異世界最強
「くそっ、くそっ!!」
病室には、左手の拳を力強く握り、机に叩きつける音と、男のわめき声が聞こえる。
その男の名は宮川丈太郎。
3か月ほど前、異世界ハシビロ王国に魔王を倒すべく召喚された、異世界勇者だ。
異世界召喚時の、能力で右腕に、剣力創造という、剣の力が無限に湧き出てくるチート能力を持っていた。
丈太郎は、その能力と、王国から与えられた神剣で、数多くの強敵と戦っていた。その結果は、350戦350勝。ハシビロ王国最強の剣士と言われ、王国近衛騎士団の副団長になった。
そしてついに、魔王城に到達した丈太郎。ハシビロ王国にいた時は、何百といた近衛騎士団のメンバーは、魔王城に来るまでの度重なる罠にハマり脱落していったものがほとんど。魔王城に着く頃には十数人しかいなかった。
しかし、その仲間たちも万全と言える状態ではなく、戦えるのは丈太郎だけだった。
そして魔王との決戦。
その試合を見ていた者たちは言う。
「あまりにも圧倒的だった」と。
丈太郎は、勇者として。王国のために全力を尽くしたが、それでも遠く及ばなかった。
丈太郎は、その戦いでチート能力を持っていた右腕と、ハシビロ王国の神剣を失ってしまう。
丈太郎が戦えなくなり、近衛騎士団は敗戦。
これは、近衛騎士団としても、丈太郎としても、初めての敗戦になった。
そして、今に至る。
「丈太郎様!!いい加減にしてください!!物に当たるのは辞めてくださいって、言いましたよね!!」
俺の看護を担当している、ロリルレなんとかが、鬼の形相で俺のとこへ向かってくる。
「うるせぇ!」
俺は怒りと悔しさに任せてそういうけど、ロリルレなんとかが言うことは正しい。俺は魔王に負け、団長に、「お前はもう近衛に来なくていい。」と言われた時から、物に当たるようになっていた。俺が壊したものは全て病院がお金を出して治してくれているらしい。
「そんな態度だから!!王国から捨てられるんです!!」
・・・そうだ。俺は体の状態が万全になったらこの国から、捨てられる。
時は遡り三日前。
俺は王国近衛騎士団副団長兼魔王討伐隊隊長
だった。
しかし先日、俺が率いる魔王討伐隊は壊滅。俺は魔王との戦いで右腕と神剣を失った。
王国に帰った俺達は、まず国王に呼び出された。俺は魔王討伐失敗の罰で、隊長を辞めさせられ、魔王討伐隊は解散した。正直、ここまでは俺の想定内だった。ハシビロ王国は、結構な実力主義王国で、右腕がなければ凡人の俺にもうあまり期待をしなかったんだろう。しかし、俺は王国近衛騎士団副団長の肩書きも剥奪された。
俺は意味がわからなかった。
確かに戦力にはならないかもしれないけど、数多の魔王の手下達を倒してきた。そして勇者という名で唯一魔王城まで到達したのだ。
その名誉をたたえてほしいとかとは言わないけど、すぐ解雇とかありえない。
実力主義って言う割に近衛騎士団の隊長は、国で生き残るためにお金で隊長の座を買ったとか言われていて、今回の俺の副団長解雇にも隊長が関わっているらしい。
悔しいなぁ。世界は結局金なのか。
帰り道、国の人には散々な言われようだった。「350戦無敗はデタラメだ。」「その腕と剣は飾りか?」「お前が勝っていればこの国の未来は明るかったのになぁ」とか。
翌日、団員として、近衛の元へ行ったけど、隊長に言われたのがあのセリフだ。
お前はもう来なくていいと。
俺は死ぬほど悔しかった。そこで俺は、「あんたは金で地位を買っただけで、そんな事俺に言える権利はない!それに、新しい副団長を、七歳の自分の子供にしやがって!!あんたが国を弱くしてんだよ!!」って言っちゃった。俺はもちろん近衛騎士団を辞めさせられ、団長は、国王を脅し、俺を国から追放とさせた。しかし今までの最低限の功績としてズタボロの体を治すことだけは許された。それで俺は今病院にいる。
今振り返ってみればなかなかひどい話だ。勝手に異世界に召喚しといて勝手に最強にして、捨てられる。
平民に生まれていればこんなことには絶対ならなかった。俺が強すぎて周りが全く活躍できないから俺は近衛騎士団から嫌われている。というのもの噂で聞いたことがある。
たぶんそのへんがいろいろ結びついちゃったんだろうな・・・。
今から俺は魔族領の端っこの方に置いていかれるらしい。一応俺はハシビロ王国に帰ってもいい条件が出された。それは魔族領の魔物を全て狩り尽くすというもの。明らかに無理だし、今更帰る気もない。
「おい、ついたぞ。ここが魔族領を囲っている無限の森だ。一度入ったら抜け出せないらしいから気を付けてな。」
気をつけるとかそういう話じゃない。てかそもそも武器もなけりゃ入って速攻死ぬだろ。
「武器とか、食料とかは?」
「・・・は?お前にやるものなんてなんもねえよ。非国民とはここでおさらばだ。」
もうそんなあだ名がついてるのか。まぁいいよ。俺が死ぬのは時間の問題だし。
「あばよ、お前が生き残って国に帰って来る日を楽しみにしてるからな。」
「そんな事ありえねえって分かってるだろ。」
俺がそう言うと、男は笑って馬車に乗り、王国方面へ帰っていった。
目の前には膨大なでかい森が広がる。
「フゥ〜〜」
俺は一息吐いてから森へと入った。
すると、あたり一面が紫色の森に変化した。
なるほど。この森には不思議な結界が張られているっぽい。とりあえず俺は進んでみる。
死ぬのは嫌だ。だけどもう死ぬしかない。異世界に来るとき言われたけど、俺は元の世界で死ぬ直前に召喚されたらしい。記憶は薄っすらとしか覚えてないけど。
つまり今俺が生きてるのは食後の後の美味しいデザートみたいな感じ。
だから俺は死ぬのは嫌だけど、あんまし怖くはなかった。
そんな事を思いながら歩いていると、急に強烈な血の匂いがした。
近い!!
近くで何か起こったんだ。
俺はしげみに身を隠し、こっそりとその匂いの方へ近づいていく。そこで見たのは…
「やめて!!こっち来ないで!!」
そう言って魔物相手に盾を持ちながら木の棒を振ってるかわいい女の子だった。
俺はとっさに飛び出してしまった。
「やめろ!!そこまでだ!!」
そう言った瞬間俺は思った。
俺武器持ってないから何もできなくね?