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Memory Reload  作者: 削氷菓
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第十一話

 ここ数日、俺たちはギルドの依頼をいくつかこなしていた。


 単純な討伐依頼や物資の護衛など、そこまで難易度の高いものではない。


 だが、こうして経験を積みながら、少しずつ戦闘にも慣れてきた。


 そして今回、俺たちが受けたのは 「霧の森の探索依頼」 だった。


 町を出て北東へ進むと、徐々に視界が白く霞んでくる。


「うわ、本当に霧が濃い……」


 セリアが目を細める。


「こういう環境は、モンスターにとっては都合がいいな」


「油断すると囲まれそうだね」


 エリスが警戒する。


 霧が濃くなるにつれ、道がどんどん分かりにくくなる。


「とりあえず、奥まで進んでみよう」


 レオンが前を歩き、俺たちは慎重に森の中へ進んだ。




「何かいるぞ!」


 レオンが剣を構えた瞬間、霧の中から影が躍り出た。


 ――ギラリ。


 青白く光る瞳。

 灰色の毛並み。

 細身ながらも引き締まった四肢――シルヴァカニス。


「こいつ、霧の森に生息する単独行動型のカニス属だな!」


 レオンが低く呟く。


「単独行動? 群れは作らないの?」


「そうだ。霧に紛れて、奇襲と逃げを繰り返すタイプだ。タフじゃないが、厄介なやつだぞ!」


 その瞬間、シルヴァカニスの姿がかき消えた。


「消えた!?」


「……いや、霧に紛れただけだ!」


 ――ガッ!


 直後、鋭い爪が俺の視界を裂いた。


「チッ……!」


 咄嗟に後方へ跳ぶ。


 次の瞬間、シルヴァカニスはまるで影から滲み出るように姿を現し、レオンへと襲いかかった。


「レオン!」


 セリアが素早く双剣を振るい、間一髪でシルヴァカニスの軌道を逸らした。


「っぶねぇ……! 素早すぎる!」


 レオンが構え直す。


「《ファイアボルト》!」


 エリスの詠唱が完了し、火球が霧を裂いて飛ぶ。


 シルヴァカニスが消えかけた瞬間――


 ――ボンッ!


 火球が直撃し、爆風が辺りの霧を吹き飛ばした。


「今だ!」


 レオンとセリアが一気に距離を詰め、剣と双剣で斬りかかる。


 ――そして、モンスターは光の粒子となって消滅した。


「よし、片付いたな」


 ……そう思った瞬間だった。


 光の粒子が消えきる前に、また同じシルヴァカニスが目の前に現れた。


「……え?」


「復活した……?」


 俺たちは思わず目を見合わせる。


「待て、シルヴァカニスってそんな特性あったか?」


 レオンが眉をひそめる。


「いや、そんなはずない! シルヴァカニスは霧に紛れる不可視能力は持ってるが、復活能力はないはずだ!」


「ゾンビ系のモンスターじゃないのに……?」


「もしかして……異常個体か?」


「とりあえず、もう一度倒して確かめるしかない!」


 俺たちは再びシルヴァカニスを倒した。


 しかし――


 また、光の粒子が集まり、シルヴァカニスが復活する。


「……!」


「違う、これは……普通の異常個体じゃない!」


「何度倒しても、こいつだけ復活する……?」


 レオンが険しい表情を浮かべる。


「バグ……じゃない?」


 セリアが不安げに呟く。


「……逃げるぞ」


 俺はそう判断し、仲間たちに指示を出す。


「何度倒しても同じなら、無駄に戦う必要はない」


「たしかに、相手が不死身なら戦う意味ないね……!」


 俺たちはすぐに撤退し、全力で森の出口を目指した。




「……なんだったんだ、今の」


 森の外まで逃げ切り、息を整える俺たち。


「普通、倒したモンスターは一定時間リポップしないはずだろ?」


「ゾンビ系なら分かるけど、狼型であんなのはおかしい」


「もしかして……ゲームのエラー?」


 セリアの言葉に、俺たちはしばし沈黙した。


「まあ、一応ゲーム会社に報告しとくか」


 レオンがそう言い、バグ報告のメニューを開いた。





 モニターには、異常報告のログが淡々と流れていた。


 黒幕と呼ばれる男は、静かにデータを確認する。


「……エラー? こんなところで?」


 手元の端末を操作し、エラーの発生源を解析する。


 数秒後、原因が表示された。


「……なるほど。"残滓"がまだ動いているのか」


 一瞬、彼の指が止まる。


 意外だったのか、それとも単なる誤算か――。


 だが、次の瞬間には肩をすくめ、興味を失ったように視線を逸らす。


「まあいい。いずれ消えるものだ」


 それ以上、考える価値はないとばかりに、男はモニターを閉じた。



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