第七話
【リア・クレスト / 冒険者ギルド】
「さて、次はどうする?」
討伐戦のあと、俺たちはギルドへ戻ってきた。
報告を終え、各自の戦利品を確認する。
「ストレイがいると、やっぱり戦いが楽になるな!」
レオンが感心したように言う。
「でも、それに頼りっぱなしはダメだよね……」
エリスが少し悩むように言う。
「そ、そうだね! でも、ストレイがいるなら、少し難しい依頼もいけるんじゃない?」
セリアが掲示板を見ながら言う。
俺も視線を向けると、彼女が指差したのは――
【探索依頼】"古井戸の調査"
難易度は初心者向けだが、敵の出現率が高いとされるクエスト。
「古井戸の調査……? なんか、地味だな」
「でも、今の私たちならいけそうじゃない?」
「……まあ、悪くないな」
俺は納得し、"初心者向け"の中では難易度が高めの依頼を選ぶことにした。
町から少し離れた丘の上。
そこには、長年放置された古井戸があった。
「これが……目的の井戸?」
井戸の淵は崩れかけていて、下を覗くと闇が広がっている。
「ここを調査して、異常がないか確かめるのが依頼か……」
「井戸の中って、どうやって降りるの?」
「梯子があるみたいだな」
レオンが井戸の内側にある梯子を示す。
「じゃあ、慎重に降りよう」
俺たちは順番に井戸の中へ降りていった。
「うわ、思ったより広い……」
井戸の底に降りると、そこは小さな地下空間になっていた。
石造りの壁に、古びた木箱が並ぶ。
「これ、昔の貯蔵庫だったのかな?」
エリスが周囲を見回す。
だが――
「……何かいる」
俺はすぐに気づいた。
暗闇の奥から、小さな音が聞こえてくる。
次の瞬間――
「ギャギャッ!」
影が動く。
二足歩行の、小柄な生き物――
その肌はざらついた灰色で、まばらに毛が生えている。
手足は長く、獣じみた動きで地面を蹴りながら姿を現した。
「フェロピテクスか……!」
レオンが警戒するように言う。
「フェロピテクス?」
「いわゆる"ゴブリン"みたいなモンスターだけど、こいつらはもっと獣に近い」
「……獣?」
「猿みたいに身軽で、二足歩行もするが、場合によっては四足で走ることもある。言葉は話さないが、鳴き声や身振りで仲間に合図を送る。つまり――群れで行動するってことだ」
「なるほど……」
俺はフェロピテクスの動きを観察する。
2体がこちらを睨みながら、地を蹴ってジリジリと距離を詰めてくる。
「前衛、構えろ!」
レオンとセリアがすぐに前に出る。
「いくぞ!」
レオンの剣が振り下ろされるが、フェロピテクスは鋭い跳躍で回避した。
「ちょっ、動きが速い!」
「落ち着いて! 回避の動きがパターン化してる!」
俺はすぐに分析する。
フェロピテクスは"横に跳ぶ"動きを繰り返している。
(なら――)
俺はポーチから小石を取り出し、フェロピテクスの跳ぶ方向へ投げた。
カツン!
「っ!? ギャッ!」
フェロピテクスがバランスを崩した。
「今だ!」
レオンの剣がフェロピテクスを捉え、光の粒子となって消滅する。
「……倒した?」
セリアが息を整える。
「ふぅ……な、なんとか勝てたな」
「でも、ギリギリだったね……」
エリスが苦笑する。
確かに、危ない場面はあった。
(やっぱり、この世界の戦闘は"リアル"だ)
単にステータスを上げるだけじゃダメだ。
状況を見極め、考えて動かなければならない。
「……よし、調査も終わったし、報告しよう」
俺たちは井戸を出て、ギルドへ戻った。
【クエスト完了】
「お疲れさまでした! 井戸の調査は完了ですね!」
受付嬢が笑顔で報酬を渡してくれる。
【クエスト完了】古井戸の調査
▶ 報酬:300ゴールド
「……なんとか、初心者向けのクエストはこなせるようになったな」
レオンが安堵の表情を浮かべる。
「でも、油断するとやられるね……」
「うん……次は、もう少し戦い方を考えないと」
エリスとセリアも慎重になっていた。
(やっぱり、俺たちはまだ"初心者"だ)
でも、それでいい。
少しずつ、この世界を知っていく。
「次は、どこに行く?」
そう問いかけながら、俺たちは新しい依頼を探し始めた。