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Memory Reload  作者: 削氷菓
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第九話

【リア・クレスト 】

 俺は、眠くならなかった。


 ギルドを出たあと、夜の町を歩き続けたが、疲れも感じない。

 食べ物の匂いがする通りを通っても、腹が減ることもなかった。


(……そういえば、俺、食事って必要なのか?)


 考えてみれば、この世界に来てから一度も何かを食べていない。

 けれど、空腹感はまったくなかった。


 眠らなくてもいい。食べなくてもいい。


 ……俺は、本当に"生きている"のか?


(考えても仕方ないか)


 そんなことを考えながら、夜の街を彷徨い、俺は戦闘用のアイテムを買い集めた。


(俺は死ねない。なら、死なない立ち回りをしないと)





【 冒険者ギルド】

 ギルドのテーブルには、俺と――昨日ログアウトした仲間たち(のAPC)が座っていた。


 APCになっても、彼らは"本人"とほとんど変わらない。

 だが、話してみると違和感がある。


 表情の動きが少しぎこちない。

 会話のテンポが、ほんの少しだけ不自然。


(……やっぱり、APCは本人じゃない)


 違和感を抱きながらも、俺は彼らと過ごした。


 そして――


 パシュンッ


 テーブルの向かいに座っていたレオンの体が一瞬光り、数秒後、"本物"のレオンになった。


「……よし、今日もやるか」


 次に、エリスとセリアもログインし、APCから本人へと切り替わる。


「ストレイ、おはよー……って、もうログインしてたんだ?」


 エリスが目を丸くする。


「え、もう準備してたの?」


「さすがに早すぎじゃない?」


 セリアも驚くが、レオンが首をかしげる。


「いや、待てよ。……もしかして、お前、昨日の夜からずっとログインしてたのか?」


(……しまった)


 普通のプレイヤーなら、一度ログアウトして休むはずだ。

 でも、俺は……


(俺には、ログアウトするという選択肢がない)


 だが、それを言うわけにはいかない。


「ちょっと早く準備しただけだ」


 適当に流すと、エリスとセリアは「なるほどね!」と納得する。

 だが、レオンはじっと俺を見つめた。


(……やっぱり、鋭いな)


 適当に笑ってごまかすしかなかった。


「さて、今日はどのクエストにする?」


 セリアが掲示板を眺めながら言う。


「そろそろ、もうちょっと難しいクエストに挑戦してもいいんじゃない?」


 ――予想通りの展開だった。


(きたな……)


 彼女が指差したのは――


【討伐依頼】"ポルクスの群れ撃退"


「おっ、面白そうじゃん!」


「ポルクスって、フェロピテクスの上位互換みたいな敵だろ?」


 レオンも賛同する。


「確かに、前に戦ったフェロピテクスよりちょっと厄介そうだね」


 エリスも頷いた。


(……まずい)


 ポルクスは個体ごとの戦闘力が高く、さらに"群れ"で行動する。

 戦闘が長引けば、それだけ死ぬリスクが上がる。


(でも、"無理だ"とは言えない)


 慎重すぎる態度を取れば、仲間に不信感を抱かせる。


「……分かった。でも、しっかり準備はしよう」


 俺はそう答え、持っていたアイテムの確認を始めた。


「全部で……六体か」


「うわっ、でかい……!」


 セリアが思わず声を上げる。


 ポルクスは、フェロピテクスよりもはるかに大柄だった。

 ずんぐりとした巨体だが、見た目に反して筋肉質で、分厚い皮膚がまるで鎧のように硬そうだ。

 短いが太い鼻、飛び出した牙、ゴツゴツとした手足。

 まるで、獰猛な猪と人間を掛け合わせたような姿をしている。


「こんなのが群れで襲ってきたら厄介すぎる……」


「ポルクスは力が強い上に、皮膚も硬い。正面からぶつかるとこっちが吹っ飛ばされるぞ!」


 レオンが警戒する。


 ポルクスの一体が吠え、仲間に合図を送る。

 すると、残りのポルクスたちも一斉に襲いかかってきた。


「《ファイアボルト》!」


 エリスの魔法が直撃するが、ポルクスは一瞬ひるんだだけで倒れない。


「タフすぎる……!」


 セリアが短剣で斬るが、傷は浅い。


「ポルクスは皮膚が分厚くて、衝撃を吸収する。特に筋肉のある部位は、下手に攻撃すると逆に押し返されるぞ!」


 レオンが注意を促す。


(……くそ、長期戦になるぞ)


 長引けば、それだけ死ぬリスクが上がる。


(なら、こっちの手で早めに片付ける!)


 俺はポーチから爆裂ポーションを取り出し、ポルクスたちの間に投げ込む。


 ボンッ!!


 衝撃と爆風で、複数のポルクスがよろめいた。


「この隙に叩くぞ!」


 レオンが突撃し、セリアとエリスも続く。


 だが、一体のポルクスがすぐに立ち上がり、俺たちの側面に回り込もうとする。


(……こいつは、まだ動けるか)


 俺はポーチから小さな瓶を取り出し、ポルクスの足元に投げた。


「《スリップポーション》」


 瓶が割れ、中の液体が地面に広がる。

 ポルクスが踏み込んだ瞬間――


「グゥオッ!?」


 足を取られ、大きくバランスを崩した。


「今だ!」


 レオンが剣を振り下ろし、ポルクスを斬り伏せる。


 すべてのポルクスが倒れ、森に静寂が戻った。



「……終わった」


 俺は息を整えながら、仲間たちの様子を確認する。


「爆裂ポーションって、こんなに強いんだな……」


「ストレイのアイテムの使い方がなかったら、もっと苦戦してたかも……」


 エリスが息をつきながら言う。


「それに、さっきのスリップポーション……?」


「相手の足元を滑らせる効果がある。重心が崩れれば、大柄な敵ほどダメージを受けやすくなる」


「すごい……まるで、ストレイって戦闘データでも見えてるみたいな戦い方するよね」


 セリアが感心したように言う。


「……ま、たまたまだ」


 適当に流す。


 けれど、レオンはじっと俺を見つめていた。


「お前、本当に初心者か?」


「……何が言いたい?」


「いや……なんでもない」


 レオンは軽く肩をすくめた。


 ……どうやら、俺の戦い方に疑問を持ち始めているようだった。


「さて、報告に戻るか」


 俺たちはギルドへ戻り、討伐の成果を報告した。


【クエスト完了】ポルクスの群れ撃退

 ▶ 報酬:800ゴールド


「800か……まあ、悪くはないな」


「でも、もうちょっと楽に倒せる方法があればいいんだけどね」


「それを考えるのも、冒険者の仕事さ」


 レオンが笑いながら言う。


「次はどこに行く?」


 そう問いかけながら、俺たちは新しい依頼を探し始めた。



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