第1話 追放されたノービス
たくさんの作品の中からこの作品を選んでいただきありがとうございます!!
初作品なので至らない点もあるかと思いますが、ご指摘含めてコメントいただけると嬉しいです!!
毎日数話ずつ更新していこうと思うので、少しでも楽しんでいただけたらブックマークよろしくお願いします!!
※番外編にキャラの立ち絵入れました。
パーティメンバーの目線が、一斉に俺に突き刺さった。
まるで、ゴミでも見るような視線だった。
「悪いなユウ。お前の弱さにはもう我慢の限界だ。パーティから抜けてもらう」
その言葉を発したのはリーダーのリク。
俺の幼馴染にして、王都ギルド推薦の前衛職【剛剣士】。
鋼のように無表情なその顔には、一切の情がなかった。
「……それは冗談とかじゃなくて?」
わざと笑おうとしたが、声が震えた。
俺の問いに、リクは静かに首を横に振った。
「冗談だったら、もっとマシなやつを言うさ。お前には、もう期待してない」
ズドン、と心に何かが落ちた気がした。
パーティメンバーは五人。
俺の他には、前衛のリク、魔法職のルナ、回復職のアリシア、そして偵察兼トラップ解除のフィン。
その中で俺だけが、最下級職ノービス――つまり、未熟者として生まれたままの状態で戦っていた。
ノービスは「何者にもなれない者の証」とも言われ、王都では侮蔑の対象だ。
本来ならすぐにクラスアップの儀式を受け、戦士や魔術師に進化するはずだった。
だが、俺にはその資格がなかった。クラスアップの条件を満たさない、いわゆる“育成失敗”。
──少なくとも、世界はそう定義していた。
「俺……なりに、みんなの役に立ってたつもりだったんだけどな」
気づかれないように、拳を握る。
ドロップアイテムの鑑定、弱点情報の整理、戦術の提案……。
前衛こそ務まらなかったが、パーティの生存率を上げる努力はしてきた。
「感謝はしてるよ。でも、それだけじゃ魔王討伐なんて夢のまた夢だ」
ルナが静かに言った。蒼い長髪をかき上げながら、魔導書を抱えている。
「今のお前は、後方で指示するだけの素人。その分、私たちが余計に動かなきゃいけない。いつか事故が起きる」
それが本音か。
──まるで、荷物みたいな言い方だな。
だが、事実だった。ノービスの俺に攻撃スキルはほとんどなく、装備も最低限しか扱えない。
使えるスキルといえば、最初期の【観察眼】と【応急手当】くらい。しかも発動に癖がある。
「ユウ……ごめんね。私、止められなかった」
アリシアが俯いていた。
俺と同じ年の彼女は、かつて俺に「一緒に最前線に行こう」って言ってくれた相手だった。
でも、今は何も言えずにいる。立場が違いすぎるからだ。
「……ああ、いいよ。抜ける。元々、俺みたいな半端者がいる方がおかしかったんだろ」
最後に一度だけ、全員の顔を見た。
誰もが納得したような顔をしている。もう戻る場所はない。
「そっか……じゃあ、元気で」
アリシアが絞り出すように声をかけてくれた。
俺はそれに何も返さず、ギルドのドアを開け、静かに出ていった。
ギルドを出た俺は、王都の裏通りを通り抜け、寂れた東門を越えた。
誰も止めやしない。
当然だ。ノービスの価値など、この世界では“存在しない”と同義だから。
──でも、本当にそうか?
誰も試していないだけじゃないのか?
俺は、まだ“ノービスであり続けた人間”を見たことがない。
「……やってやるよ。いいさ、見返してやろうじゃねえか」
悔しさと、見返してやりたいという感情、それだけを原動力にして歩き続けた。
目指すは、かつて「低ランクすぎて誰も潜らない」と言われていた【忘れられた坑道】。
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ダンジョンの入り口は、草むらに埋もれるようにぽっかりと開いていた。
古びた木の標識には、手書きで「レベル5以下推奨」とだけ書かれている。
中に入ると、じめじめとした湿気とカビの匂いが漂ってきた。
奥からかすかに、スライムのような柔らかい音も聞こえる。
何の変哲もない初級ダンジョン。
……のはずだった。
「【観察眼】──起動」
目の前に現れた、レベル3のスライム。
特に珍しくもない敵だが、観察眼で細部を確認する習慣は捨てていない。
だが、そのとき――
【レアドロップ判定発生】 【ユニークアイテム:???の欠片 入手判定:成功】
「……は?」
レアドロップ?
スライムから? あり得るか?
【アイテム:封印された職業スロット拡張石を入手しました】
「うそ……だろ……?」
見たことも聞いたこともない名前のアイテム。
しかも「バグ」って、なんだよ。
とっさに解析をかける。
【封印された職業スロット拡張石】
本来存在しないノービス職の隠しスキルラインを解放する
使用者は「職業スロット枠+1」、さらに隠蔽されていた第二適性職が強制出現
※このアイテムは通常プレイでは出現しません
「……マジで、バグだこれ」
しかも“ノービス”だけに効果があると明言されていた。
ということは、世界中でこれを使えるのは……今のところ俺しかいない。
つまり。
「ノービスって、最弱どころか……バグを扱える唯一の職ってことか……?」
悪寒が走った。
同時に、ゾクゾクとした“優越感”がこみ上げる。
「面白くなってきたじゃねぇか……!」
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一方そのころ――王都・ギルド本部。
「……リク、あれでよかったの?」
アリシアがぽつりと呟いた。
仲間たちはもう、次のダンジョンの話を始めている。
「……あいつは足手まといだ。仕方なかった」
「でも……ユウ、たしかに“戦えなかった”けど、他の誰よりも仲間のこと考えてたよ」
「情に流されるな。お前は聖盾姫として、この国のために戦うんだろ?」
アリシアは俯く。
誰にも見えないように、強く握りしめた手が震えていた。
(ユウ……あなた、泣いてなかった。怒ってもなかった。だけど、あの目……)
“なにかを確信したような目”。
それだけが頭から離れなかった。