第3話 仲間なんて──もういらないと思っていた
前回までのあらすじ
格上ボスを討伐し、自信を取り戻しつつあったユウ。しかし王都では、かつての仲間たちがユウを“失敗作”として切り捨てた報告書をギルドに提出していた。
一方、ダンジョンから戻ったユウの前に、ある少女が現れる──彼女は「神職」に覚醒していたが、その力を制御できず、王都で居場所を失っていた。
これは、孤独な最弱職と、追放された少女が出会い、世界をひっくり返す物語の始まり。
石と鉱石の砕けた匂いが、未だ鼻を突いていた。
ガルバイト討伐から数時間──ユウはボス部屋に座り込み、ドロップ品を確認していた。
「……《崩壊の結晶》、ちゃんとドロップしてるな」
バグスキル《ドロップ改変》により、“超レア”を確定入手したことに満足しつつも、どこか胸が空いていた。
(結局、ひとりでやった。ひとりで勝った。──それだけだ)
レベル12になったところで、喜びを分かち合う仲間など、もういない。
あいつら──元パーティの仲間たち──にとって、俺は“育成失敗”のハズレ職だった。
(……思い出すな、バカ)
苦く笑って立ち上がり、ユウはダンジョンを後にした。
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【王都・ギルド本部──】
「──この通り、ノービスのユウは成長性が見られず、戦闘に支障をきたすようになったため除名しました」
白銀の槍を携えた青年が、冷淡に告げる。
ユウの元仲間、上級職《槍聖》のリーダー・クレインだ。
「戦闘時には立ち位置も悪く、与ダメージは全体の3%以下。これで残す理由があると思いますか?」
ギルド長は資料に目を落とすと、無言で頷いた。
「……了解した。これにてユウ・アークライトの除名処理は正式に記録された」
誰も、それが“早計”だとは思わなかった。
だがこの日から──王都に、奇妙な噂が流れ始める。
> 「最弱職のノービスが、中級ダンジョンのボスをソロで討伐したらしい」
「バグのようなスキルで、レアドロップを引き当てたって……」
真相はまだ、誰にも知られていない。
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【平原・廃村の近く】
ガチャリ、と音を立てて、ユウが拾ったポーション瓶をしまう。
体力も装備も限界に近く、当面の生活資金もない。
「次は……素材売って、なんとか装備整えるか」
と、その時だった。
──光が、空から降り注いだ。
「なっ……!?」
そこにいたのは、一人の少女だった。
ボロボロのローブ。血のにじんだ手。震える指先。
そして──背中に宿った、翼のような光。
(……これは)
「……神職、か?」
ユウは思わず口にした。
神職──1万人に1人しか出現しない、超希少職。
しかし力の暴走性も強く、扱いを誤れば周囲ごと“神罰”で吹き飛ばす。
少女の目が、怯えながらこちらを見た。
「……お願い。たすけて……っ、私、制御が……」
ユウは一瞬、迷った。
だが──その姿は、どこか自分と重なって見えた。
“力を持っているのに、理解されない存在”。
「こっちだ。急げ!」
ユウは少女の手を取って、廃村の避難所へと駆け込んだ。
その直後──少女の背後で、天からの裁きのような光が地面を焦がした。
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【避難所・廃屋の中】
「……名前は?」
「……リア。リア・エルミナ」
小さく答える少女。金色の瞳が、涙で潤んでいた。
「神職ってだけで、王都じゃ……人じゃないみたいに扱われたの。強すぎるから、危険だって」
「……ああ、分かる。似たようなもんさ」
ユウは少しだけ笑って言った。
“最弱すぎて役立たず”とバカにされ、追放された自分。
“強すぎて制御不能”と恐れられ、孤立した彼女。
二人とも、“仲間を得られない者”だった。
「でもな。力の使い方次第で、世界は変えられる」
「……!」
「もし、ひとりじゃ怖いなら。おれと組め。あんたを制御する方法、見つけてやるよ」
少女の目が、わずかに見開かれた。
それは、初めて「自分を信じる」と言ってくれた誰かの言葉だった。
「仲間なんて──もういらないと思っていた」
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【廃村外れ・黄昏の平原】
日が傾き、血のような朱が大地を染めていた。
風が止む。静寂の中に、不穏な気配が走る。
──ザッ。
草を踏みしめる足音。それが二つ、三つ。
「……追手、か」
ユウは剣の柄に手をかけながら、少女──リアを背後に庇うように立つ。
前方に現れたのは、黒ずくめの軽装鎧をまとった男女四人。
いずれも目元を隠し、動きに一分の無駄もない。
「対象を確認。神職・リア、及び接触者の排除を開始する」
「ッ……!」
冷徹な声と共に、アサシン型の男が前傾姿勢で疾走した。
──速い!
ユウの反応が一瞬遅れる。その刹那、空気が裂けた。
銀光の短剣が横一線に薙がれ──
「リア、伏せろッ!」
ユウは声を張り上げ、リアに覆いかぶさるように転がった。
数本の短剣が背後の石壁に突き刺さり、硬い音を立てて跳ね返る。
「無言で刺しに来るとか……ああ、わかりやすくて助かるぜ!」
剣を抜く。ユウの《初期装備のブロンズソード》が唸りを上げる。
「だが──ノービスを舐めるなよッ!」
足元を滑らせるようにして前へ。低く抉るような踏み込み。
攻撃スキル《強撃》──必中補正持ちの近接初期技。
対するアサシンは片足で跳躍し、空中で旋回。背後を取って──
スキル《影舞・一閃》──背面急所特効スキル!
──カンッ!
その瞬間、ユウの背に展開された半透明の防壁が光を弾く。
「……《予知回避》。おれには見えてんだよ、軌道がな」
レアドロップスキル、《バグ知識》により取得した隠しスキル。
使用条件:HP30%以下・敵にロックオンされている状態。
1バトル中に3回まで、不可避の攻撃を自動で“知覚回避”する。
──だが代償も重い。
スキル使用時、全ステータスが5秒間30%低下する“後隙”が発生。
アサシンが、それを見逃すはずがなかった。
「回避後、隙あり──!」
二撃目。喉元を狙う斜めの斬撃。
──来る!
「リア、援護ッ!」
ユウの叫びと共に、光が瞬く。
リアの背後で浮かぶ光輪から、まばゆい神聖光が放たれる。
神職スキル《浄化結界・第一式》。
空間そのものを聖域化し、敵の動きを鈍らせる神聖属性のフィールド魔法。
──ズシッ!
アサシンの動きが鈍る。速度が0.8倍に減衰。
その瞬間を逃さず、ユウは全体重を乗せて剣を振り下ろす。
「オラァッ!」
ブロンズソードがアサシンの肩口に食い込み、火花を散らす。
「ッ……ぬかった!」
吹き飛ばされるアサシン。そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。
一人撃破。
だが──
「……初撃を外すか。見込み違いだったな」
残る三人が、静かに前へ歩み出る。
一人は長弓を手にした狙撃手。
一人は双剣を構えた女。
そして──最後の一人は、ローブ姿の魔術師。
「囲まれた……!」
「囲んだ、の間違いだよ」
魔術師が指を鳴らす。空間に紫色の魔法陣が複数展開された。
「【雷禍連鎖】──連続落雷魔法、詠唱完了」
リアの顔が恐怖に染まる。
「ダメ、それ……制御できない……!」
「逃げろ、リア!」
ユウは咄嗟にリアを抱きかかえ、結界の外に跳び出す。
──次の瞬間。
空から数本の雷光が落ち、地を焼き尽くした。
音が消える。視界が白く染まる。
──だが。
「……無事、か……?」
ユウは地面に倒れたリアの上に覆いかぶさり、自らの背中に雷傷を負いながら耐えていた。
HPは残りわずか。
「限界……でも……まだ──!」
叫ぶ。
「リア! あんたの力、俺を媒介にして放て!」
「えっ……!? そんなの、できるわけ──」
「できる! スキル構成的に、俺が“詠唱共鳴”を代用できる!」
バグ知識スキル──《スキル構築の全権操作》。
ユウの持つ隠し特性により、他者の一部スキルを条件付きで共有可能。
「やるぞ、リア! “あの技”を──!」
「うん!」
二人が重ねて詠唱する。魔法と剣の共鳴。神聖と物理の融合。
「《神剣・終撃閃》──!!」
金色の光が剣に集束し、巨大な刃へと変貌する。
周囲の魔術師たちが息を呑む。
「それは──神職の禁術、融合攻撃だと……!?」
ユウが構えた刃を、全身で振り抜く。
──光が、すべてを飲み込んだ。
敵三人。すべて撃破。
爆風の中、ユウとリアは膝をつき、互いに支え合いながら立ち上がっていた。
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【廃村・夜】
夜風が吹く中、ユウは焚き火にあたりながら言った。
「……結構、いいコンビかもな」
「……うん。ありがとう、助けてくれて」
リアは小さく笑った。
その微笑みは、どこか救われたようで──
そして何より、信じてくれた“仲間”に向けるものだった。
次回予告(第4話)
「神職少女と、はぐれノービス。最強ペア、始動」
> 王都では、ユウの活躍に気づき始めた者が現れ始める。
そして、次なる仲間候補──“不死鳥の再生者”と呼ばれる少女との出会いが待っていた。
一方、元仲間たちも“見捨てたはずのノービス”の名を再び耳にする……。