第二話
リア・クレスト。
石造りの門をくぐると、活気のある街並みが広がっていた。
商人が品物を並べ、店の主人が客を呼び込み、酒場の前では冒険者たちが談笑している。
どこかで見たことがある気がするが、それがいつの記憶なのか分からない。
俺を助けた男――名乗ることすらしなかった彼とは、門の前で別れた。
「ここから先は自分でなんとかしろ」と言われ、半ば放り出される形になったのだ。
(とりあえず、情報を集めないと)
町を歩きながら、人々の会話に耳を傾ける。
「前線の探索部隊がまた新しい遺跡を見つけたらしい」
「おいおい、またか? まだ未知のエリアがそんなにあるのかよ」
「当たり前だろ。この世界は広がり続けてるんだからな」
(……この世界は"広がり続けている"?)
その言葉が妙に引っかかる。
だが、今はそれよりも優先すべきことがある。
(この世界がゲームなら、必ず"ログアウト"の方法があるはずだ)
そう考え、慎重に手を開き、目の前にメニューウィンドウを呼び出す。
薄い光の板が空間に浮かび上がる。
【メニュー】
▶ ステータス
▶ 装備
▶ スキル
▶ クエスト管理
(……ない?)
ログアウトの項目が、どこにもない。
何度もメニューを開き直す。
探し方が悪いのかもしれないと思い、各項目を慎重に確認する。
だが、何度試しても、ログアウトの機能は存在しなかった。
「……嘘だろ」
動揺を押し殺しながら、再びメニューを閉じる。
(どういうことだ?)
プレイヤーなら、ゲームの世界から抜け出せるはずだ。
だが、俺にはそれができない。
(俺は……本当にプレイヤーなのか?)
脳裏に、あの男の言葉が蘇る。
『お前、NPCか? それともAPCか?』
(APC……?)
APC。
それは、プレイヤーがログアウトしている間に代わりに動く、自動制御のキャラクター。
(……なら、俺はAPCじゃない)
俺には明確な意識がある。
この世界に"閉じ込められている"感覚はあるが、俺が誰かの代わりに動いているわけじゃない。
それに、もし俺がAPCなら、"本来のプレイヤー"がログアウトした証拠が必要だ。
(……だが、俺の"本体"はどこにもいない)
つまり――
(俺はAPCですらない。なら、俺は何だ?)
考えがまとまらないまま、無意識に拳を握る。
(この世界がどうなっているのか、もっと知らなければならない)
ログアウトができない以上、"何が起きているのか"を知ることが最優先だ。
そのためには、この世界のルールを理解する必要がある。
(……ギルドに行ってみるか)
そこに行けば、このゲームがどういう仕組みなのか、少しは分かるかもしれない。
俺はギルドがあるらしい方向へ、足を向けた。