑う。
戦闘後、彼らは廃村近くの草原にキャンプを張り、一晩を過ごしていた。
昨日の激闘を経て、リアの魔力暴走は収まり、神職としての自我も安定し始めている。
「ありがとう……本当に、私、誰にも制御できないって思ってたから……」
ユウは火を灯し、鍋に水を注ぐ。
「俺だって、初めは“スキルも取れねえし武器も装備できない”って、散々バカにされてたよ。──でもな」
振り返る。
「“誰かのせいで使えない”んじゃない。“自分で使い方を知らない”だけだったんだよ」
リアはその言葉に、驚いたような、それでいて納得したような表情を見せた。
「……それ、少しだけ希望が持てる言葉だね」
鍋の湯気が、静かに空へと昇っていく。
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【午後/廃村を出発】
二人は廃村を後にし、王都を目指して東へ進む。
「これからどうするの?」
「まずは王都ギルドに行く。今のままじゃ装備も物資も足りない。仲間も──」
ふと、ユウは言葉を止めた。
──仲間、か。
かつて信じていたパーティ。その裏切りと追放。
もう、誰かを信じるのはやめようと思っていた。
けれど。
「私……私も、一緒に行っていいかな?」
リアの目が真っ直ぐに向けられる。
不安を乗り越えようとする、意志のある目。
「当たり前だろ。お前はもう俺の──」
言いかけて、ユウは少し照れたように言葉を濁す。
「──パートナーだ」
「うん!」
リアは嬉しそうに微笑んだ。
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【黄昏時/王都・郊外】
その夕暮れ、王都の門が見え始めた頃──
前方の街道に、不自然に倒れた荷車と、煙の立ち上る残骸が見えた。
「待て……何かあるぞ」
ユウはリアに合図し、草むらに身を隠す。
見張る先には、盗賊風の男たちが数名、破壊された馬車の周囲をうろついていた。
「護送馬車か……まさか、“王都輸送隊”が襲われた……?」
「どうする? 避けて通る?」
「……ダメだ。あれ、まだ中に人が残ってる」
ユウの目が鋭くなる。
「魔力反応がひとつ、弱いけど……生きてる」
──バグ職ノービスの裏スキル《感知拡張》が、微弱な命の気配を捉えていた。
「助けるぞ、リア。今回も一緒に頼む」
「うん……!」
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【戦闘開始】
ユウは剣を逆手に構え、草むらから飛び出す。
「おい、誰だあんた!」
「通りすがりのノービスだ。──だが、舐めるなよ!」
一人が斧を振りかざしてくる。ユウは回避スキル《二段ステップ》で側面へ移動し、膝裏に蹴りを入れる。
「ぐっ……あああっ!」
リアがすかさず《光槍》を放ち、敵の武器腕を狙い撃つ。
極小だが貫通効果のある神聖魔法。敵の手から武器が滑り落ちる。
次々に現れる盗賊たち。だが──
「全員、“初手ブレスレット所持”か……王都の騎士隊襲撃、確定だな」
ユウは低く呟きながら、地面に転がっていた兵士の装備を確認する。
「くそ……こうなりゃ全員やって黙らせるしかねぇ!」
盗賊たちの一人が指笛を鳴らす。
茂みから現れたのは──
《Bランク魔獣:スケルトンナイト》
「くっ……召喚まで仕込んでるとは……!」
だがユウは、スキルウィンドウを開き、小さく笑う。
「来いよ──俺の《バグ構築》で拾った、最終兵器の出番だ」
【王都・郊外/街道・盗賊の奇襲現場】
草の上に転がる荷馬車。その脇で、5体の盗賊と1体のスケルトンナイトが構える。
敵数は計6体。しかもスケルトンナイトはBランクの上位魔獣──防御力が極端に高く、並の武器では刃が通らない。
それでもユウは、一歩も引かなかった。
「リア。回復と支援を頼む。俺が前に出る」
「うん、わかった……!」
ユウは腰のポーチから、銀色の石を取り出す。それは先日の廃村で手に入れた《レアドロップ:写影石》。通常なら“冒険の記録”や“観賞用映像”に使われるだけのアイテム。
だが──
《裏スキル:バグ構築》が、この石の真価を引き出す。
「《写影石》──記録データ《斧術Lv5/跳躍斬り》、模倣起動」
石が青白く発光し、ユウの右腕に斧の形状をした幻影が宿る。
「はっ!」
跳躍。風を切る音。地面を蹴り、ユウは空中から敵の前衛へ飛び込む。
模倣スキル《跳躍斬り》の動作は完璧。敵の肩口へ幻影の斧がめり込み、強烈な衝撃が全身を貫く。
「ぐあああっ!?」
防御も間に合わず、盗賊の一人が吹き飛び、地面に転がった。
だが、すぐ背後に別の男が迫る。
「チッ……数が多いな!」
ユウは即座にバックステップ。
リアが咄嗟に《光盾》を展開し、斬撃を受け止めた。
「ユウ、下がって!」
「まだだ、いける!」
ユウのスキルウィンドウが再び開かれる。
次に模倣したのは、《ダガー術:急所刺し》。
幻影の短剣が、敵の懐に滑り込み、咽喉元へ──
「が、ぁ……っ」
一撃。神経へのクリティカル。男が目を見開いたまま崩れ落ちる。
その瞬間、スケルトンナイトが咆哮を上げて突進してきた。
ごうっ──!
盾を構えるユウだが、物理防御スキルの適性は元々ゼロ。
直撃すれば即死もありうる。
「──来るなよ!」
リアが詠唱を短縮し、神聖魔法《浄光の鎖》を発動。
金色の鎖がスケルトンの両脚を絡めとり、転倒寸前まで拘束する。
「今だ!」
ユウは地面を蹴り、骨の胸部へ跳躍──
《バグ構築:複合模倣/火炎矢+震動斬》発動!
剣の幻影に炎を纏わせ、さらに着弾と同時に振動を発生させる。
スケルトンナイトの強固な骨格に亀裂が走り、魔力核が露出。
「……壊れろっ!」
ユウが核へダガーを突き立てた瞬間──
骨の巨体が轟音と共に爆散した。
炎と光の残滓の中で、敵の残党たちは戦意を喪失する。
「く、くそっ……こいつ、ノービスのくせに……!」
「ノービスじゃねえ。“バグ職”だ」
ユウの声が、静かに響いた。
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【戦闘終了/荷馬車の救出】
残党が逃げ去り、ようやく戦場に静寂が戻る。
「ユウ……無事?」
「問題ない。リアのおかげで助かった」
二人は馬車へと近づき、中を確認する。
「っ……この子!」
中にいたのは、10歳前後の少女。魔力封鎖の鎖で両手を拘束されていた。
意識はあるが、衰弱している。
ユウは少女の額に手をかざし、ステータスを確認する。
「……属性:封神。血筋持ちか」
「封神……?」
「ああ、神職と同様、“神の加護”を宿す一族の末裔。ギルドや貴族にとっては、売買の対象にすらなる子供だ」
リアが唇を噛む。
「そんなの、許せない……!」
「この子は、俺たちが保護する。異論はないな?」
「もちろん」
ユウは少女を抱き上げる。冷たい指先が、彼の胸元にすがりつく。
「……た、すけて……」
「大丈夫だ。もう、お前を誰にも傷つけさせない」
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【夜/キャンプ地】
焚き火を囲む三人。少女はぐっすりと眠っていた。
「この子も……あなたみたいに、裏切られて、捨てられてきたんだね」
「だからこそ、救いたい。少なくとも、俺は“放っておけないバカ”なんだよ」
リアは小さく笑う。
「……うん。バカだね。でも、私はそのバカが好き」
その言葉に、ユウは気づかないふりをして、火に薪をくべるのだった。
次回予告
第5話:「王都ギルド、裏と表。追放されたノービスが再び足を踏み入れる時」
かつて追放された冒険者ギルドの扉を、ユウは再び叩く。
だがその背後で動き出す、上位ギルドと貴族の陰謀。
リアと謎の少女を守るため、ユウは“ノービスの仮面”を脱ぎ捨てる──
ギルド内格差、査定操作、圧力、そして因縁の元仲間たちとの再会。
運命が交差する王都編、開幕!