第十話
【リア・クレスト / 冒険者ギルド】
「さて、次のクエストはどうする?」
ポルクス討伐を終えた俺たちは、ギルドへ戻り、戦利品の確認をしていた。
「報酬もそこそこだったし、そろそろ装備を見直したいな」
レオンが武器を手に取りながら言う。
「それなら、もう少しお金を稼ぐクエストを選ぶ?」
エリスがギルドの掲示板を眺める。
「でも、ストレイがいるなら、ちょっと難しいクエストもいけるんじゃない?」
セリアが期待したように言う。
「まぁな。……でも、無理はしないほうがいい」
(俺は死ねないからな)
「それじゃ、これなんてどう?」
【討伐依頼】"フェロピテクスの巣の制圧"
「フェロピテクス? あー、前に戦ったやつか」
レオンが気楽そうに腕を組む。
「フェロピテクスなら、もう動きは分かってるし余裕じゃない?」
「確かにね。ポルクスよりずっと楽そう」
エリスも頷く。
(……確かに、一度戦った相手なら、対策もしやすい)
「よし、決まり!」
俺たちは新たな依頼を受け、再び戦場へ向かった。
森の奥、洞窟の中にフェロピテクスたちはいた。
「うわ、結構いるな……」
「まぁ、こういうのは一気に攻めるのが基本だ」
「魔法でまとめて削るよ!」
エリスが詠唱を始める。
「《ファイアボルト》!」
火球が洞窟内に飛び、爆発する。
「ギャギャッ!」
フェロピテクスたちが騒ぎ出し、こちらに向かってくる。
「まぁ、相手の動きはもう分かってるし、そこまで苦戦しないでしょ?」
セリアが余裕そうに言う。
「でも、油断は禁物だ」
俺はポーチから《スリップポーション》を手に取りながら言った。
「《スリップポーション》!」
俺が足元にポーションを投げると、フェロピテクスが転倒し、そこへレオンが一閃を加える。
「ナイス!」
「問題ない。数を減らせば楽になる」
戦闘は順調に進み、最後のフェロピテクスを倒した時だった。
――キラリ。
光る欠片が、ゆっくりと地面に落ちた。
そして、俺たちの前にシステム通知が浮かぶ。
《記憶の断片》をドロップ! 所有者:セリア
「……え、私?」
セリアが驚いたように通知を見つめる。
「おお、セリアか! 記憶の断片、ゲットおめでとう!」
レオンがニヤリと笑う。
「えっと……『記憶の断片』って?」
俺が聞くと、エリスが目を丸くする。
「ストレイ……本気で言ってる?」
「え?」
「『記憶の断片』って、ゲーム内のスキル習得アイテムだよ。これを使えば『記憶』――つまり、スキルを覚えられるの」
「そ、そうなのか……」
(ヤバい。完全に知らない反応をしてしまった)
「……お前、まさかチュートリアル飛ばしたとか?」
レオンがジト目で俺を見る。
「……まぁ、そんなところだ」
「ええええ!? このゲームの売りって『記憶』で強くなることなのに、それすら知らなかったの!?」
「……なんか似たようなゲームをたくさんやってきたから、あまり細かく確認してなかった」
適当にごまかす。
「まぁ、チュートリアル面倒だしな……」
エリスが苦笑する。
「じゃあ、セリアが使うんだね!」
「そ、そうみたい……」
セリアが恐る恐る『記憶の断片』を使用すると、彼女のステータスに新たなスキルが追加された。
「《アクセルストライド》……瞬間的に加速できるスキルみたい!」
「おお、いいな! じゃあ、次からもっと素早く立ち回れるんじゃないか?」
「うん! これ、もっと集めたいね!」
「まぁ、ドロップ率は低いし、無理して狙うものじゃないけどな」
レオンが肩をすくめる。
(……『記憶』か)
俺はふと、自分のスキル欄を開く。
そこには、何もなかった。
(俺は……『記憶』すら持っていない?)
違和感を覚えながら、俺は仲間たちの会話を聞いていた。
「さて、報告に戻るか」
俺たちはギルドへ戻り、討伐の成果を報告した。
【クエスト完了】フェロピテクスの巣の制圧
▶ 報酬:1000ゴールド
「1000か……さすがに多いな」
「これで装備を強化できるね!」
エリスが嬉しそうに笑う。
「ストレイ、次はどうする?」
レオンが俺を見た。
……俺は、このゲームの仕組みを知らなければならない。
そうすれば、"自分が何者なのか"も分かるかもしれない。
「もう少し、この世界を知る必要がある」
そう呟きながら、俺たちは次のクエストを探し始めた。