第四話
草原の風が静かに流れる。
目の前には、一匹のルポルカニスがいた。
――前回。
俺はこいつに襲われ、戦うことなく"誰かに助けられた"。
だが今度は違う。
(今度こそ、俺がやる)
剣を構える。
ルポルカニスは低くうなり、鋭い赤い瞳で俺を睨んでいる。
わずかに足を引く。
(……来る)
頭が、勝手に理解する。
今、このタイミングで跳びかかると。
そして、ルポルカニスが地を蹴った。
一直線に飛びかかる影。
だが、俺の動きは既に決まっていた。
回避。
半歩ずれるだけで、ルポルカニスの爪は俺の体をかすりもしなかった。
そのまま回り込むように剣を振るう。
刃が黒い体毛を裂く――はずだった。
だが、一瞬の躊躇が生まれる。
(……俺は"倒せる"のか?)
剣が止まる。
その刹那、ルポルカニスが地を蹴り、俺に向かって牙を剥いた。
(まずい――!)
とっさに腕を上げ、剣を盾代わりにする。
ルポルカニスの牙が刃に当たり、火花が散る。
だが、衝撃は重い。
俺は数歩後ろに押し戻され、姿勢を立て直す。
ルポルカニスはすぐに間合いを詰める。
(次は……避けられない)
今度は、本能がそう告げた。
だったら――!
俺は力強く踏み込み、ルポルカニスが飛びかかるのと同時に、剣を振るった。
ザシュッ!!
鋭い感触。
刃が確かに相手の体を裂いた。
ルポルカニスが短く鳴き声をあげ、光の粒子となって消滅する。
「……やった、のか」
剣を下ろし、息を整える。
初めて、自分の力で戦った。
初めて、自分の意思で"倒す"ことを選んだ。
胸の奥に、得体の知れない感覚が渦巻く。
(……俺は、何者なんだ?)
戦い方を知っている。
敵の動きを読める。
そして、"本当なら戦えないはずなのに、戦えた"。
剣を見下ろす。
俺がこの世界で"何なのか"を知るために、進むしかない。
そう思いながら、俺は再び歩き出した。